表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/35

1-15


 ――空を見上げれば、雲一つない快晴。風もおだやかに付記渡り、気温は過度に暑くも寒くもない。


 武器のメンテナンスよし。魔法の準備よし。戸締まりよし。忘れ物なし。後顧の憂いなし。


 そして俺は今、夜中に自分から依頼した偵察クエストのために、ギルドのクエスト出発口に集まっていた。


 駆け出し冒険者たちの命と、この街の安寧を守るため、その胸に宿る魂は熱く燃えている――


「どうも。私は冒険者ギルド東部支部所属の魔物調査隊隊長、クリークと申します。どうぞお見知り置きを」

「ハイ、よろしくお願いしゃす……」


 ――なんて、そんな幻想を見ていた時期が、俺にもありました。


 なんだろう。昨日はやけに変な夢を見たんだよな。夜中に起き出して食いそびれた夕飯を食いに行って、そしたら酒場に帰ってきた俺をほろ酔いのミーシャとセレスが待っていて、女遊びに行っていたんじゃないかとか糾弾されたあげく、俺が行きで強引に渡された風俗店員の名刺を見つけたセレスが俺にものっすごい笑顔を向けてくるっていう夢だったんだ。


 いやぁ、あんまりにもリアルな夢だったもんだから、思わず今朝は跳び起きちまったよ。あのあとなにがあったかは分からないけど、体の節々がやけに痛むんだもんな。あっはっははは……


「お前、クリークさんを誰だとわきまえるんだ! 冒険者風情が、生意気だぞ!?」

「――んぁ?」


 どうやら俺は、その魔物調査し隊? だっけ? の隊長さんと挨拶の言葉を交わしたっきりでボーッとしていたらしい。気付けば、いかにもちょい役といった陰の薄そうなおっちゃんが、俺に人差し指を向けて何か叫んでいた。


「あれ? あんたもこの魔物調査し隊のメンバーさん?」

「だれが魔物調査したいだ! ふざけてるのか!?」

「あ、いや、すんません…………」

「いやいや、ユーモアに溢れていていいんじゃないか? 私はおもしろいと思うが?」


 そういって場をとりなしてくれたのは金髪オールバックのメガネ、もとい魔物調査し隊の隊長さん。名前、なんつったっけ? クリープさん? 


「では本日のクエストの概要を今一度説明しよう。このクエストは「中央の森」にこのたび竜種が出現したという噂の確認と、竜種の観察であり――」


 俺たちも、おそらく魔物調査し隊のメンバーも把握しているであろう話をクリープがし始めたあたりで、あくびをかみ殺す俺のわき腹をこづくやつがいた。ふと隣を見てみると、そこにいたのはこっちを心配半分あきれ半分の表情で見やるミーシャだった。


「ちょっとユースケ、なにボーッとしてんのよ?」

「いやな、なんか昨日見た悪夢のことを思い出しちまってよ……。それと、あと体の節々も痛いもんだからちょっとな」


 俺がそういうと、なぜかミーシャとセレスがふたりしていきなりビクッと体と表情をこわばらせた。


 何事かと俺が首を傾げるのもつかの間、なぜかセレスが戦々恐々とした様子で俺に話しかけてきた。


「ゆ、ユースケ様、もしよろしければ今ここで回復系の魔法をかけさせていただけませんか?」

「え? いや、いいよ、怪我もしてねぇのに魔法使ったら、もったいないぞ?」

「で、でも、体の節々が痛むとかって……」

「ああ、それか。まあどうせ、ベッドでねちがえたとかだろ? 気にすんなって……」


 そういって手をひらひらと振るが、ミーシャとセレスの表情は晴れない。おかしいな、俺は自分がみた悪夢の話をしているんだが。あれか? この竜種の偵察に差し支えてはいけないと思って俺の精神的な体調を思いやっているのか?


