行軍
イオニス村を占拠した部隊は傭兵団が二部隊に、グルニア王国第二皇子に従える魔法士、エリゼウ・ノール率いる歩兵団を加えた三部隊。
一部隊二十人余りとしても決して多くはなかった。
エリゼウが与えられた指名は黒い森の洞窟調査である。
黒い森にはいくつかの洞窟が存在する。
洞窟には希少な魔鉱石が眠ると言われていた。
幾度となく黒い森に調査隊を派遣していたグルニア王国であったが、正確な洞窟の場所は特定されていない。
その全てに森の民の妨害があったからだ。
「隊長、森の民の力ってのは結局、何なんですかね」
「ああ? 噂話以上の事を知るはずねえだろ」
オルバスは草木をかき分け面倒臭そうな顔を声に向けた。
部隊は明朝、黒い森へと入っていた。
朝方立ち込めていた霧も、日が昇り草木を濡らし消えている。
しかし、代わりに現れた身の丈を超える草や蔦に足を取られ、遅々として歩は進んでいなかった。
気を張っていた男達も次第に緩んでくる。
寄せ集めの傭兵団とならば余計だ。
「人外の力を使うって噂ですぜ」
「森の奥に引きずられていったとか。見えない何かに潰されたとか」
別の男も話に乗ってくる。
「だからお前らは学がねえって言われんだ。無駄口叩いてる暇があるなら、前行って足場作れ」
オルバスに捕まれ前に出された男はまだ何かを言いたそうに口を開いたが、オルバスに睨まれしぶしぶ草を刈って足場を作っていく。
「このまま何事もなく終われば楽でいいんですがね」
代わりに草刈りを免れた男が口を開いた。
「お前は草刈りしに来たのか。少しは傭兵らしいこと言いいやがれ」
「しかし、こう何もないとダレてきますぜ」
男が言うのも頷ける。
もう日は天に届きそうな時刻であるが、動物の姿すら拝んでいない。
草木に視界を阻まれていたとしても、気配ぐらい感じるはずだ。
「こう何もないと奇妙でもあるんですがね」
「すでに森の民の視界の中かもしれんな」
「隊長、脅かさんでください」
草を刈っていた男が振り返り、下卑た笑みを浮かべるのも一瞬、驚愕の表情に変わった。
「うし……ろおおおおお!」
叫び声に変わった男が、くの字に腰から草の中へ引っ張られる。
オルバスは、男の胴体に黒い物が巻き付いているのを見た。
後ろからも複数悲鳴が上がり、振り返ったオルバスが見たものは、木や草のいたる所に巻き付く黒い何かだった。