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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
追憶の時計塔
144/162

142.大図書館の真実

数年前に考えていたこの物語のエンディング。

終章間際ってこともあって見直してみたら、すっかり忘れてた伏線とかもありました。


 その後。

 特務の高速輸送機により日本へと輸送された黒い神獣級。

 ――否、アンノウンのなり損ない。

 巌人は遠ざかってゆく輸送機を見据えながら、背後の気配へと話しかけた。


「で、グレイ。話って?」


 場所は、戦闘後の大通り。

 ベンチに座った巌人は、背後に立ったグレイへの口を開く。

 その姿は、いつも通りの彼のようだが……彼をよく知る人間、彩姫らにとっては、どこか恐ろしくも感じた。

 冷たい怒りというのは、こういうものなのだろう。

 彼女は喉を鳴らし、ベンチの背に座るグレイは肩を竦めた。


「そぅ、急くものでは無いと思うよ? それに落ち着きたまえ。まぁ、重要だとは思うけれど……説明を2度するのは面倒だからね」


 背後を振り返ると、グレイの前方、遠くから見慣れた二人がこちらに来るのが見えた。紗奈と入境だ。

 グレイはその二人を見据えると、巌人へと振り返る。


「それに、場所を変えよう。こんな、公衆の面前で話すことではないからね」


 その言葉に、巌人は頷き立ち上がる。

 彼らのすぐ近くでは、この国の特務が慌ただしく動いていた。




 ☆☆☆




 場所は変わり、拠点としている小さなアパート。

 巌人、紗奈、グレイ、彩姫、入境。

 5人の『怪物』が念入りに『盗聴がない』と探った後、グレイはソファーに腰掛け口を開いた。


「それじゃ、始めようか。私が見た嫌な話を」

「嫌な話ー? そんなら聞きたくないんだけどなー」


 紗奈が早速突っかかる。

 彼女も、巌人から話は聞いていた。

 人が、アンノウンにされたかもしれないこと。

 人型のアンノウンは、元は人間だったかもしれないこと。

 それに対する彼女の反応は『へぇー、悪いことするやつも居るもんだね。殺すリストの1番上に乗っけとくよ』との事だった。

 声色はとても軽いが、言ってることは酷く重い。

 きっと、彼女の中でも憎悪の感情が滾っているはずだ。


 だが、巌人の『ソレ』は、彼女をも上回る。


「紗奈さん、話が進まない」

「……ひょー。おっかない。ごめんね黙るよ」


 紗奈が素直に話を聞くほど、巌人の眼は冷たい光を宿していた。

 数年前、彼がまだ棺を背負っていた頃と比べると、まだ赤子のようにも感じられるが……紗奈は理解した。

 きっと彼は、確実に【あの頃の強さ】に近づいている。


(……まぁ、悪い方向じゃないみたいだけどね)


 紗奈は、その横顔を見てそう思った。


「……では、話始めようか。……まず、最初に確認事項。私たちはあの図書館へ潜入した。巌人ボーイは、囮としてクレーマーな客を演じ、私とヴァンプガールは一般客に紛れて忍び込んだ」

「その後の展開としては、私はカーマ・クロウズという者が魔術師だと探り当てることが出来たのですが……」

「そこの犯罪者が、それ以上の『何か』を見つけちゃったわけかー」


 紗奈はそう言って、グレイを見る。

 その目に急かされたように汗をかいた彼は、早速本題へと入った。



「簡潔に言えば、私が見たのは【神獣級】の死体だったよ」



 その言葉に、その場にいた全員が驚きを見せた。

 神獣級、それは本来一体で一国を滅ぼせるだけの怪物だ。

 日本のように、異常な戦闘力を持つ異能力者が複数名存在するのは稀中の稀だ。多くの国は、強くても闘級60程度。一般には50にも満たない異能力者がいれば御の字と言ったところ。

 それに対し、神獣級は最低でも闘級『100』。

 そう考えるだけで、いかに強いのかが理解ができる。


「……この国に、100超えの異能力者は」

「居ないと思いますよ。僕はこれでも、絶対者を除けば1番強い特務隊員と言われていますが、それでも闘級は70程度」

「ま、それが普通なのだがね。君たち基準で考えない方がいい」


 グレイが入境の言葉を後押しする。

 その上で言葉を重ねる。


「無論、見たのはそれだけじゃないよ。神獣級の死体はコールドスリープ? のような状態で凍らされていてね。もちろん死んでいるから溶けたとしても動かないのだろうけれど。……問題は、それを囲っていた()()()()()さ」

「……魔術師たち? もしかして……魔術師は複数存在するのかい?」

「ノン! そうじゃない。あの図書館は()()()()()()()()()()()入境ボーイ」


 グレイの言葉に、彩姫は息を飲む。

 巌人や紗奈も難しそうに顔をゆがめる。

 その中で、巌人は思い出したように口を開いた。


「……そういえば、言ってたな。酒呑童子以上、と」


 酒呑童子、紡の父より強い存在。

 そんなものは、長らく戦って来てた中でも二人しか知らない。

 最強のアンノウン、玉藻御前。

 そして反射のアンノウン、獄王ディアブル。

 酒呑童子が今も生きていたら、と仮定すれば話は別だが、当時、戦った時の酒呑童子より強いアンノウンはその2体しか巌人は知らない。

 どころか、紗奈も、他の面々も知りはしない。

 その上で、グレイは確信していた。


「YES。明確に言おうかね。酒呑童子より強いアンノウンが、何者かに殺されて図書館下に隠されていた。しかも、魔術師たちがそれを研究しているというオマケ付きさ」


 彼の言葉に、巌人の表情が目に見えて曇った。

 その姿を横目に見ながら、紗奈は考える。


「酒呑童子より……ねぇ。でも、すごいね。そんなアンノウンが殺されるなんて。私や巌人くん以外、そんな化け物倒せる怪物居ないでしょ? なのに殺されてる。神獣級の、メチャ強アンノウンが?」


