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2-7


どうも、ジャンピング土下座投稿を敢行して半月板がヤバい藍川です。

……嘘だけど(ボソリ)



それにしても相変わらずミーシャさんウワーイケメソーな回。


……セレス? クエストマシーン?

もうちょい待ってくださいな。


今しばらくはヘタレユースケとイケメソミーシャさんのいちゃらぶ(in戦場)をお楽しみくださいな。





「せいやぁっ!」


 切りつける、というよりは叩きつける、という概念でもってブラッディーリザードの頭部を真っ二つにしたミーシャの剣が、その血も乾ききらぬ間に次の獲物を探してふるわれる。


「グギャッ!?」


 短い悲鳴を残して無様に両断されたトカゲの半身がこっちへ飛んでくると、それだけで現代っ子である俺の精神はやつれたり擦り切れたりしていくのだった。


「ユースケ、ぼーっとしないで!」

「いや、ぼーっとすんなってったって……うわああっ!?」


 吹き荒れる剣風と血嵐の中で途方に暮れる俺に向かって、ミーシャがその鋭い切っ先を突き出してきた。


「正直、ここにいられたら足手まといなの」


 その剣は俺の耳のあたりをかすめて後ろへ消え、そこにいつの間にか忍び寄っていたトカゲを串刺しにしていた。


「まぁそりゃ、イヤってほど理解してるけどさ……俺が移動先でまた魔物に襲われたらどうするんだよ」

「そのときはそのときよ、またさっきみたいにみっともなく叫んでくれれば駆けつけるってば」

「みっともなくってお前な……」

「わかったらさっさと行く!」

「ハ、ハイッ!」


 有無をいわさぬ口調でそう告げるミーシャに剣を突きつけられては、もう俺に反論の余地など残されていない。


 ミーシャに群がり続けるトカゲの群から半ば転がるようにしてそこから離れると立ち上がり、その近くにある魔鉱石を探し出す作業に戻る。


 だが冒険者二日目の俺が、そう簡単にお目当てのものを見つけられるような道理もない。魔鉱石がなかなか見つからないことに焦り出す俺、そしてふと顔を上げれば――――


「ってうぎゃわあぁぁぁぁああああああっ!? み、ミーシャっ、助けてぇえええっ!」

「またっ!?」


 再び現れた魔物に悲鳴を上げ、情けなくもミーシャにサルベージしてもらう羽目になる。


「ったく、こちとらチート能力もないようなただの冒険者だってのに、ずいぶんハードなこと言ってくれるよ……」


 そう思わず異世界おきまりのチートがないことを嘆くのも、まぁ仕方ないとは思えるのだった。





「うっげぇ、全身もうバッキバキだ……明日筋肉痛になんなきゃいいけどなぁ……」


 結局あの後ろくに成果を上げることもかなわないまま、冒険者としては初めてとなるクエストを散々たる結果で終えた俺。


 骨折り損のくたびれもうけとはよく言ったものだが、そこまではいかないにしても今日はただ体を動かすだけの作業をしているだけだったように感じられる。


 しゃがんでいたせいで痛んだ腰に手を当てて伸びをし、その合間合間に視界に写る酒場を確認していく。


「えーと、確かここらへんに……お、あった」


 日本と季節が同期しているのか、夜でもややなま暖かい中を歩くこと数分、俺がたどり着いたのは昨日もお世話になったばかりの酒場。


 今日はもう、昨日食べたあの鳥を腹に押し込んで風呂に入ってさっさと寝ようと考えた俺はその明かりのまぶしさに目を細めながら店のドアをくぐり、中に入っていく。


「お邪魔しまーっす、と…………」


 今日もう一つ別の酒場を探すのも面倒なので、昨日入ったのと同じ酒場にふらふらと入店し、座れそうな席を探す。


 その視線を向けた先、店の最奥にしつらえられたカウンター席。


「いやほんと、どっから来たんだろうね、あの子……ねぇバルツさん、聞いてる?」

「あぁ、聞いてるっての。……っつかミーシャ、酒回るの早くないか?」


 昨日会話をしたばかりの酒場の店主と会話をしていた人のポニーテールが、本人の動きにあわせてゆらゆらと揺れている。


「…………ミーシャ?」

「……へっ?」


 知らずのうちにカウンター席の近くまで歩み寄っていた俺がぽつりとそう口にすると、耳ざとくそれを聞きつけた少女――ミーシャが振り返り、間抜けな声を上げた。


 さっきバルツに指摘されたとおり酒が回っているのだろう、やや赤みを帯びた頬、どことなく眠たげに細められた目をしているが、それは紛れもなく俺に今朝渾身の体当たりをしかけてきた少女、ミーシャに他ならなかった。


