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プロローグ

どうも、アキです。

えー、どこからおわびしたらいいものか……


はい、まずは本来の予定よりも一日早く小説の削除&改稿を行ってしまったことですかね……すみません、今週の休みの把握ができてなかったんです。もし今日元データを見ようと思っていたかたがいらっしゃいましたら、遠慮なく申し付けてください。全力でお詫びするとともに、バックアップデータをお渡しさせていただきます。


えーと、加えてもう一つ。このたび執筆にポメラ(小型のワープロ的な何か)の導入をすることにしたのですが、このポメラに搭載された記号がすこし少ないんですね。文字コードを呼び出せばよかったと気づいたのがつい昨日のことだたっため、記号が少し見にくいかなーと。傍点、送り仮名も現状はないです。


というわけでいろいろ一新した「倹約+魔法少女=楽じゃない。」ですが、どうぞよろしくお願いします。

本日はもう3つ一気に投稿の予定です。




 自分の頭がコンマ一秒前まであった場所を、ものすごい音を立てて爆炎の塊が風を切りながら通過していった。


「――――ッ!」


 もし自分が足を動かすのがあと半秒遅かったらと思うと、背筋を冷たいものが流れる。


 紙一重のあぶなっかしさで回避をつづけ、地を転がり続けるなんていうのは、竜種を相手にしたときの対処法としてはもっともやってはいけない、半ば禁忌のようなものだった。だが、それも今は仕方がない。自分たちが選択したこのクエストには、竜種の存在はいっさい明記されていなかったのだから。


 帰ったらせいぜい賠償金の請求と愚痴の垂れ流しでもしてやると歯を食いしばり、自分たちの身の丈を遙かに越えて眼前に立つ竜種をキッと見据える。自分のその目線を攻撃的なものとして判断してのことか、その竜種はこっちをひたと見据えると、鼓膜が破れそうなほどの咆哮を放ってきた。


「「ギャァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」


 幾重にも響いて鼓膜を叩くその音に、思わず耳をふさぎたくなる。


「くっそ、これじゃいつまで経っても埒があかねぇ!」


 同行していた仲間が言い放った悲痛な声が、雄叫びに混じって鼓膜を揺らした。同様の感想を抱いていた自分も、気づけば下唇を軽くかんでいた。


「――おい、そっちの魔法の残数はどんぐらいだ?」


 仲間からかけられたその言葉にふと我に返り、なおもこちらにめがけて降り注ぐ鋭いツメや燃え盛る爆炎を辛くも回避しながらも自分の魔法残数を確認する。


「防御と強化が少し。《切り札》も、こないだ使って補充もしてない! せめて目くらましでもあれば、ちったあマシだっ――」


 たろうな、とは続かなかった。いつの間にか自分の死角に入り込んでいた竜種がブレスを撃ちだしたのを半ば勘のようなもので気づけたのは幸いだっただろう。


「――チッ!」


 この距離から回避を試みたのでは、着弾してから爆散した炎に身を焼かれてしまう。よって回避は不可能、魔法によっての防御を試みるしかない。


 迫りくる爆炎をじっと凝視し、予想される射線から、わずかに身をそらす。そうすればあとは、左手を前に掲げるだけで魔法発動の準備が整うのだ。


「――《シールド》ッ!」


 そう叫んだ直後、左手のあたりが青白く発光して文字通り《盾》のようなものを出現させ、ほぼ同時に重たい衝突音が響き、それに違わぬ鈍い衝撃が掲げた手から足まで地を貫いて駆け抜けた。


「ぉお、りゃあっ!」


 斜めになるようにして受けた火球と一瞬だけ盾をせめぎあわせ、直後に裏拳の要領でその火球を自分の遙か後方へ吹き飛ばす。飛ばされた火球はこずえの合間を縫ってしばらく飛び、後ろの方に立ち並んでいた木々を巻き込んで爆発した。一瞬でも誘導操作を誤れば自分が消し炭になっていたかもしれない現実に、思わず冷や汗が吹き出る。


「ハッ、はあっ…………」


 魔法の無理な使用をしたことで本来のシールドの使い方は、相手の攻撃を障壁でふせぐというものなのだが、竜種のブレスなんかを相手にするならこの三ランクは上のものを用いないと、シールドの方が威力に負けて粉砕してしまう。一応いくつものシールドを発動すれば耐えられなくもなかったが、この危機的状況下では避けたいところだった。


