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ワールド・レコード  作者: 藍澤 建
兄と妹
123/162

123.黒棺の王VS電脳王

 それは、振動と共に現れた。


「棺の王。初めに言っておきます」


 彼女は笑う。

 僕は銃口を構え、奴を睨む。

 されどその余裕は決して揺るがず――ただ、その両腕を大きく薙いだ。


「――私はおそらく、あなたの天敵になり得る者です」


 それは、金属の塊だった。

 四方の壁から産み落とされた巨大な金属。

 それは槌のように空気を押し潰す勢いで四方から迫り、咄嗟に構えていた銃を周囲へと撃ち鳴らす。

 空の薬莢が四つ続けて地面に転がり、そして、迫り来る鉄塊が――消失する。


「消失弾――『消失(イレイズ)』」


 青い光が瞬く。

 それは僕の異能特有の効果エフェクトのようなもの。

 この能力は強力な反面、操作をマスターするのに気の遠くなるような反復練習と実験を繰り返さなければならず、心に焦りが生まれればそれだけで制御がブレるほどに緻密な技術が必要となってくる。

 加えて、能力を使用する際に必ず現れる青い光。

 それは相手へと『今から攻撃する』と教えているようなものであり、ある意味この力における最大にして最悪のデメリット、弱点でもある訳だが――


「ま、分かってどうなる力じゃないがな」


 呟き、地面を思い切り足裏で叩きつける。

 途端、青い光が周囲に瞬き――次の瞬間、視界内を瞬く間に『氷結』が埋め尽くす。

 存在力操作――『氷結・五十』

 先程まで転がっていた家電は既に氷の下。

 奴が組上げた機械の塔は既に氷漬けとなっており、吐き出した息が氷結による影響か白く色付いてゆく。


「悪いな、多分この力は【最強】だ」


 この力は、ただ純粋に強いのだ。

 あらゆる力を無効する能力を持っていたって、それ自体に介入して存在力を消してしまえば無能と化す。

 一撃必殺の拳を持っていても、拳の威力に対して介入し、その存在力を消してしまえば指一本で受け止められる。

 全てを弾く防御力も……まぁ、以下同文。

 不死の力も、万物両断の力も、致死の毒も何も効かない。

 まぁ、長年この力を使ってきて、遠距離から一方的に即死喰らうようなクソチートがあれば負けるかもな……とはたまに思うが、よく考えたら自分の体に『即死耐性・百』セットしてある時点でそれも効かない。

 それ以外で言えば……そうだな。光速で一撃必殺喰らわして来るような相手はちょっと嫌だが、僕は即死しないから、その攻撃を食らった刹那に相手の存在力を消しさればそれで十分事足りる。

 触れても勝利、逆に触れられても勝利。

 つまり、何が言いたいかと聞かれれば。


「天敵? 悪いが苦戦する理由が見当たらない」


 残念だが、【黒棺の王(ブラックパンドラー)】に敗北は在り得ない。

 それは誰が相手であろうと、恐らく変わらない。

 酒呑童子であろうと、そして、お前であろうと。

 そう、白い息を吐き出して――


「ええ、勝てるだなんて思いませんとも。私から見てもあなたを殺す方法なんて一つたりとも思いつきません」


 声が響き、ピクリと耳が反応する。

 同時に指を鳴らすと右前方の氷が大きく隆起し、無数の牙となってその空間を抉り斬る。

 その直前、その場所からはひとつの人影が飛び出しており、異能発動と共に構えていた銃口が火を噴いた。

 ――が、しかし。


「私の思う最強は『全能力の保有』、あるいは『能力強奪』だったのですが、そんな力を持っていたとて触れた時点で消されるのでは無意味ですよね」


 途端、氷を突破って現れる機械の塊。

 電脳王――本名は知らない。

 奴の力はおそらく……というか、確実に機械機器を支配し、操る系統の能力だろうと思う。しかも並の能力ではなく、まず間違いなくSSSランク……あるいはそれ以上も考えられる超高位の異能力。