「なんだぁミーシャ、あの兄ちゃん、お前のコレかなんかか?」


 バルツがどこかピントのずれた発言をぶっかましても、俺とミーシャはその驚きから黙ったままだった。





「……はぁ、バルツさんはミーシャの保護者って訳ね……」

「そー。アレに少しでも知り合いがいて助かったわ、ほんと」


 酒の入っているであろうジョッキをくいっと傾け、自分の親を『アレ』呼ばわりした見た目十歳後半の少女は酒気を帯びたため息を漏らした。


「で、兄ちゃんは駆け出しの冒険者ってか。なんだよミーシャ、あんまりお前がびっくりしてたから、思わずお前のカレシかと思っちまったじゃねぇか」

「あのねぇバルツさん、私だってそんな贅沢言わないにしたって、相手ぐらい選ぶわよ」


 でもって話を聞き終わってもまだニヤニヤしているバルツはといえば、未だに俺とミーシャの関係性を疑っているようだった。……っつかミーシャ、今お前さりげなく俺をけなしたよな? そうだよな?


「ああそうだユースケ、ちょうどだからお前、宿の予約がないんなら今日はここに泊まってったらどうだ?」

「えっ?」

「……ねぇバルツさん、人の話聞いてたの?」


 一瞬バルツがなにを言っているのかが理解できなかった俺がそう返すのと、ジト目のミーシャがバルツにそう問いただすと、バルツはその巨体に実に似合った豪快な笑みでこう応じてきた。


「いやいや、そういうわけじゃねぇっての。ただ何だ、仮にも嬢ちゃんの知り合いなら、ここの部屋も貸してやっていいかなと思ってだな」

「バルツさん、本気で言ってるの!? この駆け出し冒険者に?」

「まぁまぁ、一人冒険者を仕立てあげると思えばいいじゃんか」

「そういう問題じゃなくてっ!」

「どこの馬の骨ともしれない輩をかくまうよかよっぽどいいだろ?」

「いや、そう、だけどさ……」


 そう言って言葉を詰まらせるミーシャ。さっきから会話に置いていかれっぱなしだった俺としては、そこを見計らって疑問の声を上げざるを得なかった。


「あの、話の流れがいっさい見えないんだけれども……」

「ん? ああ、悪いなユースケ。その話っつーのはなぁ……」

「バルツさん、私とユースケにエール一つずつ! あと、つまみにカーゴー鳥の揚げ物ひとつよろしく! じゃ!」


 そう早口にまくし立てたミーシャは、今まさに説明をしようとしていたバルツを厨房の奥に押しやり、実に哀愁漂うため息を一つついた。


「…………あ、あの、ミーシャ?」

「……なによ」


 昼間も見たような剣呑な殺気を放ちながら俺の方を見据えてくるミーシャに思わずのどをならしながら、俺はしっかりと用件を告げた。


「さっきの話、説明してもらえると助かるんだけど……ひぃっ!?」

「…………あんたまで私にその話を聞くのね」


 視線に込められた殺気が数段増しになったのを背筋を伝う冷や汗の増加で感知した俺が思わず情けない悲鳴を上げて身をそらすと、ミーシャはまた深々としたため息をもらしたのだった。


「じゃあ、ちょっとこの話をする前にいっこ、キミに質問してもいい? その回答次第で、この話をするかどうか決めるからさ」

「……え? ぁ、ああ、いいけどさ」


 やや口調を柔らかくしたミーシャは、手元のジョッキをあおると少し沈黙を保った後、こう口火を切った。


「じゃ、正直に答えてね。第一問、ユースケには奥さんはいる?」

「……はっ?」


 想像だにしなかった質問に思わず間抜けな回答を返すと、ミーシャが「その様子だといなそうね」と若干気抜けしたような表情で呟いた。


「いるわけねぇだろ!? こちとらつい数十時間前までただの高校生だったんだからな?」

「コウコウセイ? なに、それ?」

「ぁ、ああ、えーと、なんて説明したらいいものか……」

「ま、いいわよ。それじゃ次、キミ、彼女は…………いや、やっぱいいいわ、その様子だといなさそうだし」

「はぁっ!? なんだよそれ、失礼なやっちゃな!」

「じゃ聞くけど、彼女いるの?」


 当然俺の口から飛び出してきたのはただの買い言葉のようなもので、条件反射で口にしたものにしかすぎない。


 あわてふためく俺の脳内に今までの人生で出会った女性がことごとく浮かんでは通り過ぎていくが、それらのどれも『彼女』とはとうてい言いがたい関係でしかなかったような仲だった。