「いや、でも……」


 なおも食い下がるセレスを後目に、どうやら話を終えたらしいクリープが仲間を連れて移動しだした。おそらく、馬車の発着所にでも向かうんだろう。


「調査し隊の人が移動を始めたっぽいぞ。俺たちも行こう」

「え、ええ、そうね……」

「ユースケ様、一回だけでいいので……」

「お前ら、なんか不自然だな……」


 やっぱりどこかぎこちない仲間にこれ以上つきあってもいられないので、俺はとっとと調査し隊の人を追うことにした。



 安直きわまりないその名前が示すとおり、中央の森は街の大通りからずっと直進した方向に存在している。


 実はこの森が初心者向けのフィールドとして有名なのはその表面上のあたりだけであり、しかもその付近は開けた平野がずっと続いていて、ところどころに木がぽつぽつと点在しているだけの森ですらない場所になっているのだ。


 そして今、見晴らしがよく、魔物を遠くからも視認できることで駆け出し冒険者も戦闘の準備を整えやすいこの場所には、その利点も意味をなさないような魔物の海ができあがっていた。


「これ、いくらなんでも多すぎやしないか!?」


 魔物調査し隊の誰かが悲鳴混じりの声を上げる。イノシシのクエストの時に俺も似たようなことを叫んだ記憶があるが、魔物の密度はあのときより遙かに上だ。


 俺たちの周りはそれほどでもないが、やや高台になった現在地から遠くを見渡してみれば、まさに海としか形容しようのない数の魔物がうごめいているのがよく見える。木が周囲に存在しない為に状況がクリアに見えるのが、逆に俺たちに絶望感を与えているような気がした。


「――《グラビティ・ポイント》!」


 調査隊の誰かが放ったらしい魔法で視界の隅に出現した宙に浮く黒い小球が、出現の一瞬後にして地球のそれにもまさる重力点となり、何十匹もの魔物を一瞬で引き寄せて押しつぶす。


 魔物を引き寄せたり突き放したりとトリッキーな戦闘を展開することができるのがこの重力魔法だが、あまりの魔物の多さにその重力点を中心に魔物の血肉でできた大玉が形成されつつあるのを見て、術者も声を失ってしばしの間愕然としていた。


「キシャァァアアアアッッ!!」


 そして、その一瞬の隙を見逃す魔物ではない。人間大はあろうかという真っ黒な大蜘蛛がその顎を開き、寄声とともに術者に飛びかからんとする。


「《ファイヤーアロー》!」


 もちろん、それを黙ってみていられるほど俺もふぬけではないし、非情でもない。火魔法でもピンポイントで対象を狙うことのできるものを打ち込み、顎を閉じる寸前だった蜘蛛をのけぞらせることに成功した。


 突然ブチ当てられた灼熱の矢に反応を示した大蜘蛛が敵意も露わに俺の方へ向き直り、カサカサとなかなかに気色悪い動きで地面を疾走して近寄ってくる。


「――――ッ!」


 俺だって、魔物の接近を黙ってみているわけではない。蜘蛛が接近してくるその間にも、俺は走りながら鞘から抜いた剣を構え、衝突の瞬間に無音の気勢とともに横薙に振り抜く。


 軽い手応えのみを残して一瞬にして頭を上下に分断された蜘蛛は、疾走の勢いを殺しきれずにそのまま数メートルほど地面を滑ってから停止した。


 剣を振り抜いたままの姿勢で残心すること数秒、無意識に詰めていた息をふっと緩めて蜘蛛に駆け足で近寄り、すでに息絶えていることを確認してから腰を抜かしてへたりこんでいる術者に向かって顔を上げる。


「何をしてるんだ!? さっさと次の魔法を撃たないと、あっと言う間に包囲されて全滅するぞ!」

「――あ、ああ、悪い、助かった」


 そういって立ち上がった術者がまた次の魔法を撃ちだしたのを見届けてから、周囲の状況をざっと把握する。


 今現在、小高い丘の上で戦闘を行っている俺たちの周りは、360度くまなく魔物の壁で包囲されていた。周囲にいる魔物の数は、ざっと見ても100から150といったところか。どう見ても、初心者が来るフィールドの、それも浅いところで相手にしていいような数ではなかった。


 俺たち前衛が魔物を率先して狩り、後衛の魔法使いがそれを支援魔法や範囲魔法でサポートしている。魔物の中には遠距離からの魔法を撃ってくるやつもいて、それは調査隊のやつらが結界型の防護魔法で対処している、といった塩梅の戦闘をさっきから繰り広げているのだった。


 でもその包囲網をどんどん切り崩しても、周りから次第に魔物が集まってくる上に、その数は次第に増え続けているのだ。調査隊でも魔法を撃ち続けている術者やずっと魔物に剣を振るっている前衛はしばらく気づかないだろうが、ちょっと冷静に周囲を把握してみれば、この状況が明らかに劣勢であることが理解できるはずだ。