「さっすが、熟練者は魔法の使い方も一流だね」

「こんなもの、生きて帰れたならいくらでも教えてやるさ」


 その物言いに仲間はフッと短くため息をもらし、羽を畳んで突撃の準備態勢に入った竜種を見つめながらしかめっ面を作った。


「――にしてもどうすっかな、これ。俺もお前も、そろそろ本当に魔法がなくなるぞ」


 そんなことはない、俺たちは絶対に生きて帰れるんだ――と言い切れるほど、自分は楽天家ではなかった。


 簡単な採取用クエストに出向いたらたまたま竜種にはち合わせるなんてばかげたこと、そうそうあることでもない。ついこの間の大規模な戦闘のせいで、魔法も大したものを持っていないということも、一発逆転を可能にする《切り札》になる魔法も持ち合わせが無いのも最悪だった。そして滅多にないと言うことは、言い換えれば明確な解決法があまり明示されていないということでもある。


 竜種の突撃を地に転がって回避しながらも、頭の中ではこの状況の解決策が浮かんでは消えた。だがしかし、どれも決定打にはなり得ないものばかりだ。


 もしかしてここで人生が詰んだのか、という後ろ向きな思考が頭をよぎり始めた、その瞬間。


「おいっ、聞け! 目つぶしの方法が一個だけあるかもしれない!」

「――本当か!?」


 その言葉が信じられずに思わず聞き返したところ、向こうは大きくうなずいた。


「俺が隙を見て撃ち込む! お前はできれば、あいつを引きつけておいてほしい!」


「っ、了解!」


 生存の道が見つかったことに高ぶる心を押さえつけ、今度は死なないためではなく生きるために、竜種に対峙する。


「おい竜種、こっちだっ!――《ラピッド》っ!」


 精一杯絞り出した怒声につられて竜種が振り返ったのを確認し、自分自身に強化魔法をかける。自分の動きのスピードを数段上げるこの魔法で、竜種をかく乱してしばらく食い止めようという考えだ。


「ッ!」


 懐から小振りのナイフを取り出し、足に力を込める。地を蹴って駆け出したその一歩は、ゆうに数メートル以上の距離をありえないスピードで一気に詰める。最後に振り抜いたナイフが、竜種の片足を薄く裂いたのが高速で動かした手越しに伝わってきた。今までは圧倒的優勢でもって攻撃していたはずの相手からのいきなりの反撃に竜種があげた叫びは無視して、さらにもう一度だけナイフを振るってから素早く離脱する。


 緊張と疲労で整わない息をつきながら前を見ると、こっちをにらみつける竜種と目があった。その目にはさっきまでとはまったく次元の異なる殺気が宿り、自分に対する明確な殺意が見て取れる。思わずかたずをのんでナイフを構えなおす中、その竜種の背後をとるような形で仲間が左手を前に構えるのが目に入った。自分の役目が終了したことをしらせるその証に、あいつは自分に向かってにやりと笑って見せた。


「《ソリッド》、《ラピッド》――――」


 そう口にすると、彼の目の前に発光する円環がふたつ、出現する。属性付与系の魔法が発動するときの円環に竜種もようやく気がついたのか、後ろを振り返って強力なブレスを発射しようとした。


「――《クリティカル》!」


 だが仲間はそれよりも早く、魔法を発動していない右手に持っていたいくつかの石ころを、最後の魔法詠唱とともに円環に投げこんでいた。


 手を放れた瞬間はてんでばらばらな方向に飛んでいた石は、発光する円環に入った瞬間に不自然に中空で制止したかと思うと、その直後に猛然としたスピードで発射される。堅さと射出速度、そして命中率の上昇を付与された石ころたちは、いまにもブレスを撃とうとしていた竜種の両目をしたたかに撃ち据えた。


「――っし!」


 悲鳴のようなものをあげてのたうつ竜種を無視して、自分たちは示し合わせたかのようなタイミングで竜種に背を向け、走りだす。もちろんそのとき、スピード強化の魔法を自分にかけておくのも忘れない。


