操りの方法
大変申し訳ありません。
夜、と言ったのにもかかわらずこんな深夜になってしまいました。
「今も…なお…?」
俺の言葉にソロモンはため息をつく。
「…神は狡猾だァ。」
天使を送り込むのは赤子の体。つまりは転生術のようなもので天使は現世に産まれ落ちる。
赤子は天使の力で身体の性質を根本から変えられ、優秀な神の手先となる。彼女たちは赤子の頃から聡明であり、自然と社会の中での立ち位置を確実なモノにしていくのだ。
…とソロモンは説明し、またため息をひとつ。
「人は愚かだァ。それは私も同じだったァ。神がこの世界をよもやここまで意のままに操っていようとは思ってもみなかったァ。ルノ殿が何も知らぬのは仕方がないだろゥ」
神が…この世界を操っている?
俺の人生も全部…神の思い通り…?
いや…いくらなんでもそれは言い過ぎだろう。世の中には何兆人という人が暮らしているのだ。その全てを操るなんて無謀な話。
天使がマンツーマンでつかなきゃいけないんじゃないだろうか。
「もちろん…天使というのは個人それぞれを操ったりするのではないィ。奴らは大きな団体やコミュニティを操ることで人々を扇動し行動させるゥ、それが神と天使のやり方なのだァ…」
なるほど…。
学校。会社。行政。
俺らを従えている部分を丸ごと操ってしまえばそこに追従するモノ全てを意のままにできるってわけか。
「もちろん、ルノ殿の人生もある程度操られているだろうゥ。それも間接的になァ」
ソロモンがこちらをくるりと振り返る。
「例えばルノ殿は知っているかなァ?『新・児童性愛者特別法』というモノをォ」
知っているとかじゃない。俺が最も敵対視していた存在だ。
ロリコンと思われる人を無条件に人のくくりから外すのだ。今の世間ではロリコンは人ではない。そうなっている。
「知ってますが…まさか!?」
あれも神がやったのか!?!?
ソロモンは頷く。
「もちろんだァ。世間は本来、逆の方向に進むハズだったァ。児童に対して非道な行いをする者は年々減少傾向にあったァ…それを神の都合で捻じ曲げたのだァ」
ソロモンがふぅとため息をつく。
「世間に児童性愛者などもはや存在しないだろうにィ…ルノ殿もおかしいと思っていたであろゥ?」
………………。
いやー…
俺はおかしいと思ってたよ?
流石にさぁ、不思議じゃん?いくらなんでもあそこまでロリコンに不都合な法律とかありえないよねー。
俺ずっと前からおかしいと思ってたんだよねー。
いやほんとだよ?え?いやマジマジ。
っべーわー。神マジっべーわ。
ふぅ。
「なるほど神の影響力はすごいんですねー」
かつてない棒読みが俺の口から飛び出した。
「…信じておらんなァ?…まぁいいがァ。まぁ気にしておくと良いィ。これも何かの縁だ、ルノ殿は世の中の動きに常に敏感な人間であって欲しいィ。実際今の世界では確実に起きていることなのだからなァ」
『世の中は操作されているんだ!』…。
ダメだ、危ない人にしか見えない。
てかそもそも…。
「神にメリットはあるんですか?そのー…例の新法律で?」
「んン?何を言っておるゥ。あるに決まっているだろうゥ?恐らく奴の『天使は自分のもの』という強欲さから来るものであろうがァ…」
「???」
話が繋がって…ないよな?
天使がなんで関係してくるんだ?
アレプトが耳打ちする。
「ソロモン様、普通に生きている人間は天使の姿を知りませんゆえ」
「おォ!なるほどなるほどォ…たしかに無理もないィ」
「…?」
どういうことだ?
するとソロモンはゴソゴソと机の中を漁り出した。
しばらく紙の束をこれでもない、あれでもないと横に並べていたが、急に手が止まった。
そしてその大きな手でわっし!と写真帳のような紙の束を掴んで机に置く。
「見てみたまえェ。きっと納得いくであろうゥ…」
「ええと…失礼します」
俺は手を…というか体ごと乗り出して写真帳を手に取る。
と同時にズシッときた。おっも!
「私が開きます。ルノ殿はどうかそのままで」
「あ、ありがと…」
つくづく有能なやつだなアレプト。しかし…なんだか子供みたいで恥ずかしい。非力なのも背が小さいのもしばらくは慣れるのに大変かもなぁ。
…心なしかソロモンがまだ微笑んでいる気がする。
きっと普段はこんなことはないのだろう。自分の娘の可愛いところが見れて喜んでいるのだろうか。ソロモンパパ。
なんて考えてるうちにいつのまにかアレプトが俺の前に写真帳をこちらに向けて開いていた。
「ご覧ください。こちらは紀元前500年。アケメネス朝の街の様子を写した念写絵です」
紀元前!そうかソロモンはそんなに前から生きてるのか…。
そう思って眺めていると、絵の中にふと赤いインクで丸がつけられている部分があった。
なんだろう…学校とかに置いてある某ウォー〇ーを探せにイタズラでつけてあるアレ。アレに似ている…。
ん?これは…おお!幼女!超絶可愛い幼女じゃないか!
「こちらが天使になります」
…へ?
アレプトはそう言いながらページをめくる。
「ご覧ください。次は西暦30年。ゴルゴダの丘でのイエス・キリストの磔の念写絵です」
イエス・キリストって…あの!?
今度も赤丸が打ってある。そして柱の陰に幼女。
「もしかして…」
「そうです。これも天使」
さらにペラペラとページがめくられていく。
邪馬台国の念写絵にも幼女。
マリーアントワネットの処刑の念写絵にも幼女。
ナポレオンの戴冠式にも幼女。
ナチスのパン配りにも幼女。
写真帳には歴史の有名シーンがほとんど乗せられ、しかもそのすべてに幼女が写っていたのだ。
「こ…これが天使…なんですか?」
どう見てもただの幼女だ。
母親の連れ子だったり、見つからないように隠れていたり、貴族の娘であろう者までいた。
「その通りィ。神はとあることを理由に天使を十二から十四の姿に留めるのだァ」
ソロモンは笑いながら言った。
「これでわかっただろうゥ?彼奴が『新・児童性愛者特別法』を神が作った理由がァ?」
ええ…と
察しの悪い俺はゆっくりと順序立ててみる。
神は天使を作った。
天使は幼女。
つまり神は幼女を作った。
神は世間に幼女を禁止させた。
強欲…天使を求めての強欲。
天使は幼女。
つまり幼女を求め…
ん…?
「ま…まさか…」
いや、待てダメだ。それはなんだか急にシリアスさが消えてしまう。神のイメージ像がミシミシと音を立てて軋んでいる。
だがソロモンは俺の動揺を見逃さなかった。
「そのまさかァ。端的に言ってしまえばァ」
ソロモンは立って背中をこちらに向ける。そして振り返りながら口を開く。
やめて!言わないで!
「神は児童性愛者ァ。…いわゆるロリコンなのだァ」
俺の中で狡猾で残忍な神のイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
同時に新しい神のイメージが完成した。
俺の脳内で幼女の尻を追いかける神。
戦乱を纏めた幼女に偉いね〜と言ってチューをする神。
産みだす幼女をメモに書きながら必死に考えている神。
そんな神に片手間に平定される世界。
うん…。
俺は頭を抱えた。
次は2/5の朝投稿になります。
そろそろ現世に戻る時がきたようです。