 と、そこまで言って、紗奈は至った。



「それ、アンノウンの【製作者】が関わってるんじゃない?」



 紗奈の言葉に、巌人は大きく目を見開いた。

 ……やっぱり、この人はもうそこまで考えていたみたいだ。

 アンノウンが何者かに作られたとして。

 その人物ならば、神獣級のアンノウンを作り、その体を研究……いいや、実験の素材として用いることも出来るはず。


 例えば……そう。


 ()()()()()()()()()()()()()()、とか。


「製作者……? な、なんのことでしょうか?」

「いやー、ね? だっておかしくない、この世界? ある日唐突にアンノウンが出てきて、同時に異能がでてきた。そんなの意図的じゃないわけが無いでしょ?」

「た、確かに……っ、と、ということは……!」

「そう。亜人……ボクや彩姫ちゃんみたいな存在も、何かしら影響があって産まれてきた。そう考えて間違いないと思うよ」


 彩姫に伝えたくないことをズバズバ言ってゆく紗奈。

 そんな彼女を巌人は睨んだが、本当に言って欲しくないことだけは守ってくれたため許容した。

 巌人は大きく息を吐くと、改めてグレイへと視線を戻す。


「つまり、魔術師は情報提供者……なんてレベルじゃなく、魔術師こそが、その製作者側の存在である……かもしれないと」

「イエスオフコース! その通りさ巌人ボーイ。ヴァンプガールも言っていただろう? 怪しいなんてもんじゃない。確実に黒さ!」


 その言葉に、巌人は紗奈を見た。

 彼女はなぜ自分を見るのかと首を傾げていたが、すぐに理解する。


「……やだなー、巌人くん。まさか、ボクが一人で突っ走るだなんて思ってる?」

「思ってるから見てるんですが」

「ひっどーい。ボク、犯罪者の言うことなんて信用してないよー」


 チラリとグレイを見ていう紗奈。

 しかし、直後には楽観から一転、真剣な表情を浮かべた。


「けどまぁ、調べてみる価値は大いにあるよね」

「そうですね……。話を聞いている限り、確実に捜査を入れるべきでしょう。そも、アンノウンの研究は万国共通で禁止されているはず。特例で認められていない限りは、それだけで法に触れます。……そして、この国において特例は出ておりません」


 入境の言葉を受け、紗奈は立ち上がる。


「つまり、悪いことしてる、ってことだよね。うん、それじゃ、巌人くん。とりあえず行ってみようよ。雁首揃えて威圧満載で飛び込んで、何も無ければアンノウンの研究を理由に殺す。何かあればそれを理由に殺す」

「……相変わらず、残念なまでの脳筋っぷりですね」


 巌人はそう言って頭をかいた。

 彼の言葉に肯定するように彩姫が首を縦に振り、グレイも頷く。

 その作戦はあまりにも無謀すぎる。

 なんの対策もない、純粋に真正面から踏み潰すだけの作戦。

 本当に魔術師が『製作者側』だと言うのなら、危険すぎる。

 だからこそ、彼女らは巌人の言葉を肯定した。


 だが、巌人の口元には笑みが浮かんでいた。



「ですが、僕も乗りました。その作戦」



「「な……!?」」


 二人の驚いた声が響く。

 紗奈も少なからず驚いていたようで、目を丸くしていた。


「……? なんか、変わったね、巌人くん」

「そりゃ、人は変わるものですからね」


 紗奈の声にそう返し、巌人は立ち上がる。

 窓の外には、図書館が見えている。

 その地下に眠るとされる、化け物級のアンノウン。

 その正体は不明にしても……アンノウンにされた女の子と、街中に響き渡らなかった出現警報は無視できない。


「もしも、襲ってきたあの神獣級が、あの図書館で造られたものならば」


 あの時、あの場所で襲われた理由も。

 警報がならなかった理由も、辻褄が合う。


 巌人は、拳を強く握りしめる。


 脳裏に映るのは、最愛の妹の姿。

 アンノウンと人を繋ぐため、親との血の繋がりさえ捨て、人間になった少女の姿。彼女が『ニンゲンにしてほしい』と頼んできた時、その表情はとても思い詰めたものだったのを、よく覚えている。


「人とアンノウンの共存」


 それを、酒呑童子が望んでいたという。

 その事実を、もはや楽観的に捉えることは出来なくなっていた。

 もしも、酒呑童子が後天的にアンノウンへと変えられた、元人間だったとしたら。

 彼が生涯かけて掲げた目標が。

 その娘が心に決めた覚悟が。

 ……誰かの掌の上の出来事だとしたら。


 きっと巌人は、その【誰か】を許せない。


 静かな怒りが燃えている。

 瞳は冷たい光を宿し、ただひたすらに拳を握る。



「行こう。今回は、さっさとケリをつけたい気分だ」



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― 新着の感想 ―
[良い点] かっこよいよ!巌人くん!! [一言] 紗奈さんの脳筋っぷりが大好きです!!ヾ(*´∀`*)ノ
[一言] いやー、お久しぶりです。 本当に、、、
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