「……グッジョブ」

「だろ? 惚れてもいいんだぜ?」

「バカ言え」


 満面の笑みを向けてくる仲間にあきれたような表情を向けながら、生い茂る木の隙間を疾走していく。


「ここから街まで走りきれば、そう大した時間はかからないな」

「ハッ、帰ったらまずはギルドの連中に愚痴の一つでも垂れてやろうぜ。こっちの持ってる情報だって、別段利益にならないものじゃないしな」

「そいつぁ名案だな。あのギルドの調査隊どもが目を白黒させてあわてふためくのを見るのも、悪くないかもしれない」


 その、とき。


 森の中を疾走する自分の耳を、何かの音がかすかにうった。森の木々がさざめく音に紛れて重く一定の周期でもって繰り返される、生物的な音。


「………………?」


 意識を傾けてみても、その音の正体がなんたるかを判断することはできない。


「賠償額はざっと数えてもまあ――っておい、聞いてんのかよ?」

「――何か、聞こえないか」


 その口調に込められた、警戒と恐怖を感じ取ったのだろう。一瞬前まではギルドに請求する賠償金の額について皮算用の熱弁をかざしていた仲間も、ふっと真剣な表情になる。


「どんな音だ?」

「なんだろう。重低音みたいなのが、周期的に繰り返されてて…………だめだ、音が小さくてよく聞こえない」


 そしてその音は、しばらくしない内にフェードアウトし、自分の聴覚でとらえることは難しくなってしまった。


 だがしかし、次は聴覚よりも視覚でそれはとらえられる。併走していた仲間がなぜかいきなり立ち止まり、感情のぬけ落ちた声でぽつりとこう口にした。


「おい、冗談じゃねえぞ」


 なにが、という問いに対する答えは、一秒後に実現するという形で示された。


「――――ッッ!?」


 突然に、顔の前から強烈な風が吹き付けてきた。


 そう感じた次の瞬間には、あっけなく体のバランス感覚が失われた。視界の中で天地が逆転し、一瞬にして自分は地面に体を投げ出すことになった。いっさいの受け身をとることもあたわずに転がされたことで揺れる視界の中、轟音を伴って現れたそれを、見る。


 隆々と盛り上がる筋肉を覆うのは、濡れてぞっとするような光沢をおびた鱗。


 背中から生えるのは、その一振りで人が殺せるような、一対の羽。


 風によって巻き上げられた粉塵で視界が制限されてもその光でもって自分たちを射抜く一つしかない光点は、迷うことない殺気に満たされている。


「嘘、だろ?」


 そう絞り出した自分の声がかすれていたのは、地面に強くたたきつけられたことによるものだけなのか。今自分たちの前に立ちはだかっていたのは、自分たちがさっきまで相手をしていたばかりの、全長10メートルはあろうかという恐怖の権化にして魔物中最強を誇る、竜種だった。


「さっきの眼つぶしは!? 確かに効いていたはずだったのに!?」

「あいつ、片目だけ優先して治しやがったんだ! 片目はもう使えないが、それでも今ヤツの目が片方でも使えるのはでかすぎる!」


 粉塵がおさまって視界が晴れると、その竜種はなおもわめきつづけるこっちをしっかりと見据え、そして口を開いた。


「――まずい、耳をふさげッ!」


 意識せず、背筋を何か冷たいものが伝う。竜種のもっとも基本的な威嚇手段である咆哮の存在をたとえ一瞬でも頭から消し去ってしまったのが、仲間と自分への情報伝達の遅延が、命取りになった。


「――――っ!」


 直後、頭を金槌か何かで滅多打ちにれたような衝撃が爆発した。


 対竜種戦においてもっともしてはいけないことの一つが、威嚇行動である咆哮をまともに食らうこと。


 三半規管を直にぶん殴るようなダメージを与えるこの行動は、まともに食らえばしばらくのあいだ両足で立つこともままならない。


 そして、そのしばらくというのが過ぎ去るまでの間に、竜種というのはその狩りを終えるのだ。


「――あ、ぅ」


 ぐらぐらと揺れる意識が、酒の酩酊なんかより何十倍も重たくしつこく体の動きを阻害する。さっきから立ち上がろうと手を地面についてみてはいるが、なかなか立ち上がることができない。


 咆哮を撃ってからなぜかブレスも放たずにこちらにむかう竜種に、ならば立てないにしても一矢報いてやろうと腰のナイフに手を伸ばし――、


 そこでふと、手が止まった。


「――もしかして」


 一日に二回も竜種に遭遇するなんて、ふつうならあり得ない。一回目ならないこともないが、二回なんて言うのは前代未聞だ。すくなくとも偶然に出会うなんて言うことはありえない。


 それが、偶然なら。


 竜種は、血を追いかけて獲物を探している、という話を聞いたことがあった。それも、人間や動物ではない。傷ついた仲間の元へいち早く駆けつけるため、そして竜種を殺したものを殺すため、竜種は同族の血に引かれる傾向がある。


 そして、自分が今まさに柄に手をかけたこのナイフに付着しているのは、いったい何の血だ?


 今さっき使ったままのナイフを血もろくに払わずにこの森の中を疾走してきたのは、どこの誰だ?


「――ああ、」


 そのため息のようなつぶやきをかき消すような轟音が一つ、響く。


 真実は単純にして、残酷だった。


 自分が竜種をおびきよせていたということも。


 そして今、自分の眼前に巨大な火球が迫ってきているということも。


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