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1-16

「だけど、見つけるあてはある」


 「どういうことですの?」と首を傾げたセレスに行動で示そうと左手を前にかざし、魔法の発射準備をする。


「《ファイヤーアロー》、《コピー》」


 俺がかざした左手の先でついさっき蜘蛛に放った炎の矢が一つできあがり、それが後続の魔法によって目の前にいくつも生産される。コピーされた魔法はその数に応じて威力が下がってしまうのだが、今回は何の問題もないだろう。わざとある程度ばらけた位置に跳ぶように矢の軌道を設置し、目を細めてねらいを定める。


「セレス、よく見といてくれよ」

「は、はぁ……」


 納得しているのかいないのかよく分からないその答えを聞くやいなや、俺は引き絞っていたその矢をとき放った。群の中に混じる大型の魔物をよけて空を駆ける矢は、俺のねらい通りにあらかじめ目を付けておいた複数体の小型の魔物に次々と命中していく。


「――えっ?」


 ――最後に矢が飛んでいった魔物だけを除いて。


「……よっし、ビンゴだ!」

「え? えっ? どういうことですの?」


 俺が放った炎の矢は、その一本以外はすべて狙った魔物に衝突し、ダメージともいえないダメージを与えて霧散した。だがしかし、その狙っていた魔物からある程度の距離まで俺の矢が接近すると、その魔物の目の前にいきなりオーガのような魔物が割り込み、その矢をはじいてしまったのだ。


「見てみろ。他の魔物は俺の矢をふつうに食らっているのに、あの一体だけはなぜかオーガがわざわざ目の前に割り込んできて矢を弾いただろ。つまるところ、あの魔物は魔物の群にとってダメージを与えられてはならない奴なんだよ」

「ああ、じゃああの魔物がその指令塔だと……」

「まあ違う可能性もあるが、何かしら重要な役目を担っているのは間違いないだろうな。あんな矢でも防いだところを見るに、微細なダメージでも防がなくちゃならないほどに弱いのかもしれないぞ?――《ペイント》」


 再びかざした手から、彩色豊かな光球のようなものが出現する。それはさっきの矢とは違い風に漂うようにゆっくりと飛翔してから、さっき俺が狙った魔物に弾かれることなく吸い込まれるようにして命中した。その名前どおりに使用者とその使用者が指定したものにのみ見える目印をほどこすというこの魔法には、ダメージは一切ない。さっきみたいに防御をされなかったのも、その理由かもしれない。


「つーわけだ、セレス、お前にも今あいつになんらかの目印がついて見えると思う。そいつが今回の指令塔だ。――この防壁が破壊されるより前に、あいつをしとめるぞ」

「了解ですの」

「あ、それにミーシャも呼ばねぇとな。あいつ今、何してるんだ?」

「ミーシャさんなら……あ、あそこです」


 そういってミーシャの方に目を向ければ、あいつもあいつで今まさに魔物の群に必死に剣を振るっているところだった。


「……んー、まあ、うん。やっぱいいわ、あいつは」


 健気に戦う割に結果のでないミーシャに思わず頭を掻き、セレスに改めて向き直る。あいつがいたら足手まといになるかもしれないしな。


「ま、じゃあ俺はあん中に飛び込んで、ひたすらあいつらをひっかき回してみるわ。ついでに指令塔も狙うつもりだ。セレスは支援魔法と範囲魔法であいつらを牽制しつつ、ピンポイント射撃ができる魔法で奴のド頭をぶち抜いてやれ」

「分かりました。――気をつけてくださいね」


 俺を慮る言葉を残して臨戦態勢に入ったセレスにすこしだけ頷き返し、俺もあの魔物の群の中に飛び込む準備を始める。生半可な方法でつっこんだのでは、大量の魔物の壁に阻まれて近づくこともあたわないだろう。


 だが、わざわざあの壁を正面突破する必要もない。押しても叩いても壊れない壁でも、回避すればその向こう側には行くことができる。


「《スプリング》」


 その声に応じて、俺の目の前にバネ仕掛けの床のようなものが出現する。それに思い切り飛び乗ると、魔法が作動して一瞬にして俺をバネの力で空へとうちあげた。俺が考えたあの魔物の中にいる指令塔に近づく方法、それは単純にあの魔物の壁を飛び越してしまうことだった。どんなに高い壁でも、飛び越してしまえばなんてことはないというわけだ。


