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「無能な寄生虫」と婚約破棄した王太子様、隣国の皇帝陛下が私を「伝説の再来」と呼んで跪いているのですが、今さら戻ってこいなんて冗談ですよね?

作者: 佐新
掲載日:2026/02/21

第1章:夜会での断罪と、静かなる報復

「エルゼ・フォン・クロイツァー! 貴様との婚約を今この瞬間、破棄する!」

王立夜会のきらびやかな喧騒が、一瞬で凍りついた。

広間の中心、シャンデリアの光を浴びて叫んでいるのは、私の婚約者であるエリオット王太子だ。その隣には、彼に守られるようにして震えている男爵令嬢、ミラベルがしがみついている。

私は手に持っていた扇をゆっくりと閉じた。

「……理由を伺ってもよろしいでしょうか、エリオット殿下」

「しらじらしい! 貴様は聖女の血筋でありながら、癒やしの魔法一つ使えない無能だ。それどころか、可憐なミラベルを嫉妬から虐め、階段から突き落としたそうだな!」

周囲の貴族たちから、さざなみのような蔑みの声が漏れる。

「ひどい……」「無能なうえに性格まで悪いとは」「クロイツァー公爵家の恥さらしだ」

事実無根だ。ミラベルが勝手に転んで悲鳴を上げたのを、私は離れた場所から見ていただけ。

けれど、この場に私の味方はいない。

「殿下……エルゼ様を責めないであげてください。私が、私が不器用だっただけなのですわ……っ」

ミラベルが上目遣いで涙をこぼす。エリオットは彼女の肩を抱き寄せ、私を汚物を見るような目で睨みつけた。

「黙れ、毒婦め! 貴様は我が国の魔力を食いつぶすだけの『寄生虫』だ。今日限りで貴様を国外追放に処す。二度と、この国の地を踏むな!」

……寄生虫、ですか。

私は心の中で冷たく笑った。

私がこの国に嫁いできてから三年間。この国が一度も飢饉に見舞われず、疫病も流行らず、一年中花が咲き乱れていた理由を、この愚かな男は一度も考えたことがないらしい。

私の魔力は「癒やし」という目に見える形ではなく、大地を浄化し、万物の生命力を底上げする**『常時発動型・広域浄化結界』**として、国中に張り巡らされていたのだ。

「承知いたしました。そこまで仰るのなら、今すぐ出てまいります」

「ふん、さっさと失せろ! 貴様の持ち物など一切持っていくなよ!」

「ええ、もちろんです。……ただし、私が『設置したもの』については、すべて返却させていただきますね。私の『私物』ですので」

私は優雅にカーテシーをした。

そして、意識の奥にある「スイッチ」を切り替えた。

(――《契約解除・因果回帰》)