 放たれた弾丸は機会の壁を消失させるだけで奴の元には届かず、安全に地面へと着地した電脳王へと嫌味を込めて笑みを浮かべる。


「なに、やろうと思えば触れなくたって存在力は操れる」

「でしょうね。まぁ、難易度が高く人間相手には使えないようですが、貴方がその能力を極めれば……おそらく、即死も無敵も無敗も不屈も、視認することなく消滅させることが出来るのでしょう。末恐ろしい力です」


 同感だ、この上なく。

 だからこそ、この力はここであえて止めている。

 成長するのを、やめている。

 でないとこの先、もしも僕が狂って道を外れた時、あるいは想定すらつかない方法で操られ、敵に回ってしまった時、誰も手がつけられなくなる。

 まぁ、今の僕でさえ止められる存在なんざ居ないだろうが、それでもまだ『最悪』よりはずっとマシだ。

 なにせ、『無理臭いが、もしかしたら奇跡的に倒せる()()()()()()』って手段が良く考えれば幾つか浮かぶ。

 こんなもの、最悪でもなんでもないだろうさ。

 考えながら、僕は奴の操る機械へと意識を向ける。

 操作は……難しいか。触れれば間違いなく可能だが、今現時点においてあれらは奴の支配下にある。遠距離から一方的に操作するのは限りなく難しい。

 となれば、奴を殺る手段は限られる。

 僕は銃をホルダーへとしまい込むと、両腕を構える。


「……素手、ですか。本気で殺る気ですか」


 奴の頬に冷や汗が伝っているのが見える。

 銃なんてのは、所詮は牽制。一撃必殺なんてのはその牽制に意識を向けさせるためだけのオマケでしかない。

 まぁ、普段はその牽制だけで勝負が決まってしまうためアレだが、僕が本気で相手を殺そうと思ったら、その時はまず間違いなく素手を選ぶ。

 触れても勝利。

 触れられても勝利。

 つまり、接触すれば勝利が確定する。


 控えめに言って、凶悪至極。


 ……しかしまぁ、奴の表情には未だ幾分かの余裕が見て取れる。最初に『天敵』と豪語もしていたし……おそらく、僕に対する対抗手段でもあるのだろう。

 果たしてそれが何なのかは知らないが、とりあえず。


「安心しろ。殺しはしない、ぶん殴るだけだ」


 呟き――次の瞬間、両の拳が青い光を帯びる。

 それらを同時に地面へと叩き付けると、大きく波打った氷が形を変え、全方位から奴へと向けて鋭い牙を突き立てる。

 存在力操作――応用・【形状変化】。

 電脳王は全方向から迫り来る氷の牙に機械の盾を展開して防御を固めており、防御の隙間からこちらを見据える奴へと――思い切り大地を蹴りだし、拳を握る。


「操作――『衝撃(インパクト)』」


 拳を振り抜く。

 途端、殴り飛ばされた空気が弾けるようにして虚空を滑り、堅牢な奴の防御を木っ端微塵に打ち砕く。


「こ、この遠距離で……貴方は化け物かッ!?」

「そりゃ化け物に失礼だ」


 そう笑い、大地を蹴って空中へと飛び出す。

 眼前には目を見開く電脳王の姿。

 拳に青い光を纏い、振りかぶる。

 恨みはあるが殺しはしない。

 まだ、あの子の居場所を聞いていないから。

 だから今は、ただひたすらに――ぶん殴らせろ。

 冷たい光を瞳に宿し、僕はただ、拳を振り下ろす。

 それは寸分違わず奴の顔面に直撃し、そして――。


「――ッ!?」


 ボロリ、と。

 そんな音と共に転げ落ちた奴の首を見て、目を見開く。

 放った拳は奴の顔面に深々と突き刺さっており、その頭部を失った奴の首からは小さな駆動音と機械の断面だけが見えており、その光景に思わず歯噛みする。

 ――スケープゴート。

 いつの間に、そう聞かれればおそらく氷結の直後、あるいは最初からという話になるのだろう。


『おや、もう倒されましたか私。弱いですね』


 どこからか機械越しの声が聞こえてくる。

