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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
追憶の時計塔
146/162

144.確定事項

3話目ぇ!

 窮鼠猫を噛む。

 そういう言葉もある。

 カーマ・クロウズは、控えめに言っても終わってる。

 詰んでいる。

 巌人はそう考えていた。


 自分だけならいざ知らず、ここには枝幸紗奈が居る。

 英傑の王が居る。

 その時点で逃げられる可能性は限りなく低い。だけど。


(なんだ……この、嫌な感じ)


 カーマは、床に座り込み、顔を俯かせている。

 明らかに形勢はこちらの有利。

 もはや、覆しようが無いように思える。

 しかし、言い表せようのない『嫌な感覚』がある。

 それは、隣の紗奈も同じか、なんとも言えない表情を浮かべていた。


「……巌人くん。捕らえるなり殺すなり、早くした方がいい。なんだろうね、とっても嫌な予感がしないかい?」

「同感ですね。黒幕にせよ……その末端にせよ。()()()()()()()()()()()()()()()


 巌人がそういった……次の瞬間。

 凄まじい『揺れ』が地下室を襲い、巌人たちは目を見開いた。


「な……!?」

「ちょ……! これ、地震なんてレベルじゃなくない!?」


 紗奈が、あまりの揺れに叫ぶ。

 巌人は焦ったようにカーマを見る。

 彼は俯いたまま動こうとはせず、咄嗟に胸ぐらを掴んでその顔を見下ろした。

 そして、目を見開いた。

 だって男は、動揺していたから。


「な、なんだ……何が起こっているんだ……!?」


 その言葉に、一切の嘘偽りを感じなかった。

 巌人は思わずカーマから手を離す。

 彼は呆然と座り込んでおり、彼を見下ろす巌人へ……外の状況を異能によって把握した彩姫が声を上げた。


「い、巌人さま! そ、外が……!」

「……どうなってる。嫌な予感しかしないんだが……」


 現に、あの【英傑の王】が剣を鞘に戻している。

 悪を前に、手を引いたのだ。

 それがどれほどまでの異常事態か。

 ここにいる全員が理解していた。


 巌人は、浮遊している彩姫を見上げる。

 彼女は既に、顔面蒼白だ。

 絶望がその瞳には宿っていて。

 彼女の言葉は、巌人らを直ぐに動かすに足るものだった。



「この国の()()()()()()()()! か、壁の外から……神獣級の群れが、やってきます!」




 ☆☆☆




 巌人らは、地上へと走り去ってゆく。

 その後ろ姿を見ながら、カーマ・クロウズは考えていた。


「し、神獣級の……群れ? は、ははっ! 防壁が消えた! ということは、あの方が近くにやってきている! 私を救いに来てくださったのだ!」


 彼は呆然から一転、歓喜の声を上げる。

 そして――グサリと、彼の胸から手が生えた。


「…………はぇ?」

「うっせぇなぁ、お前。おい白河(しらかわ)、コイツで合ってんだよな?」


 それは、聞き覚えのない声だった。

 背後を振り返る。

 そこには、白髪の男が立っていた。

 日本人……いいや、似ているが違う。

 その男はカーマの背中を貫通した手を抜くと、途端に鮮血が溢れ出し、カーマは力を失ってその場に倒れる。

 そして、どこからか足音が聞こえてきた。


「あぁ。実によくやってくれた、カーマ・クロウズ。南雲巌人、及び枝幸紗奈。計画に邪魔な2人を、よくぞこの局面で集めてくれた」


 その男の声に、カーマは覚えがあった。

 声だけじゃない。

 気配、足音、風格、圧迫感。

 ――強者としての存在感。

 そのひとつとっても、今まで感じたことの無い重圧だ。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()



「あ、あなたさま、はぁ……!」


 男は、足音を立ててカーマの眼前へとやってくる。

 掠れゆく視界に、白髪が映り込む。

 最上級位能力者である証明。

 SSSを超えた、EXの体現。

 そんな人物、カーマはその男を除いて他には知らなかった。

 今、この瞬間までは。


「な、ぜ……!」

「何故。理由を聞いているのかな?」


 男は、カーマの前で立ち止まり。


 そして、その頭蓋骨を踏み砕いた。




「――君の仕事は終わった。なら、生かす価値もないだろう」




 死体が痙攣し、気味の悪い踊りを見せる。

 しかし、頭蓋を壊されたカーマの体は次第に力を失ってゆく。

 それを一瞥もせず、白髪の男は天井の穴へと目を向けた。


「ひー、おっかね。不要とみると、即殺かよ」

「安心してくれ、(ワン)。私が切り捨てるのは、出来損ないだけ」


 白髪の男は、生命体としての到達点に位置していた。


「少なくとも、君たちは違う」


 男は指を鳴らした。

 瞬間、目の前へと【ワープゲート】が現れる。

 その中から現れた異形の腕が、カーマの死体を掴み、回収してゆく。

 その光景を一瞥した男は、空の光に目を細める。



「今日は、とてもいい天気だね」



 空は快晴、どこまでも青空が広がっていた。

 実に良い【破壊日和】だと、男は笑う。


「何故、異能を失ったのか。聞こうとは思わないよ」


 自分たちを除き、唯一白髪に至った男。

 最強の異能力者。

 この男が1度は倒すことを諦めた化け物。

 そんな彼へ、男は感謝していた。

 最強の座から降りてくれてありがとうと、感謝していた。


 ありがとう、最強ではなくなってくれて。

 おかげで今では、こちらの方が強いのだから。



「南雲巌人。君はここで死んでもらうよ」



 それは、既に確定した事項であった。




 ☆☆☆




「クソッタレ……!」


 外の光景を見て、巌人は吐き捨てた。

 外には、地獄絵図が広がっていたから。


「あ、ぁ、……! し、神獣級が、あんなにも!」


 街中を逃げ惑う人々と、多くのアンノウン。

 その大半が幻獣級以上。

 聖獣級もザラに居るし、神獣級も多く見える。

 それを前に巌人は歯を食いしばる。


(なんだ、なんだよ……これは!)


