現世のクレセント
また少し遅れました。申し訳ありません。
人類の歴史が、『顕現した神のつかい、天使による統治の歴史』…ではなく、『倒錯したロリコンのつがい、幼女による恥辱の歴史』だったと判明してからすぐ。
大量の新情報を詰め込んだことでパンクしかけていた俺の脳は、流石に最後の特大爆弾でダウンしてしまった。
アレプトが俺の様子に気がつき、「ずいぶん長く話してしまったなァ」とソロモンが言ったところから休憩となり、俺はソファーに寝かされた。
二人がソファーのそばで何やら相談を始めていたが、話が頭に入ってくる間もなく。
俺は眠りについていた。
───────────────
俺は夢を見ていた。
確かに夢だとわかる光景。
それは幼女の楽園だ。
幼女はコッチに気がつくそぶりもなく花畑できゃっきゃうふふと遊んでいる。
なんとも微笑ましい。
ふと…何かに気がついた幼女が嬉しそうにどこかへ走っていく。
また一人。また一人と気がつけば幼女は周りにいなくなっていた。
ふと丘の上を見る。
丘の上にはイケメン風のワガママそうな男が、幼女を大量に侍らせて「ハハハこの世界は私のためにあるハハハ」なんて言っている。
ふと俺の方に視線が向けられる。
「ほら君もおいで?」
え?と自分の姿を見る。
俺は幼女だった。
顔を上げると目の前に男の顔。
「ちゅ〜〜〜〜〜〜〜」
──────────────
「うわああああああああああああ!!!!!!!!」
「うおォ!ルノ殿どうしたァ!」
俺は掛けられていた毛布を吹っ飛ばしながら起き上がった。
「ハァッ…ハァッ…」
あ、悪夢だ…。
今、鏡で顔を見たらきっと真っ青だろう。
「大丈夫ですか!?ルノ殿!ルノ殿!?」
アレプトが真剣な顔つきで心配してくれる。でも背中をさするのはやめてほしい。普通に吐く。
「やはり身体と魂の乖離が深刻だったのでしょうか…どこか痛みますか?」
アレプトが深刻そうな顔で俺の横にしゃがんだ。
「神…」
「神?」
俺はワナワナと震える。
「どうしたァ、大丈夫かルノ殿ォ」
ソロモンが俺の顔を覗き込む。
「俺は許せません…」
「えェ?」
「神が…神が許せません…!」
「…!」
俺の神に対するガッカリ感はいつしか憤りとなっていた。
いったいこれはなんの仕打ちだというのか。これも神のなす技だとでもいうのだろうか。
頭の中でおっさんの唇がズームアップされる光景がリピートされる。うぇぇ……。
「あんなことをするなんて…!神は人を侮辱している!」
「!……その通りだァ…!」
ソロモンが手を机につく。
「奴はいつもォ!いつも我々を苦しめるゥ!汚いやり方でなァ!」
「そうだ!汚い!」
いくら夢の中とはいえあれはないだろ!
デレデレのワガママなオッサンが幼女とイチャイチャなんて絵面が汚すぎるわ!
お前は種付けプレスで男優のケツを映す無能カメラマンか!萎えるんだよ!
イメビなら両方ロリにするのが基本だろうが!
「俺は神を許さない!」
あんなもん見せやがって!
ただじゃおかねぇ!
「うむゥ!よくぞ言ったァ!」
うぉお!急にソロモンに持ち上げられる。
遊園地のアトラクションで無理に加速する時のようなGが俺にかかった。
「そなたの心意気ィ!!しかと受け取ったァ!!」
俺はソロモンに目の前にガシッと脇の下を抱えられて宙ぶらりんだ。
「共に神を打倒しようではないかァ!」
「望むところです!」
机の上に降ろされた俺はソロモンと固い握手をした。
俺たちの思いはひとつだ。
姿形は大きく違えど分かり合える。
部屋の中は感動的な空気に満ちていた。
皆の思いが世界を救うと信じて─────!