 空中で浮遊感を味わいながらも、このまま自由落下した場合の着地地点を大ざっぱに想像してみる。そこにはちょうどさっき俺の矢を弾いたオーガがいて、その手に持った棍棒をふるっているようだった。目の前の大人数を排除することに集中していて、上空から落ちてくる俺には気づく様子もない。


「――ッ、《ソリッド》っ!」


 なれない空中からの襲撃に体勢を崩しそうになりつつも必死にこらえ、硬化魔法をかける。こうでもしないと、落下の衝撃に俺の剣も体も壊れてしまう。そして、手にした剣にまで硬化魔法が効いたのを確認してから剣を逆さまに両手で握り、裂帛の気合いとともに真下にあるオーガの頭めがけて突き立てた。


「っりゃあぁああああああっ!」


 気合い一閃とばかりに振りおろした剣は狙い違わずオーガの頭部に半分もたやすく入り込み、硬化魔法と重力加速による力で一撃の下にオーガを即死させた。


 そのまま地面に倒れこむオーガの頭から剣を引き抜き、オーガの死体を足蹴にして周りの魔物をぐるりと睥睨する。まさかこの魔物の包囲網のまっただ中にわざわざ自陣の結界を飛び出してまでやってくる奴がいるとは考えていなかったのか、俺の周りにいる魔物はみな一様に呆然としたような様子で動きを止めている。


 まあ、つい数秒前まで元気に棍棒を振るっていたオーガを気づいたら誰かが足蹴にしているんだし、無理もないか。


「……ほんじゃ、始めますか」


 その俺の言葉が皮切りだとでも言うかのように、それまで周りに控えていた魔物が一斉に俺に向かって飛び出してきた。







 首から上がなくなった魔物の後ろから、サソリのような魔物のしっぽが俺の首を狙って正確に突き出されてくる。それを剣で弾いていなしながらサソリの体に剣を突き立て、絶命を確認するまもなく引き抜いて俺の背後にいたやつを斬り飛ばす。その斬りとばしたやつの残骸の向こうですばやく魔物群の中に消える指令塔の姿が見え、思わず怒り任せに叫んだ。


「……くっそ、またかっ!!」


 越えられない壁なら、跳躍でもして回避してやればいい。その考えは、壁を壊す必要がないときにしか適用されない。俺が魔物の集団のまっただ中につっこんでから早十分、指令塔さえ殺せればいいという目標の為に、俺はゆうに100を越える魔物をほふっていながら指令塔に剣先一つかすらせることも叶わないままだった。


 もちろん、俺の本来の役割は魔物を引きつけて指令塔の守りを手薄にすること。当然、その間にもセレスがどんどん指令塔に魔法を撃ちこんでいく。だが、指令塔本体にもそれなりの回避力と知恵が備わっているのか、セレスの魔法をかわして見せたり魔物を盾にして防ぐなど、実にすばしっこく動き回っているせいでなかなか決定打ともいえる一撃をいれることができずにいた。


「あぁもう、まどろっこしいやっちゃな……」


 そう俺が嘆いた今、俺の目の前でひとつ魔法が空振りした。今度のやつは氷柱をいくつも投げ槍のように射出するというものだったが、なにぶん面制圧に向いた魔法のためサイズの小さい指令塔にはなかなか当たらない。ある程度の動きは封じられたが、それでもそこまでだ。


 だがセレスがその魔法を放ったのは、指令塔の動ける範囲を狭めるため。その裏打ちとでも言うように、氷柱に囲まれて動けなくなった指令塔めがけて一条の雷が突き刺さる。が、その射線状に出現した甲中型の魔物がそれをいともたやすくはじき返し、指令塔はその隙に氷柱の合間を縫って遁走してしまった。


「――チッ、またかよ…………」


 思わず舌打ちが漏れるが、それを気にとめる余裕などありはしない。


 魔物の中心で剣を振るい続ける俺も、遠隔地から当たらない標的に魔法を撃ち続けるセレスにもおそらくは、限界が限界が来ている。


「……仕方ねぇか。ちょっと痛いんだけどな、これ」


 ならばと俺はこの状況を打破するべく、剣をふるって俺にまとわりついていた魔物を一掃し、ついでに左手を前にかざした。魔法を撃ち続けるセレスにちらっと視線を向けると、俺のしようとしていることを悟ったのか魔法を打つ手を止めてくれた。



