表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/55

7-8

 中庭には、マーティンの部下が数人、かがり火を焚いていた。彼らは、たぶん、ここでオレリアスたちを迎え撃つつもりなのだろう。だが、そこに、クイが突然とび出て来て、彼らは、その出来事に唖然とした。

「マーティン!! 出て来い!!!」

 クイは、誰にもとがめられることなく、中央の桜の老木まで来ると、もう一度、建物全体に向けて大声で叫んだ。クイの声は、外壁に反響しながら、夜空の彼方に抜けていく。

「マーティン!! 私に臆したか! さっさと出て来い!!!」

 クイの声に、マーティンの部下たちが建物から顔を出した。

 当のマーティンは、一番最後だった。

 右手側の三階の窓から、面倒くさそうなマーティンが顔を出す。

「マーティン! さっさと降りてこい!」

 すると、マーティンは、

「お~い。ヨシュアが、こいつを逃がしたぞ。まだ、その辺にいるから、ヨシュアを捕まえておけ~。」

と、部下らに命じた。

「ぬぉ!」

 クイは慌てた。

 つい勢いで中庭に出てきてしまったが、このままでは、自分を解放してくれたヨシュアが、クイのせいで捕まってしまう。

「わ、わわわ、私。」

 嘘でも、「ヨシュアなど知らない。自分の力で出てきたんだ!」と言えばよかった。だが、クイがまともに喋れないうちに、もといた部屋から、

「捕まえました!」

と、声が上がった。

(あわわわ。)

 ほどなく、その部屋から、両手を縛られたヨシュアが引きずり出された。

(……やってしまった。)

 恐々(こわごわ)ヨシュアを見ると、ヨシュアは、

「だから、領地人は嫌いなんだ! もっと合理的に考えられないのか?! 領地人は馬鹿なのか? 馬鹿ばっかりなのか?!」

と悪態をついていた。

(あわわわわ。)

 返す言葉もない。

「くそ! 触るな!! 馬鹿がうつる!!!」

 生粋の王国人であるヨシュアが、別の部屋に連れられていく。

 それを、クイは、ただ呆然と見送る事しかできなかった。

(ああ、ごめんなさい。私が、馬鹿だったばっかりに……。)

 すると、上の方から、マーティンの笑い声がした。

「あはは! 久しぶりに、のヨシュアを見た。」

 マーティンは、ひとしきり笑うと、ふっと三階の窓から姿を消した。そして、しばらくすると、一階、カウンター裏の扉が開いた。

「待たせたな。」

 クイは、剣を構えた。

 マーティンが、何のためらいもなく長剣を抜いて、こちらに近づいてくる。

「では、天誅とやらを、食らわせてもらおうか。」

 長剣を一振りすると、マーティンに強者の風格が現れた。

 国王軍兵長マーティン。その肩書きは、伊達ではない。

 オレリアスは別格としても、マーティンには、領軍の軍将以上の実力があった。

(来る!)

 クイは、後ずさりをしながら、間合いをはかった。

 近づいてくるマーティンの顔が、不敵に笑っている。

「ふふふ。血まみれで倒れているお前を見たら、オレリアスは、どんな反応をするかな?」

 笑うマーティンの瞳。

 その奥に、深い深い闇が見えて、クイは、ふうと息を吐いた。

(ああ、これは堕ちていく人間の目だ。……底のない、……奈落に。)

 鋭い殺意に、手のひらから汗がにじんだ。

 剣を交えなくても、マーティンが自分より強いことは分かる。

 でも、後悔はない。

(きっと、私は、千回同じ岐路に立たされても、今と同じ選択をする。)

 多分、もうオレリアスには会えない。

 自分の死を、オレリアスがどう思うか。

 でも……。

(ごめん、オレリアス。私の勝手を許して。)

 クイは、生への執着を捨てた。

 マーティンにだけ集中すると、不要な感覚がそぎ落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