小学生の特権
「よいしょよいしょ…あ、ルノちゃーん!エサ持ってきたよ!」
「おぉ、ハルありがとう!」
俺はエサ袋を受けとる。種類が多いせいで袋も沢山だ。
「ふぅ…あれ?なんか動物さんたち大人しくなった?」
「そ、そうか?」
俺はウサギ小屋を恐怖政治で統治した後。
他の危なそうな動物の檻でも、同じように説得を試みた。もちろん言うことを聞かない奴にはブン太と同じ末路を歩んでもらった。
まぁ大半は俺のロリボデーで悩殺されて即堕ちだったが……。本当に大丈夫かこの飼育小屋。
「でもこれでエサ、安心してあげられるね!えーと…」
二人で飼育小屋を見渡す。うーん、やっぱり広いな。手分けした方が良さそうだ。
ハルはウサギにエサをやりたがってたし、一階を譲ってやろう。
「それじゃ、ハルは一階やってくれる?二階のエサはやっておくからさ」
「二人で分けたほうがはやいもんね!じゃあやってくるね!」
ハルはそう言ってお日様笑顔でウサギ小屋に向かっていった。ブン太達もきっと媚び媚びで待っていることだろう。
さてと…俺は二階へ向かうか。腕に大量の袋を抱えてえっちらおっちら階段を登る。
「ほらエサだぞ〜」
俺は袋の表記を見ながら動物達に合わせてエサを配っていく。
ヘビには冷凍肉。ネズミには飼料。亀にも飼料。猿には果物。猿、ね……。
しかしどこから集めてきたんだ本当に。いくら金持ち学校とはいえやり過ぎな気がしないでもない。
骨折事件がなくても、そのうち管理ができなくなって崩壊していたんじゃないか?
最後に猫の檻だ。キャットフードを猫の檻に配る。これで終わりかな。と、
(旦那!エサ足りやせんぜ!)
え?俺はしっかり全員分配ったはずだったが……。
(全く欲張りだなぁお前ら。もうこれで今日の分は…)
(そうじゃなくて…一匹分足りないんですぜ!)
一匹?
俺は猫を数える。たしかさっき調教しに来たときは十五匹だったっけ。いちにいさん…あれ?じゅうろく?
(オイお前ら、もしかして誰か増えてないか?)
(ああ!そうでやした。オイ新入り!挨拶するんや!)
すると奥から真っ黒の猫がにゅっと出てくる。
ん?
(さっき急に通気口から入ってきやがったんですぜ…全く礼儀のなってないやつでね…シバいてやりましたよ!)
黒猫……黒猫……?
ま、まさか……?いやそんなハズは……。
黒猫が俺を見つける。瞬間。
こちらに物凄い勢いでダッシュしてきた。
「ル、ルノォ〜!!たすけて!たすけてくれよおお!!」
クレセントがボロボロになった姿で、檻の中にいた。
───────────────
「お前何してんだよ!?」
学校に猫は連れていけない。今朝は、着いて来たがるクレセントを無理やりケージに押し込んできたのだ。
「だ、だって……」
ここまでして来たんだからきっと、もっともな理由があるのだろう。
「暇だったから……」
そう思った俺が馬鹿だった。この暴れん坊姫様め…!
