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ソロモンの火の玉ストレート

また遅くなりました。申し訳ないです。

「それでは作戦の概要を説明しようゥ」


 俺は意識がハッキリしたサブノックちゃんと一緒に、先ほどのソファーに座っていた。

 目の前にはでかい牛の化け物…ならぬソロモンが座り、その横にはアレプトもいる。


「ではァ…ん?…ルノ殿…ルノ殿?」


 しっかしどうやっても触れないんだなコレ。

 俺はさっきからずっとサブノックちゃんに触ろうとしていた。

 だがどう触ろうとしても触れないのだ。何か不思議フィールドとでも言わんばかりのオーラが俺を阻む。


「…あ、あの……」


 つんつん。


「…あの……」


 さすさす。


「…えーと…」


 ぺしっ。


「ひぅっ」


「…ゴボン!!」


 おっと。

 ソロモンの咳払いで我に帰る。


「よろしいかなァ?」


「は、はい…」


 サブノックちゃんはどれだけ俺がベタベタしようともオドオドするばかりで抵抗しなかった。

 ずいぶん気が弱いな…。こんなに強い能力があるならもっと自信を持っていてもよさそうなもんだ。


「…それではもう一度計画の概要を確認するゥ。まずルノ殿、そしてサブノックの二人を現世のあの場所へ送り込むゥ。ルノ殿が事故にあった場所だなァ」


 俺は頷く。


「次にサブノックが身を隠すゥ。ルノ殿が一人で歩いているように見せかけるのだァ。ルノ殿はできるだけ警戒心を抱かせないような行動をとってくれェ」


 警戒心を抱かせない行動か…

 とりあえずできるだけにこやかに努めるとしよう。


「それを見たァ、別の身体に移ったクレセントが恐らく何気なく近づいてくるであろうゥ。そこをサブノックが捉えるゥ。こういう手筈だったなァ?」


 確認、という形で聞いていなかった俺に教えてくれるソロモン。ありがたい。

 そこで俺は質問する。


「あのーどうして俺たち二人だけなんですか?ソロモンさんが出てきてくれればすぐに捕まえられるんでは…それとかアレプトとか」


 ふむ、とソロモンは顎に手を当てる。


「それは無理なのだァ…ワタシは先ほど、魔界の悪魔達に太いパイプがあると言ったなァ?」


 うん、確かそう言っていたな。家臣達に送っているとか。


「あれはとても強い繋がりだァ。もしワタシが現世へ行くとなれば家臣を全員連れて行かなければならないだろうなァ」


 ソロモンの七十二の家臣がソロモンと共に現世に降り立つ。

 速報ニュース確定どころか軍隊まで出動しかねないだろう。


「なるほど…でもなんでサブノックちゃんが?」


 確かにソロモン達が動けないのはわかる。だが何故サブノックだけが俺と共に行くのだろう。いや不満は全くないけど。むしろ最高だけど。


「先ほどルノ殿が確認されたようにィ…サブノックの結界はとても強固なのだァ。クレセントは近づかなければ相手の能力を奪うことはできン」


 それはわかるけど…サブノックちゃんがクレセントを倒せる理由にはならない。むしろクレセントに弄ばれていそうな感じだ。

 …ん?でもそういや公園では追いついて俺の体をコッチまで持ってきていたんだっけ…あれ?


「それにサブノックの結界能力は多岐に渡るゥ。その中でクレセント対策として最強のものがこれだァ…アレプト!」


「はい」


 そう言うとアレプトは少し俺たちから離れて…


 ボゥ!!


 掌から紫の炎を出した。


「おおおっ!!」


 アレプトの株が青天井だ。気がきく。話の整理も上手い。イケメン。それでいて魔法まで使えちゃうとか有能すぎる。


「これは魂を燃やしているだけで炎魂法…ベリアルの持つ力のような火力はありません。悪魔なら誰でも使える簡単な術のひとつです」


「そのとおりィ…ではサブノック」


「は、はい…」


 そう言うとサブノックちゃんがアレプトにゆっくり近づく。そして腕をそっと触った。


 シュッ


 え?炎が…消えた?


「今のは私が消したわけではありません。サブノックの結界術で最もクレセント様に有効なのが、魂と身体のつながりを阻害し相手の術を強制的に無効化する…その名も『夢の中断ソウル・コンファイニング』です」


 …………。


 ソウル…。


 コンファイニング…。



 …なんだか尋常じゃない寒気を感じる。

 サブノックちゃんをじっと見る。


「…あっ、ちち違いますよ!?私が考えたんじゃないんですから!」


 わかったわかった。あるよなそういう時期。人生皆一度は通る道だって。心配しなくていいって。

 ほらオジさんに精霊との交換ノート見せてごらん?

 今日は精霊さんとどんなお話したのかなー?


「うう…生暖かい目で見るのやめて下さいよぉ…」


 サブノックちゃんが顔を覆う。腕から掌が離れ、炎がまたボッと付いた。


「この能力はクレセント様相手には大変貴重です。なにせクレセント様に近づかれても問題ないどころか…」


 アレプトが炎を消してこちらに帰ってくる。


「クレセント様に触れれば彼女の能力を阻害できる、すなわちただの少女並みの力に戻せてしまうわけです…まぁ今は少女ではないと思いますが」


 なるほどな。この能力なら俺がクレセントをうまく惹きつけることができれば捕まえることも容易だろう。


「ただ、サブノックはその能力以外に特に身体能力が優れていたりするわけではありません。クレセント様が素早く感づいて逃げ出してしまえば、捉えるのは困難になるでしょう」


 だからこそ彼女は隠れて息をひそめるわけか。


「また、サブノックには魔界との連絡役も担ってもらおゥ。クレセントを捕まえ次第、すぐに連絡をすることだァ。ワタシが魔界へ行けるようにしてやろうゥ」


「以上です。では現世へ送る準備をするのでしばらくお待ちください」


 よしよし…それじゃあ警戒心を解くような動きを考えるか…と俺が背伸びをして準備体操を始めると…

 おや?

