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テレーゼとジェイドのデート大作戦! 3

 数日後、テレーゼは自分にできる限り精一杯おしゃれをして、ジェイドとの待ち合わせ場所である使用人用通用口へ向かった。


(メイベル、驚いていたなぁ……)


 部屋に残してきた侍女は、テレーゼが「今度ジェイドと一緒に城下町に出かけるから」と言った瞬間、倒れた。そして事情を聞いてある程度持ち直したものの、「なるほど。それはジェイド様からのご提案なのですね」「うん、でも一緒に行きたいって言ったのは私よ」とのやりとりをした直後、またしても倒れた。


 メイベルにも普段から迷惑ばかり掛けているし、今日だっていつになく真剣な顔でテレーゼにメイクをしてくれた。この前連続で倒れたのだってきっと、テレーゼのお守りをするうちに疲労がたまってしまっていたからだろう。

 そういうわけで今日は仕度を終えた後、テレーゼが戻ってくるまでの間はお茶を飲んでいてもいいし昼寝をしていてもいいからゆっくり休むように、と言っておいた。テレーゼの身の回りが落ち着いている時期があれば、休暇を取らせるのもいいかもしれない。


 そう思いながら通用口に向かうと、もうそこには既にジェイドの姿があった。女官として五分前集合があたりまえなテレーゼも早めに降りてきたつもりなのだが、真面目なジェイドは五分前集合ならぬ十分前集合するタイプなのかもしれない。


「お待たせ、ジェイド」

「こんにちは、テレーゼ様。……そのワンピース、とてもよくお似合いですよ」


 通用口の壁に寄り掛かっていたジェイドがすぐに反応し、微笑んでくれた。

 テレーゼは今日、可愛らしいキャラメル色のワンピースと、チェック模様の上着、ストームグレーのタイツにリボン飾りの可愛いショートブーツを身につけている。

 これらの衣服は先日、リトハルト家から届いたものだ。どうやらメイベルが事前に実家に手紙を送っていたらしく、「騎士様との! お出かけなら! ケチらないで! これを! 着て行きなさい! 勝負服!!」と母の力強い筆跡で書かれたカードが添えられていた。


 いったい何を「勝負」する服なのかは分からないが、母の見立ては確かでサイズもテレーゼにぴったり、デザインも可愛らしくて気に入ったので、ありがたく袖を通すことにしたのだ。


 ジェイドはテレーゼの服を褒めてくれたが、そう言うジェイドこそジャケットや少しよれた質感のあるズボンを着こなしていて、硬質な髪にも櫛を通しているようだ。いつもはぱりっとした騎士団服姿である彼のラフな普段着姿というのはかなりレアで、テレーゼはしげしげ見つめてしまう。


「ジェイドこそ、とてもよく似合っているわ」

「ありがとうございます」

「なんというか、近所の優しいお兄ちゃんって感じ」

「ありがとうございます、それだけで十分です」


 ジェイドは微笑んでテレーゼに向かって手を差し出してきたので、テレーゼも笑顔で彼の手を取った。


 二人は城下町まで、歩いて行くことにしていた。ジェイドは「馬車を調達しませんか」と言ってきたのだが、今日は冬にしては暖かいし、一つ一つの店を丁寧に見て回りたい。そういうことで行きは歩きで、帰りだけ馬車を借りることにしたのだ。


「さて、それではライナスとリズベス嬢のための店探しですが……テレーゼ様は何か、おおまかな案はございますか?」

「ええ。リズベスはこの前、城下町に新しくできたカフェが気になっているって言っていたの。クリームたっぷりのケーキや、甘くてふわっふわのパンケーキが売りらしくてね!」


 テレーゼたちは城で働く女官なので、職場にいるだけで様々な情報を得ることができる。最近あの店が人気らしい、最近の流行はこんなデザインらしい、この前の登用試験で若くて格好良い官僚が採用されたらしい、この前騎士団の誰々がメイドにフられたらしい、などなど。