「そろそろ計画の話をされては?」
アレプトの冷たい声に急激に部屋が固まった。
完走しそうになっていた俺とソロモンは慌てて我に帰る。
「お、おォ!そうであったなァ」
そう言いながらソロモンが向かいのソファーに腰掛けた。
「実はなァ…ルノ殿に折り入って頼みたいことがあるのだァ」
「頼みたいこと…ですか?」
「そうだァ…」
ゴホンとせきばらいしてソロモンは話し始めた。
「今、我々が最優先でやるべきことォ。それはァ『クレセントからの我が家臣の魂の回収』なのだ」
クレセント。ソロモンの娘であり、今の俺の身体の元持ち主。
彼女はたしか魂を返せ、なんて言われようとしてたっけ。実際に言われたのは俺だが。
「まさか…クレセント…様?はソロモンさんの家臣の魂を奪ったんですか?」
「そうなのだァ…はァ…」
ソロモンはため息をつく。年頃の娘さんのパパはどこも大変というが魔界でも例外はないらしい。むしろ規模が規模だから特例かもしれないが。
「一体なにを考えているのやらァ…家臣の魂を奪っていくということがどういうことなのかァ、分かっておるだろうにィ」
魂…ええとたしか…
「『技術と能力と寿命を司る』…でしたっけ?」
「そのとおりィ。そして今回ィ特に重要なのは技術、そして能力の部分なのだァ」
はて?
「寿命は大丈夫なんですか?」
「心配いらン。もともとォ悪魔は魂が少なくなってもォそう簡単に死んだりはしないのだァ。そもそも我が家臣にはァ私から直接魂を供給する太いパイプが繋がっているしなァ」
「へぇ…」
それはそれで…ソロモンの魂が尽きたりはしないんだろうか。
でも紀元前から生きているような輩だ。きっと貯えは十分なのだろう。もしかしたら自分で生み出してたりして。
「まァ、そういうわけでェ…当面の問題はこれだァ。『我が家臣達が能力を使えない』。これではとても神に対抗する手駒が揃っているとは言い難いィ。そこでだ…」
ソロモンがズイッと乗り出して。
「ルノ殿にィ…クレセントの捕縛を依頼したいのだァ」
俺に…クレセントの捕縛?
「私が順を追って説明いたします」
すかさずアレプトが説明をしてくれる。
「まず一つのポイントはお嬢様の転生時の状況です。お嬢様は急な転生をなされた。つまり近くの適当な生命体に乗り込んだ、と考えるのが妥当です」
ふむふむ。緊急脱出だったから選べなかったと。
「そうなれば恐らくあえて移動しやすい生命体を選んで転生することはできなかったでしょう。よってお嬢様はまだあの公園付近に居る。そう仮定します」
おお!大きく出たな。
しかし大丈夫なんだろうか、これで移動してたら一生見つからないことだってありそうだ。
「そこで次のポイントはお嬢様の性格です」
クレセントの性格とな?
「お嬢様は自らの身体を大層気に入っておられました。執着の強い方です、今も連れていかれたであろう自分の身体を取り返したいと思っていることでしょう」
ほうほう!
「そして三つ目のポイント。それは、お嬢様が家臣達の魂を持っていることです」
ほう…ぅ?それは…何か関係あるのか?
「魂を持っていなければ恐らくいくらお嬢様とはいえども慎重に行動するハズ。しかし魂を持っているお嬢様は調子に乗っています。前回も見事調子に乗ったところを…ほらアソコに座っているサブノックが倒したんです。」
サブノックちゃんは俺たちの話が長すぎて完全に寝ていた。部屋の壁にもたれかかってスヤスヤ寝息を立てていて可愛い。
あぁ見えても魂を持ってるお嬢様を倒すんだから物凄い猛者なんだろう。
「恐らく単体でルノ殿が公園付近を歩いていれば待ってました、とばかりに飛び出てくるに違いありません」
いやーしかしなぁ…
…俺は考える。
魔界中の悪魔に恐れられている暴れん坊少女を、現在家臣達の魂も入っていない非力な女の子の身体で捕まえる。
うん。無理だな。
「ええと…」
「分かっておるゥ。無理だ、と言いたいのだろうゥ?」
と言うからには何かあるんだろうか。
「ちょっと待っておれェ…サブノック!おいサブノックゥ!こっちに来い!」
「ふぇ……?………!は、はいぃ!」
サブノックちゃんが急に起こされつつふらつく足取りでこっちにやってきた。
するとソロモンは。
「ルノ殿ォ、サブノックに触ってみるが良いィ」
え?触る?今この牛触るって言わなかった?
「触るってそれはどういう…」
「どういうも何もォ…触ってみればま分かることよォ」
いい…のか?
俺はドキドキしながらサブノックちゃんのお腹付近に向けて手を伸ばす……アレ?
サブノックちゃんの周りに硬い、なんだろう壁だろうか。
何か光の壁みたいなものが俺の手を遮っている。
こ…これは…アレか!?け、結界って奴か!?
「そう、これが四つ目のポイント。ルノ殿には…このサブノックと共に、囮として現世に向かってもらうのです」
「…ほぇ?」
目をこすって寝ぼけていたサブノックが目をパチクリさせながら意識を覚醒させようとしていた。
今度は2/6の夜投稿予定です。
本当の本当に次こそレッツ現世。