 俺たち冒険者は、自分たちの身を守るために普段から使っては消える簡易的な魔法だけでなく、ちょっとした大技、いわゆる切り札をいくつか持ち合わせている。俺もまたその例に漏れず、ずいぶん昔に買ったきりお蔵入りしていた魔法をいくつも持っている。その内のひとつを今回、使用してみることにしたのだ。


 俺がこれから使うこの魔法は一撃必殺を唄えるほどの威力を秘めているにも関わらず、実はふつうの中級魔法ぐらいの値段しかかかっていない。それは、それなりのお手頃価格で手に入るこの魔法を発動させるのにまだ必要なものがあるからだ。


 ――思い切り剣を振り回したことでできた空隙が埋まる前にと、前につきだした左手にあわせるようにして剣を持った右手を並べる。


 イメージするのは、剣を鞘から抜く様子。両手に力を込めて勢いよく、自分の威厳を見せつけるように、躊躇わずに、その剣を引き抜く。


「――――――ッ、」


 ――ただし、その剣に鞘はないが。


「ぁぁあああああっ!!」


 自傷の痛みに思わず漏れた叫びとともに、俺の左手から滴る血が地面に吸い込まれ、俺の剣を赤く染める。いくら回復魔法が存在する世界でも、痛いものは痛いのだ。自分で自分の体を傷つけて手に入る血液、それがこの魔法の発動のために必要なもの。いつまでも叫んでいて魔物によってこられては仕方がないので、のどから漏れる悲鳴を押し殺して剣を頭上に掲げ、泣き叫ぶように魔法名を口にする。


「――《ブラッディ・プリズン》!」


 俺がその声とともに血塗れた剣を地面に突き刺すと同時、俺の周囲の地形に大幅な変化が生じた。


 まず、俺を中心として半径数メートル前後の円を描くようにして地面が壁となってせり出してくる。結果としてその内側にいた魔物と指令塔+俺と、外側の魔物+セレスが分離させられたことになるが、これでかまわない。


 俺を中心にせり出した地面はそのまま半球を描くように俺の頭上で閉じ、即席のドームは暗闇につつまれた。が、それも一瞬のこと。すぐにドームのてっぺんから出現したライトが俺とその周りにいる魔物、そしてその魔物の中に埋もれた指令塔を照らし出す。そのライトの色は、血を吸ったような赤だった。


 俺の血を吸った土で作り上げられた、魔物の処刑場。その中心に立つ俺が周囲の魔物を睨みつけてようやく、魔物たちを指揮する指令塔もようやく理性を取り戻したらしい。周りの環境の変化が何だ! とでも言いたげに俺に向かって魔物が押し寄せ――――


「ギャッ!?」

「グルワッ!!」


 俺に近づいた瞬間、地中からいきなり出現した鎖によってその魔物たちはみな絡めとられた。そしてその鎖の色も、これまた赤。


「……この魔法を作ったやつ、なかなかいい性格をしてんじゃねぇか」


 赤尽くしのドームに俺はしばらくあきれていたが、まあこの魔法だっていつまでもつか分かったものじゃない。頭にふと浮かんだ言葉を口に出し、この魔法の真髄たる仕掛けを起動する。


「――――《ジャッジ》、《ギルティ》」


 そして今一度、斬ったばかりの左手に鉄臭い剣を押し当てる。血を吸って血を流させるこのドームの中では、何をするのにも血を対価に支払わなくてはならない。


 その剣を覚悟を決めて一気に引き抜き、同時に魔法の最後のトリガーとなる言葉を紡ぐ。


「――っっ、《死刑デスペナ》ッ!!!!」


 その瞬間、俺の左手から流れ出た血が意志を持つかのように地面にいっきに吸収されて消えた。直後、俺のいるところ以外のすべての地面から轟音をたてて赤い槍が何本も突き出す。


「「「ウギャァアアアアアッッ!!?」」」


 あるものは頭を貫かれて一撃で、あるものは体の末端から突き刺された槍の痛みに泣き叫びながら、それぞれに命を果てさせていく。その魔物たちから流れ出た血もまたドームに吸収され、さらに魔槍の本数を増やす手伝いをするのだった。もちろん、俺たちがさっきから執拗に狙い続けていた指令塔もその例外ではない。こいつは鎖につながれてからももがき続け、最後は自分を拘束する鎖ごと槍で突き刺されてその身を爆散させた。