なかなかに外の警備がしっかりしていて困ったクレセントは、通気口から進入。
無事に猫の檻で『教育』されたという話だった。
「はぁー全く………あっ」
いや、逆にこれは好機か。クレセントに話さなきゃならないことがある。ベストタイミングかもしれない。
「ク、クレセント!そうだ、見つけたんだよ!」
「ぐず……え?」
「天使だよ天使!」
それを聞くとクレセントは、急にさっきまでのことを忘れたような声色になる。
「ほ……ほんとか!」
「ああ!」
俺たちは檻ごしにハイタッチ。
「それで、間違い……ないんだな?」
「もちろんだ。天使の名前は、碧井チナツ。『強奪』がしっかり反応してたからな、間違いない」
チナツは紫色のモヤモヤをしっかり纏ってた。ずっと見ていたから見間違いということはないだろう。
「なるほどな……で?どうやって捕まえるつもりなんだ?」
それも完璧に計画済みだ。
「ノクをけしかけるんだよ」
俺の考えはこうだ。
まずノクに嘘をつく。
「クレセントを見つけた。碧井チナツ、あの子がクレセントらしい」ってな。
そうすればノクが碧井チナツを捕まえてくれるだろう。そこに俺が参上。キスをして世界も俺も幸せって寸法だ。
「なるほどな…」
クレセントは俺の計画を聞いて噛みしめるように頷く。
「どうだ?結構良い案だろ?」
だがクレセントはボソリと言った。
「……ムリだな」
「え?ど、どうして?」
クレセントはやれやれ、といった感じで言う。
「考えてみるんだよ。例えばアタシが本当にその…チナツ?って奴の中に入ってたとする。もしお前がアタシだったらどうする?」
どうするって……あ!そうか!
「ノクを見つけたら近づかない……」
「そうだろうな。アタシならまずノクを見かけた瞬間にその場から離脱する。もうノクとそいつは知り合いなのか?」
「う、うん…」
クラス長と副クラス長。覚えていないハズがない。
「多分ノクもその計画じゃ、違和感を覚えるんじゃないか?」」
うう…結構良い案だと思ったんだけどな……。
どうやら廃案のようだ。クレセントに穴を指摘されるとなんだか物凄く悔しい。クレセントがドヤ顔で見てくる。くそぅ。
「ぐぬぬ……じゃあお前もなんか計画あんのかよ?」
「そうだな……アタシなら殴り倒すな!お前アモンの力あるんだろ?倒した後に唇を奪えばいい」
「却下だな」
俺はバッサリ切り捨てる。
「な、なんで?」
「まず危ない。幼女がたくさんいるところで二次被害が出たらどうすんだ。次に危ない。学校であの力を使って殴り倒しなんかしたら大ニュース間違いなし」
「ぐぬぬ……」
「さらに言えば俺はあの力の強さを把握してない。力余って校舎の壁に突っ込んで、エロ広告みたいになるのは困る。もっと言えば天使の力がわからない以上、隠密に済ませるのがベスト。だろ?」
「ま、まぁな……」
ふふーん。俺もドヤ顔で返す。クレセントの悔しそうな顔が気持ちいいぜ。
……なんてやってる場合じゃないか。結局いい案が出てこないことにはどうしようもない。
「そうだ!いい案思いついたぜ!」
またクレセントが言い出した。
どうせ脳筋戦法なんだろ?と思って聞く。
「イタズラだよ!」
へ?イタズラ?
「イタズラって……どういうことだよ?」
「だからさ、お前らって小学生だろ?ちょっとぐらいふざけて『〇〇ちゃんちゅー♡』なんてやっても微笑ましく済むんじゃねえか?」
「……!!」
俺の体に電撃が走る。た、たしかに!