 その証拠に少し耳を澄ませば、さっきの術者を見ていた周りの調査隊も、魔法を次々連射しながらもめいめいに愚痴を漏らしているのが耳に入る。


 目の前の魔物を殺すことのみを考え続けていた奴らも、あまりにも減らない敵を前に少し頭を冷やしたらしい。


「くっそ、今の蜘蛛なんて、こんな場所に来るわけがないのにっ……!? 何でだよっ!」

「これが、竜種の影響なのか……!?、周囲の魔物があり得ない勢いで増殖しているったって、こんなものだとは聞いていないぞっ!」


 この状況だったら俺もこうして傍観しているのではなく、さっさとあの前衛の中に加わって魔物の壁を退ける手伝いをするべきかもしれない。だが、次々と増え続ける魔物を相手にしていてはそれも焼け石に水だ。


 それに、俺がここに立って周囲の観察をしているのは、少しばかり気になることがあったからだ。


 ひしめきあう魔物の壁に参加している多種多様な魔物は、もはや種類もサイズも関係あるかとばかりに敵を押しつぶすというだけが目的のように見える。


 だがこの世界の魔物とて、一応は生物だ。種族ごとに攻撃性も違えば、お互いに敵対関係にあるものもいる。冒険者を見ても全く攻撃してこないものもあるし、別種族同士で戦闘をしている光景だって見たことがある。


 それなのに今のこの壁の中には、その種族としての問題をすべて廃して、ただ俺たちを殺そうという意志の元に統制された魔物たちがうごめいているように感じるのだ。


 ここまで一糸乱れぬ統制をしているとなると、それはもう一種類の魔物による洗脳が――


「――そこですわよね」


 と、いきなり背後から響く聞きなれた声。


「うぉわっ!?」


 振り返ってみれば、腕を組んで眉根を寄せる俺と変わらないポーズを取ったセレスがいた。


「……って、セレスか、驚かすなよ……」

「いや、驚かすつもりはなかったのですが……すみません」


 そういって苦笑いするセレスには、返り血一つついていない。おおかた、また範囲魔法で魔物を一掃していたのだろう。


「っつかお前、いいのか? お前の範囲魔法は強力なんだから、適当に魔物をあしらってるだけでも役に立つと思うんだが……」

「時間が経つにつれて劣勢になると言うのに、わざわざ増え続ける魔物の足止めをし続けるのは非効率的ですわ。それよりも、この状況の打破を考えた方がいいですわよ。それにユースケ様も、おおかた私と同じことを考えていたのでしょう?」

「確かにそうだけど……でも、状況を打破するにしてもあまり時間がない。とっとと方法を考えよう」

「ユースケ様の考えたとおり、おそらくあの中に魔物を指揮している指令塔のような役割をしているものがいるはずです。……まあ、ここまで盲目的に魔物を動かすとなれば、洗脳と言った方がいいかもしれませんね」

「……ねぇ、あの女店主はさておくとしても、お前は俺の心を読めるの?」

「それは女の子の秘密ですの♪」


 そういってセレスはほほえんだ。エスパーかと疑うようなセレスの洞察力が俺としては非常に気になるところなのだが、「――それよりも、あの女店主って誰のことですか?」なんて暗い表情で聞かれてきたらもう、とっとと話題を逸らすしかない。


「で、まあ、一番怪しいのはあの辺りだよな」


 そういって俺が指さした先は、俺たちを取り囲む魔物の層がなぜか不自然に多いところ。指令塔としての魔物なら、自分を無意識に守ろうとして自分の周りに多くの魔物を配置するかも知れないという考えだ。


 もちろん、それが向こう側のブラフである可能性も一切否定できない。だが、このままジリ貧で押し込まれるぐらいならば、その状況を打破できる一手にかけるしかない。

「ですわね。ちなみにユースケ様、その指令塔になる魔物に検討は――」

「ついてたら、苦労しないよな」

「――ですわよね」


 そういって苦笑するセレス。


本日も一本投稿です。

今日はなんとか日付け更新前に上げられました……(((疲


執筆中の話に更新中の奴が追いつきかけています(((( ;゜д゜)))アワワワワ

頑張らねば……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