「――はっ、ハぁっ、ハっ、は……」


 周りに自分以外の生体反応がなくなった時点で、俺の頭上からもときた道をたどるように壁や鎖や槍が地面に戻っていく。返り血で赤く染まった壁が全て地面に消えた後には、大量に転がったままの魔物の死体だけがあった。ぐるりと辺りを見渡してみると、どうやら指令塔が死んだおかげで、その場にいた魔物たちのは統率がとれなくなったらしく、大分魔物の頭数が減っている。他の場所からの援軍も途絶えたのだろうか。


 と、俺の方へ向って歩いてくる二人の面影があった。片方は呆れたような怒ったような微妙な表情を浮かべるセレス、もう一人は最初から蚊帳の外だったミーシャだった。


「……あー、やっぱこの魔法はあんまし使いたくねぇな」

「ユースケ……あんたねぇ……」


 返り血と自分の血で赤黒く染まった俺の装備に目をやったミーシャが何かを口にしようとしたが、それはミーシャを横へのけて俺の方へ近寄ってきたセレスに阻止された。


「その手……見せてください。治療させてもらいます」

「……ああ、助かる」


 否定などさせはしないとばかりの気迫を放つセレスに回復魔法をかけてもらったおかげで、一瞬にして俺の手のひらについた傷はきれいさっぱり消え去った。手を握ったり開いたりして感覚を確かめるが、けがを魔法でなおしたときに特有のチリチリとした感覚が残る以外にはほとんど手に違和感は残っていないようだった。


「「「………………」」」


 そして、その場に静寂が訪れる。セレスは明らかに俺に文句の一つでも言いたそうな様子だし、ミーシャはミーシャで思うところもあるのか、こっちも口を固く閉ざして何も言わない。


 ……いや、分かってますよ? 結構先走ってたのは分かってるけど? でも、さっきの状況からじゃ仕方なくね? だってあのまま何もしなかったら、攻撃も当たらないまま俺達なぶり殺しでしたよ? という具合に原因は分かっても対処のしようがない状況に軽く冷や汗を流す俺に、ふと声をかける奴があった。


「――助かったよ、ユースケさん」

「ああ、アンタか」


 後ろを振り返ってみれば、今回の調査隊の隊長であるクリープ……じゃない、クリー●ー、違うこれはただの匠だ、まあいいや、その隊長さんが立っていた。


「悪ぃな、勝手に前線で暴れて」

「いや、ああしてもらわなかったら我々は今頃地面の染みにでもなってるはずだったろうからね。助かったよ」


 そう言って額の汗をぬぐう隊長の言葉尻には、長期の戦闘による疲れがにじみ出ているような感じがした。見れば、周りの隊員も地面に座り込んだり膝に手を置いて肩で息をしているような感じだ。さっきまで大量の魔物に囲まれて圧死寸前だったし無理もないか。


 だけどこのクエストの内容は、大量に出現した魔物の討伐ではない。湧き過ぎた魔物の駆除はある程度人のためになるが、あまりにも駆除しすぎると他の冒険者の稼ぎを奪うことにもつながってしまう。


 当然ながらそれを知っているのだろう、隊長は一度柏手を打つと、周囲にいた調査隊の面々に声をかけた。


「さて、じゃあそろそろ出発だ。帰還するにしても奥へ進むにしても、いったんここを離れ――――」

「た、隊長! 後ろにっ!後ろにっ!!」


 その時、その隊員の一人が何かを叫びながら隊長の後ろを指さす。俺たちもそれにつられて、その指さす先に視線を向ける――


「――――――――ッ!?」


 と、同時に一陣の風が、吹いた。自然に吹くそよ風ではなく、何か大きなものが空気を叩いて発生させた、人間が足を取られて転倒するような強力な風。


「これはっ……何が起きてるんだっ!?」


 地面に転がされた俺たちがその風の出元に視線をやってみると、まず目に入ったのは3メートルを越える漆黒の体躯だった。ついで空を覆い尽くさんばかりに広げられた同色の翼が目に付き、さらに禍々しい形をした口からは地獄の業火かと思われるほどの色合いの炎がそれらを照らし出してる。


 その化け物は俺たちを一つしかない目で睥睨し、大きく息を吸って天も裂けよとばかりに叫ぶ。


「「ギャァァアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」


 大量の魔物を相手どったばかりの疲弊した俺たちの前に突如出現したのは、怒りに空気を煮え滾らせる隻眼の黒竜だった。


えーと、すみません、まったやらかしました……

申し訳ないです……


……遅刻しながらの更新になりますが、魔法少女最新話更新です。

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