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2-4

 真夜中。

 クイは、こっそり館を抜け出していた。

 外界の荒野で、クイは、剣の刃をスコップ代わりに、穴を掘っている。

 しかし、作業を邪魔するかのように、たびたび魔獣がやって来るので、クイはその都度、作業の手を止めて魔獣を切った。

(あ~あ。やっぱり、夜中にやるもんじゃないな~。)

 魔獣は基本的に夜行性なので、遭遇率は高い。クイの通り道には、魔獣の死体が点々と転がっている。

 しかも、月が陰ると、手元が見えなくなるので、手探りで土を掻き出さねばならなくなる。クイは、指先で穴の深さを確認してから、

(ま、こんなもんかな。)

と、社から拝借してきた結界柱の予備を穴の中に差し込んだ。結界柱の木の棒の部分を、ぐりぐりと回転させて、斜めに深く突き刺していく。すると、案外やわらかい地盤だったようで、結界柱が陰の中に消え、先端についた小さな結界石がほのかに発光し始めた。

(よし、反応した。これで三つ目。)

 実は、結界は、障壁の外側にも結界柱を配した方が強固になる。

 結界は、もともと、点より線、線より面、面より立体といった具合に力を増すので、領地を守る結界も線ではなく帯のように結界柱を配した方が、浄化作用が高まっていく。けれど、一般的には、そのような配置は行われない。それは、結界士が瘴気に弱い体質をしているからだ。普通、結界士は、自分の体を壊してまで、外界に結界柱を埋めには行かない。

 クイが、その強化法を知ったのは、十歳の時だった。

 他の兄弟に比べて、結界士の才能がないのではと、薄々自覚し始めていた頃だったから、その文献を見つけたときは嬉しかった。

(私には私の方法がある!)

 クイには術力がないけれど、その代わり、瘴気に対する耐性があったから、それを生かせばいいと思ったのだ。方法は他の結界士と違っても、結界を強化することができるのなら、それで結界士だと胸を張れるのではないか。

 しかし、そんな希望が見えた矢先、父は、幼いクイを叱り飛ばした。

「そんな方法は邪道だ!」

 結界士は、むやみに障壁の外に出てはならない。瘴気に触れただけで、命に危険が及ぶ結界士もいるのだから、そんな方法を後世に残してはならない。父は、そう怒って、その文献をすべて破り捨ててしまった。

 思えば、それが、クイを結界士の道から遠ざけたキッカケだったのかもしれない。

 それから、クイは、結界術の勉強をしなくなった。父の目を盗んでは家を抜け出し、人目につかないよう外界で遊ぶようになった。外界は危険だが、人の領地にはないものがある。外界を遊び歩くうちに、小型の魔獣に間違われ、罠に掛けられ捕まった縁で、先代のアムイリア軍将と仲良くなった。先代軍将の紹介で、剣を学ぶ仲間もできた。しかし、その先代軍将も、去年の春、母と同じ病で逝ってしまった。思えば、故郷アムイリア領には、辛い思い出ばかりが残されている。

(あ~あ、嫌な事を思い出したな~。)

 クイは、作業を続けながら苦笑した。

 こんなに遠い領地まで来て、故郷の思い出に苦しむなんて。

 クイは、結界柱に土をかぶせてから、足で地面をならした。

(これでよし。)

 こうやってしっかり埋めておけば、魔獣が掘り起こすこともない。


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