実際俺が小学生だった頃にも、女子同士でポッキーゲームとかやってたような気がしないでもない。そう考えると結構自然なのでは?いや絶対自然だ。それでいこう。
別に『なんだかシチュエーションが最高だから』とかそういう理由では断じてない。うん。とても自然だ。
「よし!それで決定だ!」
「お、おう。随分と急にやる気出したな……」
こうなったらすぐにでも実行だ。そろそろ委員会の顔合わせも済む頃だろう。そしたら二限目と三限目の間の休みがくる。そこで実行だ。
俺はルンルン気分で階段に向かっていこうとする。
「あ、ルノ!ほら忘れてるぜ!アタシはやく出してくれよ!」
………………。
俺は考える。
クレセントを外に出した場合。
「おい見ろよ!噴水だぜ!」テンションが上がって水に飛び込むクレセント。
「あっ良いもの食べてんじゃねえか!アタシにもくれよ!」生徒の昼食を奪うクレセント。
「お、おいなんだよ!」生徒に捕まって外に追い出されるクレセント。
……邪魔だな…………………。
俺は振り返らずに階段に向かうことにした。
「あれっ!?ルノ!?ルノさん!?」
すまないクレセント。お前はこの戦いについてこれそうにないからな。
安心してくれ、必ず成功させてみせよう。
「ちょ、ルノ!?ルノーーッ!!覚えとけよーーッ!!!」
俺は凄い叫び声とともに二階を後にした。
───────────────
「あ、ルノちゃん大丈夫?なんか凄い大きなネコの声したけど…」
「あぁ、ちょっと気性の荒い奴がいたみたいでね、大丈夫だよ」
「そ、そっか」
気性が荒くなったのは俺のせいな気がするが気にしない。
待っていてくれ、きっと迎えにくる。そのうち。
「そっちももうエサやり終わった?」
「うん!みんな大人しくって良い子達ばっかり!ウサギの子達なんか、エサをひとつ食べるたび踊ってたんだよ!可愛かったなぁ〜」
「へぇー」
いいつけは守られているようだ。感心感心。
恐怖政治の効果は絶大だったようだ。学校の名物になる日も近いな。
俺とハルが教室に戻ってくると、ちょうど鐘がなるところだった。
黒板を見ると、『委員会が終わり次第、休み時間に入ってよし』と書かれていた。
さて……あれ?
計画を実行すべくチナツを探すが見つからない。クラス長の顔合わせだからまだ終わってないのかも。
座って待とうと思い、席に向かうとノクが座っているのが目に入る。副クラス長が帰ってきてるなら、クラス長も帰ってきてると思ったが……。クラス長だから何か仕事でも任されているんだろうか。
それを聞くためにノクに近づこうとする。どうやら俺に気づいていないらしい。
……これは予行練習の題材としてベストかもしれないな……。よし。
俺はそろーりそろりとノクの後ろに回る。
ガバッ。
「ノークっ!」
「ひゃあ!ル、ルノさん?」
俺は座っているノクに抱きつく。最高か?いや最高か。この作戦、最高だな!合法的に幼女の首に手を回せる。匂いをかげる。しかもほっぺたを擦り付けても良いわけだ。たまらんなぁ!
「ルノさん……どうしたんですか?また良い恋人でも見つけたんですか?」
「いやちょっとイタズラを……ってあの!?だから俺はそういう趣味じゃないって!」
「どうだか……」
いい加減に誤解を解いて欲しい。
……しかしあれだな。ノクが相手だとなんだか小学生っぽくない。もっと小学生らしい反応が欲しいな。
お!横にハルが座っている。手紙を見てるようだ。しめしめ、次のターゲットはお前じゃ!
思考回路が完全に変態紳士のそれと化した俺は、ゆっくりと背後から忍び寄る。
そーれガバッと。
「ハルっ!」
「わっ!ルノちゃん!」
ハルも最高だ。ノクの真っ白ストレートと違ってふわふわした茶髪が顔をくすぐる。お日様の香りがする……。
「ハルー」
「えーちょっとなにー?」
「へへーこのこのー」
「あははっもうルノちゃんやめてよぉ〜」
ああーーー!!!コレコレコレコレ!!!
最高かよ!!幸せだよ!!俺が見たかったのはコレッ!!んっ!!
なんて心の中で叫んでいると、ガラガラっと扉が開く。
おっ!ついに真打登場か。チナツが教室に入ってきた。
俺は彼女が机についたところを見計らってハルから離れる。
よし……見つかってないな……。
ゆっくり……ゆっくり……。
よぉし!ココだっ!
ガバッ。
「チナ」「ハッ!殺気!」
え?腕を掴まれ……あれ?
なんか俺……浮いてる?
周りをみる。
……視界が逆さになっていた。
え?え?
いったいなにが…と思う前にビターンと床に叩きつけられる。
ぐえぇっ!!
朦朧とする視界にチナツが映る。
「うわっ!ご、ごめんルノさん!背後から殺気を感じて、つい!」
……天使、恐るべし……。