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隊員「ス、ストックが追い上げられています、隊長!」
隊長「だ、大丈夫だっ、まだあと一、二話は余裕がグハッ!?」
隊員「隊長っ!?」
そんな感じで今日も更新です。
相も変らぬ予約投稿ですがあしからず。
「全く、こんなことになったのだって全部君のせいだからね!? 責任とってもらうわよ!」
「いや、責任っつったってなぁ……」
俺がそうぼやいて頭をがしがしと掻くと、目の前の女の子はその様子が気に入らなかったのか、心なし額に若干青筋を立ててさらに追加で小言をまくし立ててきた。
一歩間違えたらそれどこのエロゲ? なんて疑問が飛び出してくるような女の子の言葉は、俺たちが今入っているちょっとした料理店の天井に吸われて消えた。
俺がその謎の少女に頭から突進されて気を失っていたのを介抱してくれたと思いきや、今度は助けたその相手になにやらグチを垂れ流しているのだから、この女子――ミーシャの思考回路が全く読めない。
「あぁーもう、あそこで君がぶつかりさえしなければ、私は今頃借金チャラにして大手を振って表を歩いていたってのに…………はぁ」
「まぁあれだ、人生万事塞翁が馬って言葉もあるくらいだし、なんとかなるっしょ」
「ねぇキミ、人を人生の成功街道から引きずりおろした人間が言えるせりふじゃないよねそれ」
「いやー、今日はなんともいい天気デスネー」
そう言ってジト目のミーシャから逃げるようにして店の外に目を向けると、俺の視界には土砂降りの雨にさらされる窓が映っていた。
「…………」
「さっきから降り出したんだよね、そういえば。キミは気を失ってて気づかなかったみたいだけどさ」
「ち、違うんだ、俺のいたところじゃ雨というのは実に風流な存在で、その様子を表す言葉がいくつも存在しててだな……」
「ここじゃ鬱陶しいだけの存在よ。書物は湿るしカビるし」
「う…………」
言われてしまえば日本でも、雨なんて鬱陶しいことには鬱陶しかった。洗濯物は乾かない、外にでるにもカサがいる、雨の日のデメリットなぞあげてみればキリがない。
そもそもの元をただせば、俺自身もあまり雨が好きというわけでもなかったのを思いだし、ついでに自分の発言がいかに本音と剥離したものかを思い知ったのだった。
「な、なぁ、そういや借金返すとかなんとか言ってたけど、それはもういいのか?」
「露骨に話題をそらすんじゃないわよ」
表情をひきつらせながらもなんとか話題の方向性を変えてやろうとして発した言葉は、ミーシャによってすげなく切り捨てられてしまう。
表情をそのままで固める羽目になった俺をミーシャはしばらくあきれたような顔で見ていたが、やがて何かをあきらめたかのように一つため息をもらすと、こう語り始めた。
「…………まぁ、いいのよ。こんな大勝負なんてそうそう舞い込んできてはくれないだろうし」
「……勝負?」
「この街に住んでる、テッド郷っていう貴族の主催したレースよ。優勝者に与えられる賞金があれば、私だって借金チャラにできるんじゃないかなあって」
「はぁ、貴族様のレースねぇ。ってか、その借金は何でったってまた……?」
とても外見からは想像もつかないが、もしかしたらギャンブルの類で身を滅ぼしかけたのだろうか。だとしたら、レースに出場して優勝金をかっさらおうなんていう発想も何となくではあるが納得がいく。
「――キミ今、結構失礼なこと考えてたでしょ」
「い、いや、滅相もない」
っていうのは所詮空想であって現実ではなく、それらの妄想が目の前の少女に合致するはずもないので以下略。
なんて結論を出した俺の思考がそれっきり沈黙を保ち始めたのとほぼ同時に、ミーシャが手元の飲み物をぐいっとあおってからまた話を始めた。
「これはね、私の父親の借金なのよ。キミも知ってるでしょ? 魔族征伐戦。そこでちょっとした賭け事があったみたいでさ、親父ったらそこでボロ負けしちゃって。その上酒癖が悪かったから、その借金を抱えたままぽっくり逝っちゃったのよー」
「お、おう……」
俺は表面上はそれなりに冷静に振る舞っているつもりだが、その内心では『ななな何か重たい話キターーー!?』と全力で焦っていた。いきなり目の前の少女から告げられた想像以上に重たい現実に思考がオーバーヒート寸前まで駆動し、この後の状況を予測し、そして――
「ま、そういうわけで私はどうにかして借金を返さなくちゃならない状況に陥ったんだけど――――あれ? どうしたの?」
「うん、勝手にぶつかってきたのはそっちとはいえ、まずは介抱してくれてありがと。そんでもって、なんだ――」
いきなり何を言い出すんだと表情が物語っているミーシャにグッ、と親指をたててサムズアップ。いい笑顔を顔面に張り付けたまま、席を立ちざまにこう言い放った。
「――――俺、急いでるんで。強く生きてください」
「――――――――はっ?」
さっきまでの不可解な表情は一気に抜け落ち、ミーシャの表情には現在それにとってかわって理解不能という四文字が張り付いていた。
それを後目に颯爽と席を立ち、カウンターにいたマスターらしき人に「会計はこの人持ちで!」と叫びながら足早に店を後にする。
「――はぁぁぁあああああああっ!?」
少女の絶叫を後目に店をすたこらさっさと後にする俺。