 由緒正しい貴族の生まれの女性のみで構成され、礼法の厳しさで知られる女官職だが、テレーゼたちとて年頃の娘。おいしいもの、かわいいもの、きれいなものには興味津々だし、積極的に情報を取り入れるようにしている。


 そういうこともあり、先日リズベスが新しくできたカフェについて口にしていた。「どんなところかしらね」とつぶやいていて、テレーゼも個人的に気になっていたのだ。


 テレーゼの言葉に、ジェイドは頷いた。


「デートにカフェは鉄板ですね。事前調査をすればリズベス嬢も喜ぶでしょう。ただ……問題はライナスですね」

「ライナス、甘いものは苦手なの?」

「嫌いではないそうですが、彼がリズベス嬢の前でパフェやケーキを食べる姿が想像できなくて」

「ああー」


 なるほど確かに。ライナスは子ども扱いされるのを嫌っているようなので、ふわとろ甘々パフェを食べるのは遠慮するかもしれない。もし彼が注文できそうなメニューが全くなければ、リズベスが遠慮したり、ライナスが変に意地を張ったりと、楽しめなくなるかもしれない。


(そう、そのための事前調査よね!)


「それじゃ、メニューもじっくり見てみましょう! カフェなら甘いお菓子以外にもあるかもしれないし、ジェイドならライナスが食べそうなものもなんとなく分かるわよね?」

「そうですね。それでは参りましょうか」

「ええ! 頑張るわよー!」

「……ちなみにテレーゼ様、その店の位置はご存じで?」

「知らないわ!」










 結局、二人がカフェを見つけたのは散策を始めて二時間経過してからだった。


「おー、盛況ね!」

「開店間もないようですし、人気なのももっともですね」


 ポップな色合いの屋根やパラソルが可愛らしいカフェは昼過ぎということもあり大にぎわいで、店に入るには少々列に並ぶ必要がありそうだ。


「待ちそうなので、テレーゼ様はその辺りに座ってお待ちください」

「え? 私も一緒に並ぶよ?」


 ジェイドに言われたので、テレーゼはすぐに言い返す。

 周りでは確かに、カップルで来ている場合男性のみが並び、女性の方はベンチに座って待つという光景も見られた。おしゃれをしている恋人を長時間立たせたくないという、男性の気遣いの表れなのだろうが……。


「私なら大丈夫よ」

「しかし、いつになったら入れるのか分かりませんし、テレーゼ様もお疲れでしょう」

「それはジェイドも同じじゃない? それに、一緒に並んでいたら待つ間もおしゃべりできるもの」


 恋人同士ではないとはいえ、ジェイドの気遣いを素直に受ける方が淑女らしいのかもしれない。だがテレーゼは自分の足腰は強い方だと思っているし、一人でぼうっと立ち続けるならともかく、ジェイドと一緒なのだからおしゃべりしたり、何を食べようか話したりできる。


「せっかくのお出かけなのだもの。一緒に列に並ぶのもいい思い出になるわ」


 テレーゼが目を輝かせてそう言うと、ジェイドは最初こそ不意打ちを受けたように目を丸くしていたが、やがてふっと微笑んでくれた。


「……確かにその通りですね。では、一緒に並びましょうか」

「うん!」


 ジェイドの同意ももらえたので、テレーゼはるんるんと列の最後尾に並んだ――が、「テレーゼ様はこちらに」とやんわりジェイドと位置を交代させられた。

 どうしたのだろうか、と思って辺りを見回す。その直後、ジェイドからさほど離れていない場所を大型馬車が通り過ぎていった。


(……そっか。馬車が通るし、人通りも多い大通り側に立ってくれたのね)


「……ありがとう、ジェイド」

「何のことでしょうか?」


 分かっているはずなのに、ジェイドはしれっとして首を傾げている。

 そんな彼が頼もしくて、とても素敵に見えて、テレーゼは笑顔でもう一度、「ありがとう」と言った。

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