 周囲を見渡し――次の瞬間、眼前へと迫ってきた機械の塊を前に拳を放つ。

 消失の力を宿したその拳は眼前の機械の塊を消し去る――ことは、なかった。


「チィ……ッ!」


 青い光が連続して瞬く。

 その度に目の前で機械が一つ一つ消えてゆくが、されど無数の機械――冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、洗濯機――が積み重なったその塊は決して『一つ』ではなく、一度の発動において単体……、出来ても数体に対してしか発動できない僕の『存在力操作』において、その純粋な物量はあまりにも多すぎた。


「ぐっ……」


 体が物量に押し流される。

 機械の波が体を飲み込み、どこからか高笑いだけが聞こえてくる。


『言ったでしょう、私は貴方の天敵だと。貴方の力はおそらく複数を同時に操作するのに向いていない。否、向いてはいれど強力さにかまけてそのような場合を想定した訓練をしていない。故に純粋な物量に弱い。……まぁ、とはいっても物量だけで殺し切れれば苦労はしませんよね』


 そんな声が響いた次の瞬間、それらの機械全てが――燃え尽きる。

 周囲を包み込んだのは紅蓮の炎。

 存在力操作――『灰燼・八十』。

 床や建物まで灰に帰してたらキリがないため威力は抑えたが、これによって部屋中の機械は全て燃やし尽くした。

 周囲へと視線を向ければ、上の方に一つだけスピーカーの存在が視認でき、そちらへと視線を向けた僕へと楽しげな声が聞こえてくる。


『これでも私は世界が蒼白する正義の探求者、あの枝幸紗奈すら尽く遊び通し、逃亡を続けている人間です。こと搦手に関してだけ言えば恐らく並ぶ者はそうそう居ないかと自負しておりますし、なにより逃げ足だけなら誰より早い』


 その言葉に確信する。

 この女、僕と戦う気なんざサラサラ無い。

 むしろ僕が出張ってくると知った時点で逃亡していた可能性すらある。それこそ仲間も、組織すら見捨てた上で。


「……面倒な女」

『その言葉、そのままお返ししますよ』


 そう笑った彼女は、ここに来て初めて本音を吐露する。


『黒棺の王、貴方のイカレ具合に免じてその組織は差し上げます。そも、私の目的を勘違いした馬鹿どもが集まって、『赤信号、皆で渡れば怖くない』を体現してるような組織ですから』

「……へぇ、お前が立ち上げたんじゃないのか」


 電脳王は肯定する。

 六魔槍は、彼女が作り上げたものでは無い。

 彼女はひたすらに、他人の目など気にすることなく自分の目的を貫いてきた。

 それをどういう訳か勘違いをし、その強さに興味を抱いた者や、その強さに安寧を覚えた者などが集まり、いつの間にか出来上がってしまった不安定な組織。

 それが、他でもない【六魔槍】。


『正直そろそろ捨てるつもりでいましたし。それに、つい最近、なにやら面白そうな標的も見つかりましたので。私は()()で遊――もとい、改めて現実を突きつけ、戯れるとします。あ、ちなみに娘さんは最上階に幽閉してますよ。手は出すなと厳命してますが、一応急いだ方がよろしいかと』


 その言葉に、思わず体が跳ね上がる。

 なんだか勝ち逃げされたみたいで無性にこの女を追ってやりたい気もあるし、こいつの言う『彼女』が誰なのかも気になるところだが――正直、今はそれどころじゃなさそうだ。

 僕はスピーカーから視線を外して走り出す。

 前方には、既に上階へと向かう階段が見えていた。

 目指す先は既に決した。

 僕の歩みに迷いはなく――。



『それでは、近い内にまた会いましょう、南雲巌人さん』



 最後に、そんな声が耳に届いた。




存在力操作に勝てる方法募集中。

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