「いやぁ、あんなに重たい話持ちかけるなんて、どう見てもあの後に『そうだ、キミのせいで借金返せなくなったんだから、私が借金返すの手伝ってよね!』ってくるパターンだよな絶対。逃げといて正解だったわ」
そう一人ごちながら人の流れに紛れるようにしてさっさっと店から遠ざかっていく。
確かにミーシャが背負った境遇はかわいそうなものではあるが、それはそれ、これはこれだ。そんなものまでいちいち背負い込んでいたら、結衣を生き返らせる方法に行き着けるまでの時間が延びないとは思えない。
「それにあれ、どうみても当たり屋のやりくちじゃんか……。自分からぶつかっといて対価払えとか、どこのヤーさんだよ…………」
そもそもこの愚痴は『ミーシャが俺に借金をふっかける気でいた』という前提条件がついて初めて意味をなす話なのだとか、そんなこと知らない。罠にかかってから罠を回避しようとするのでは意味がないのだ。
「――ねぇキミ、お名前伺っていいかな?」
「え? 名前? ぁあ、神谷祐輔っていうん――――」
…………例えその罠が、回避されたせいでいっそう凶悪になって自分に襲いかかってきたとしても。
「わかった、ユースケね。それだけは覚えといてあげるわ、それ以外は全部抹消するから」
「待て、待つんだミーシャ! いえ、待たせてください! これにはマリアナ海溝よりもずうっと深いわけがあり……」
「食い逃げに理由もなんもあるかぁあああああああああっ!」
「うぎゃぁああああああああああああっ!」
……………………
…………
……
「――やっぱ男が女に手を挙げたらダメなのに、女が男に手を出すのがOKな世の中ってやっぱり世知辛いと思うんだ。時代は真の男女平等主義だろ! 男女平等ドロップキックだろ!」
「ユースケの場合、それされても仕方ないような感じではあったけどね」
方や『一周回って』という前置詞が必要な次元でハイテンションな、方や呆れて物もいえないとばかりの声が計二つ、人の往来にこだまする。
「いや、だから俺はミーシャに借金を押しつけられると思ってだな……」
「だからって食い逃げすることもないでしょ」
「あれは食い逃げじゃないと何回も…………」
「誰から見てもあれは完全な食い逃げだったわよ」
「ぐっ…………」
空元気を発揮して変にハイテンションに話していた方の声――いわずもがな俺である――がその指摘に声をつまらせ、苦虫をかみつぶしたような顔をしてみせる。
それにため息をついたもう一人、ミーシャがどこか憐憫の混じったような目を俺の方に投げかけてきた。
「その変な格好からしてキミ、ここらへんの人間じゃないでしょ? ユースケの地元だったら、女を相手に食い逃げするってのが習慣か何かなの?」
「や、んなこたないですが…………」
「じゃあんなことは二度としないほうがいいわよ。私だからよかったけど、もしかしたら今頃憲兵の詰め所に放り込まれてたかもしれないんだからね?」
「わーったって、今後はミーシャにしかやらないからさ」
「あ、憲兵さーん、ここに犯罪者予備群がいるんですがー」
「調子に乗って本当にゴメンナサイ」
そんな調子で会話を続ける俺たちは、現在街の図書館に向かって街の大通りをふらふらと進行中である。
あれから俺はミーシャにこてんぱんにされたにも関わらず、それに飽きたらずそのまま説教でもしてきそうな勢いだったので、せめてもの譲歩としてこうして図書館までの道案内を頼んでいる次第である。
「っていうかキミもまぁ、たいがい変人よね。格好もそうだけど、その魔族みたいな髪の色とか目の色とかも変だし。それに、街の地理もろくに知らないってのに図書館を探してる、とか言い出す始末だし。学者とか研究者の人?」
「や、んなわけじゃないんだが…………それよか俺の髪、やっぱ変?」
「まぁね。私は魔族差別主義とかじゃないからこれといって思うところがあるわけでもないけど、珍しいよね」
その一言に思わずほっと胸をなで下ろす俺。これでミーシャが魔族? 滅びればいいんじゃないかな?(ニッコリ) みたいな人種だったら、本当に目も当てられない事態になるとこだった。
「そういやユースケ、図書館でなんか探しもの?」
「ああ。ちょっと魔法を探しててさ」
「魔法?」
「んーと、なんつーか、こう、人体蘇生っつーのかな? そういう感じの魔法がちょっと欲しいわけよ」
「ユースケ……それ、本気で言ってる?」
あっけらかんとした調子でそう言い放った俺にミーシャから帰ってきた反応は、思いもよらないようなものだった。
「え? ……本気だぞ? なんか文句あんのか?」
「そうじゃなくて……ああもう、その様子だと知らないのよね、どうせ」
「……なにをだよ」
『これだからこいつはダメなんだ』とでも言いたげにため息をつかれて少しイラっとした俺がそう苛立ち紛れに尋ねると、ミーシャから帰ってきたのはその苛立ちですらも一瞬でどこかへ消えてしまうような回答だった。
「人体蘇生、っていうのは、魔族が秘匿してる魔法の、それも最上位の物じゃないの。そんなもの、いくらこの街の図書館に行っても見つからないと思うわよ」
「…………え? マジで?」
その言葉にあんぐりと口を開けた俺がそう尋ねると、
「マジで。そんなことも知らなかったの?」
とミーシャは目をぱちくりさせてみせたのだった。