 ふと、視界の端に襲われている女性が映った。

 巌人は一息にその場へと動いて、アンノウンの頭に蹴りを食らわせる。

 一瞬でアンノウンは弾け飛び、返り血を浴びた巌人は後方の紗奈たちへと声を上げた。


「紗奈さん!」

「さすがにこれはまずいね……。とりあえず、彩姫ちゃん。これあげる」

「へっ?」


 そう言って、紗奈が彩姫へと渡したのは――フラスコだった。

 中には赤黒い液体が入っていて、それが血だと理解した彩姫は目を見開く。


「君、強い人の血を飲んだら、強くなるんでしょ? 巌人くんから、是非血を分けてやって欲しいって言われててね。……ここで飲んでくれないかな。正直、私と巌人くんだけじゃ荷が重くてね」

「は、はい! あ、ありがとう……ございます!」


 彩姫は紗奈と、そして巌人に感謝した。

 その姿に紗奈は微笑み、そして、剣を抜いた。


「さーて。君たちがどういう魂胆で襲ってきてるのかは知らないけど、人を殺してるわけだよね? なら悪だよね? 殺していいよね?」


 あまりの狂気に、彼女の視線を受けたアンノウンの全てが振り向いた。

 そして、その瞬間には死んでいた。

 全員が血潮を巻き上げ倒れ伏し、彼女は血糊の付いた剣を振るう。


 その光景に、彩姫、グレイ、入境は唖然と目を見開いた。

 見えなかった、なんてレベルじゃない。

 何をしたのかも分からなかった。


「ん? あぁ、飛ぶ斬撃ってやつだよ。実は、数年前に巌人くん並に馬鹿みたいな強さした物理野郎と戦ってねー。あの時から、遠距離攻撃もみにつけたんだよ

「そ、そうなんですか……」


 彩姫は察した。

 多分、血を飲んでもこの人の足元にも及ばない。

 それでも。彼女は喉を鳴らすと、一気に紗奈の血を飲み干した。


「ぉぉー」と、紗奈が声を上げる。

 と同時に、彩姫の体内で、強烈な痛みが弾けた。


「ぐぅっ!?」


 ドクンッ、と心臓が鼓動する。

 体の中が熱くなる。

 あまりの異常に大粒の汗が吹き出す。


 だが不思議と、嫌な感覚ではなかったのだ。


「……大丈夫かい、ヴァンプガール」

「……はい。もう、……大丈夫です」


 数秒で、彼女の異変は収まった。

 彩姫は拳を握る。

 先程までとは、比べ物にならない力が流れている。

 顔を上げた彼女の目は、赤く爛々と輝いている。


「……へぇ、巌人くん。すごい子を連れてたんだねぇ」


 紗奈は笑い、彩姫は1歩前へ出た。



「ありがとうございます。これで、私も戦えます」




 ──────────────

 名前:澄川彩姫(吸血鬼)

 年齢:十四

 性別:女

 職業:学生(高校生)・特務A級隊員

 闘級:百三

 異能:六神力[SSS]

 体術:B

 ──────────────



 ただ、血を飲んだだけ。

 それだけで百を超える闘級に驚くべきか。

 あるいは、それほどの潜在能力を宿した吸血鬼に驚くべきか。


 はたまた、それを為した紗奈の血液に驚くべきか。


 彩姫の姿を振り返った巌人は、拳を握る。

 これで、現在用意できる最大戦力は用意できた。

 目の前には多くのアンノウンと、人の死体。

 アンノウンは人を愉悦混じりに嬲り、殺し、食らって捨てる。


 その光景に、彼は一切の情けを捨てた。


「悪逆卑劣……ッ。もう、手を抜いて貰えるとは思うなよ」


 巌人はそう言って、拳を構えた。

 既に、この国は手遅れかもしれない。

 少しだけ、アンノウンの侵入に対応が送れた。

 たったの五人でこれだけの数を相手するのは、無謀に尽きる。

 だとしても、そうだとしても、1人でも多くの命を守ることは出来る。


「ふぅぅぅぅ……」


 大きく息を吐き、目を見開いた。



「本気で潰す。紗奈さん、皆。足でまといは御免ですよ」


「ありっ? それ、誰に言ってるか分かってるかな?」



 紗奈は剣を振るい、巌人は拳を振るう。

 それだけで聖獣級が粉微塵に消滅し、神獣級もダメージを受けて後退る。

 その目には、驚愕だけが映っていて。



「その、命を持って償ってもらうぞ、黒幕野郎」



 巌人は、そう言って一気に駆け出した――!


ここら辺から闘級がインフレしてくる。

ちなみに巌人が自分の血液を与えない理由は、一気に闘級が上がりすぎて彩姫の体が耐えられないから、です。

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