 サブノックちゃんが青い顔をして震えていた。

 どうしたんだろうか。黒歴史ネーミングがバレてそんなに嫌だったかな?


「あのーサブノック…ちゃん?」


「……ノク。ノクで構いません……」


 サブノックちゃんはギギギ…と音がなりそうなくらいガク、ガクと俺の方に首を向けた。

 確かに『サブノックちゃん』は長くて呼びづらいしな。


「じゃあ…ノクちゃんでいい?」


「いえ…ちゃんも要らないです…」


 サブノックちゃんことノクの顔色は優れなかった。


「…それで…どうかしましたか…?」


「いや、どうしてそんなに青い顔をしてるのかなーって…」


 現世へ行くのがそんなに嫌なのか?確かに修道服だと目立つから嫌なのかも…。それとも空気が合わない、みたいな?現世酔いとかもありそうだ。


「…そうでしたか…。知らない人はいいですね…フフ…」


 ノクからの返答はなんだか負のオーラに満ちていた。

 …ちょっと怖くなってきた。


「な、なぁ何が起こるんだ?知ってるんだろ?」


 と聞いてみるが「フフ…」以外の答えは返ってこない。まずいな相当壊れてる。


 と、そんなことをしてるうちに気づけばアレプトが呼びに来ていた。


「どうぞこちらへ」


 促されるままに着いて行く。ノクは死にそうな顔で「嫌です…嫌…」と言いながらフラフラ歩いていた。


「あのーアレプト?」


「どうかしましたか、ルノ殿?」


「いや…どうやって現世へ送るのかなー…って思ってさ。ソロモンは魔界から動けないんだろ?」


 その言葉を聞いたアレプトはしばらく考えるような素振りを見せたが、結局軽く微笑むだけで答えは返ってこなかった。


 …嫌な予感がする…。


 負のオーラを纏って俺たちが歩いていると、開けた空間に出た。円筒状のそれはもう大きな広間だ。吹き抜け…というか天井は存在しなかった。

 あの先が現世なのだろうか。


「おォーいィ!こっちだァこっちィ」


 広間の真ん中でポツンと立って

 ソロモンが手を振っていた。

 準備とか言ってたけど特に装置も何も見当たらないな。

 俺たちはソロモンの前まで歩いていく。


「よぉーしィ…それでは二人を現世へ送るとしようゥ」


 そう言うとソロモンは急に服を脱ぎ始めた。

 オイオイ俺はそういう趣味はないんだが…


 なんて思っているとソロモンの体が赤い光を纏って震えだした。

 これどこかで見たような…あ!

 さっきの部屋でソロモンが巨大化しかけた奴か。

 巨大化…巨大化?


 そう考えているうち大地がグラグラと揺れ始め空気がミシミシと軋み、ついにソロモンが雄叫びを上げた。


【グゥ…オオオオオオオオオオオオオオ!!!】


 まるで大樹の一生を速送りするかのごとくソロモンはメキメキと大きくなっていく。

 会議場で見た姿と遜色なくなった頃、はるか高みからでかい壁が降りてきた。

 それは壁ではなく掌だった。


【さァァルノ殿ォ!乗りたまえェ!!】


 …乗る?


 上を見る。開けた現世への高いトンネル。

 横を見る。真っ青な顔のノク。

 そしてソロモンはこの魔界から出ることはできない。


 ……………………あ。



 俺は全てを察した。


 顔から血の気がサーッと引いていくのがわかる。

 ああ…


【乗りたまえェ!さァ!!】


 真っ青になった俺達は動けない。

 するとアレプトが近づいてきて、ニコニコ笑顔で肩をポンと叩いた。もしかして励ましてくれてるのか?

 アレプト…お前ってやつは…


 …と思った矢先、アレプトの手が肩から腰に伸び、俺達二人は両脇に抱えられる。

 そのままアレプトは俺とノクを順々に掌に向かって放り投げた。


 うおおお!!アレプト!!お前って奴はぁ!!!!


 ソロモンの掌はゴムのように弾力があり、俺たちはボヨンボヨンと着地する。

 するとエレベーターのように掌がソロモンの目の前までグングンと上がっていく。

 そしてソロモンは茶目っ気たっぷりに言った。


【さてェ…お客さんン…どこまでェ?】




 もう逃げられない…。


 …俺は覚悟を決めた。というかやけくそだ。


 ゴクリと唾を飲み込み。

 引きつった顔で。

 やめてやめてと止めるノクを尻目に。



「現世へ…」


 と言うと同時に掌が閉じグオオオオッと下に下げられる。

 あああ!やっぱりだ!!


 俺はフンワリ浮いて掌にバウンドする。ノクは犬神家みたいになっていた。

 そして一気に上に向かってGがかけられる。


「それでは…」


 掌の端からチラリと見えたアレプトがにこやかな笑顔で言ったのが聞こえる。


()()()()()()()()()()()()()()()


 そう。これはいわゆる。


【いイィってらっしゃイィませェェェェェエエ!!!!!】


 『人間ロケット』だ。


「いってぇきぃまあああああああああああああ!!!!!!!!」

「ひゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 俺たち二人はソロモンの剛腕に天に、いや地表に向かって打ち出された。


次は2/8夜投稿になります。

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