 結衣はどうなんだろう。幼なじみという立ち位置ではあるにしても、決して彼女とはいえない程度の距離間はあったように思う。


(…………あれ? もしかして俺、彼女いないんじゃね?)


 今更ながら自分の置かれている現状をようやく頭が認識したあたりで、ミーシャがあきれたような口調で俺に同じことをもう一度教えてくれた。


「うん、わかった、キミの顔に『もしかして俺、彼女いないんじゃね?』って書いてあったから、もういいよ」

「そんな同情した目線はやめて!? よりによって女子からその目線をもらいたくはなかった!」

「はい、最後の質問ね。まぁ別に今までの流れからしてどうみても明らかだから聞かなくてもいいんだけどさ」


……だから妙に憐憫を含んだなま暖かい目線をやめろと。


「――キミ、童貞?」

「…………What did you say?」


 とっさに英語での聞き返しをしてしまうあたり、俺の日本語の思考回路はすでに潰えたみたいだった。


「へ? なにをいきなり謎言語をしゃべってるの?」

「いや、あれだ、取り乱してた。もっかい言ってくれない? 俺の危機間違いだったらアレだからさ」

「ああ。じゃもっかい言うよ?」


 そうだ。落ち着け神谷祐輔15才童貞。別に今目の前のこいつがいきなり俺が童貞かどうか聞いてきたなんて保証、どこにもないじゃないか。


 俺は別に、童貞なことをこの年齢で気にしてるとかそんな貞操観念の吹き飛んだ日本人ではない。


 だがなんの前ぶりも恥じらいもなく目の前の女の子が童貞などという言葉を口にしたのが、意外すぎただけだった。


「キミ、童貞? …………いやまぁさ、もうなんか答えわかりきってるし、いいんだけどさ」

「お、女の子がスレてる…………これが異世界クオリティだっていうのかよ……」

「スレてるって……別にいいじゃない、問題あるの?」

「いや、ない、ないんだけどさ……」


 もっとこう、『キミ、ど、どうて……もうっ、言わせないでよ!』みたいな反応を軽く期待したのに、その目の前から異世界の女の子の常識らしきものを叩きつけられて思わず絶句する俺。


 と、その様子を見たバルツが一言、今度はミーシャをあわて不為貸せる発言をした。


「いやぁユースケ、お前も田舎からでてきた身ならよくわかるだろ? あれだよ、こいつぁ処女だからな、初めての相手ぐらいは選びたいってものだろ。演技うまいからな、恥じてんのも気づかなかったろ?」

「ば、バルツさんっ!? それ、言わない約束じゃない!?」

「あぁ、そういうもんね……なんだ、ただ恥じらってただけなのね。スレてるとかじゃなくてよかったわ」


 そういって俺がほっと胸をなで下ろすと、交代するようにミーシャが慌てはじめ、ようやく年相応に顔を赤らめ始めた。


「でもまぁミーシャ、安心しろよ。この兄ちゃんにゃ、きっとお前を襲うだけの度胸も覚悟もありゃしねぇよ」

「な、バルツ、だからその話はっ!?」

「あーあー、どうせ童貞ですからねぇ、んな度胸ないっすよー」


 会話から完全に置き去りにされたミーシャがさらに暴走している間にも、俺とバルツの会話は進んでいく。


「まあそう拗ねんなっての。で、どうだ? 使うのか?」

「はいはい、じゃありがたく。って、その部屋ってどこに……?」

「この上だな。まぁなんだ、あとで案内してやっから、今は飯食っとけよ」

「はいな」

「ちょっと二人とも、いい加減にしなさいよっ!?」


 そう言って絶叫したミーシャの甲高い声は、時間帯柄混みあう酒場の雑音にもまれて消えてしまった。









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