その瞬間、目には見えない黄金の糸が、王都の隅々、畑の土壌、川の源流からパチンとはじけ、私の背中へと一気に戻ってきた。

膨大な魔力が体内に還る衝撃で、髪がふわリと浮き上がる。

「な、なんだ? 今、風が吹いたか?」

エリオットが怪訝そうに周囲を見回すが、無能な彼には何も見えていない。

「では、さようなら。皆様の未来に、相応しい報いがありますように」

私は一度も振り返らず、夜会の会場を後にした。

背後では、エリオットとミラベルが勝利の美酒を酌み交わす陽気な音楽が再開されていたけれど、それもあと数日の命だということに、彼らはまだ気づいていなかった。


第2章:隣国の死神皇帝との邂逅

アステリア王国を去って三日。

私はぼろぼろの馬車を乗り継ぎ、隣国「バルツァー帝国」の国境へとたどり着いた。

この国は魔獣が多く、土地が痩せ、常に死の気配が漂う「死神の国」と呼ばれている。

「……さすがに、魔力を引き戻しすぎたかしら」

国中の魔力を体内に収めたせいで、全身が熱い。

馬車を降りた瞬間、膝の力が抜け、地面に倒れそうになった。

「――危ないぞ、お嬢さん」

強い力で抱きとめられた。

顔を上げると、そこには夜の闇を溶かしたような黒髪と、燃えるような紅い瞳を持つ男がいた。

漆黒の軍服。冷徹な美貌。彼から放たれる圧倒的な覇気に、周囲の空気さえも震えている。

「……ガイウス、陛下……?」

バルツァー帝国の若き皇帝、ガイウス・フォン・バルツァー。

「アステリアの国境から、とてつもない『光』が流れてきたと思えば……まさか、エルゼ・フォン・クロイツァー公爵令嬢か?」

彼は私の顔をじっと見つめ、驚いたように目を見開いた。

「……なぜ、君のような至宝が、たった一人でこんな場所にいる」

「捨てられたのです。『無能な寄生虫』だと……」

私が自嘲気味に笑うと、ガイウス陛下の瞳に鋭い怒りの色が宿った。

しかし、その怒りは私ではなく、私を捨てた国へ向けられたものだった。

「無能だと? 冗談ではない。今、我が国の枯れた大地が、君が触れた場所から芽吹き始めているのが見えないのか」

言われて足元を見ると、私が倒れかけた場所から、真っ白な花が次々と咲き誇っていた。

私の体から溢れ出す魔力が、帝国の不毛な土壌を癒やし始めているのだ。

「エルゼ。……アステリアの愚か者たちが君をいらないと言うのなら、私が君を奪いたい。我が帝国の皇妃として、そして、この国を救う女神として」

彼は国境の荒れ地で、迷うことなく片膝を突き、私の手をとった。

「君を傷つける者は、私の軍勢がすべて滅ぼそう。君の微笑みのために、私は世界のすべてを捧げる」

つい数日前、最も愛したはずの男に「寄生虫」と呼ばれた私。

その私が、世界で最も恐ろしい皇帝に、神のごとく跪かれている。

「……私で、よろしければ」

私の小さな答えを聞いた瞬間、皇帝は子供のように嬉しそうに微笑み、私を強く抱きしめた。

それは、アステリア王国が「真の地獄」へと突き落とされる、カウントダウンの始まりだった。


第3章:崩壊の足音と、甘すぎる休息

エルゼが去ってから一週間。アステリア王国は、文字通り「色」を失い始めていた。

「どういうことだ……。なぜ庭のバラがすべて枯れている!」

エリオットは、朝の散歩道で絶叫した。

かつて一年中咲き誇っていた王宮の庭園は、今や見る影もない。花は黒ずんで萎れ、噴水の水は泥混じりになり、鼻をつくような腐敗臭が漂っている。

「で、殿下! 報告によりますと、王都近郊の農地でも作物が一斉に立ち枯れており……国民からは『聖女様の祈りが足りないせいだ』と不満の声が上がっております!」

「ミラベル! ミラベルはどうした!」

呼び出されたミラベルは、真っ青な顔で震えていた。

「……わ、私だって祈っていますわ! でも、どうしても光が出ないのです……っ」

「役立たずめ! あのエルゼでさえ、立っているだけで結界を維持していたというのに!」

エリオットはまだ気づいていない。

エルゼは「立っていただけ」ではない。彼女がその膨大な魔力を一瞬も絶やすことなく、血管を巡る血のように国中に流し続けていたからこそ、この国は繁栄していたのだということに。

心臓を自ら抉り出しておいて、体が動かないと嘆いているようなものだ。

一方、バルツァー帝国。

エルゼは、豪華絢爛な離宮のベッドで、人生で初めて「朝寝坊」というものを経験していた。

「……ふわぁ。……あら、もうこんな時間?」

アステリアにいた頃は、日の出前から国中の浄化結界を調整し、深夜まで魔力計算に追われていた。

けれどここでは、目覚めればふかふかの寝具と、甘い花の香り。そして――。

「おはよう、私の愛しい女神」

カーテンを開けて入ってきたのは、皇帝ガイウス本人だった。

彼は慣れた手つきでエルゼの腰に腕を回し、寝起きの額に優しくキスを落とした。

「……陛下。皇帝陛下が、朝からこのような場所へ来られては困ります」

「いや、困るのは私の方だ。君が私の隣で目覚めてくれないから、執務室まで君を運ぼうかと思っていたところだよ」

ガイウスの溺愛ぶりは、帝国の重臣たちをも震え上がらせていた。

冷酷無比で知られた皇帝が、今やエルゼに食べさせるためだけに、隣国から最高級の果物を取り寄せ、彼女が歩く廊下には「足が痛くないように」と毛足の長い絨毯を三重に敷かせているのだ。

「エルゼ、今日は北の離宮まで散歩に行こう。君が昨日『あそこに緑があればいいのに』と言ってくれたおかげで、一晩で木々が芽吹いた。魔法騎士団が驚いて腰を抜かしていたぞ」

「それは……私の魔力が勝手にお裾分けしてしまったようで、すみません」

「謝る必要はない。君が存在するだけで、この国は救われているんだ」

ガイウスはエルゼの手をとり、愛おしそうに指先に唇を寄せた。

「アステリアから、君を連れ戻したいという打診が届いている。……どうしたい?」

エルゼの瞳から、スッと体温が消えた。

「……お断りいたします。私、あの国では『寄生虫』でしたもの。死神の国と呼ばれるこちらの方が、よほど温かくて居心地が良いのです」

「……そうか。ならば、その『寄生虫』がいなくなった後のあちらの惨状を、見せてあげよう」

ガイウスの紅い瞳が、残酷な愉悦に細められた。


第4章:後悔してももう遅い

それから一ヶ月。

アステリア王国は、まさに末期的な状況にあった。

飢饉、疫病、そして魔獣の大量発生。

国民の怒りは頂点に達し、王宮前では連日「王太子を退位させろ」という暴動が起きていた。

「……エルゼ。エルゼを呼び戻すしかない」

エリオットは、今さらながら悟った。

あの日、彼女が言った「私の私物を返却させていただきます」という言葉。

彼女が持ち出したのは、荷物ではなく、この国の「生命」そのものだったのだと。

エリオットは自ら馬に乗り、帝国の国境へと向かった。

「エルゼ! 私だ、エリオットだ! 迎えに来てやったぞ!」

国境の砦で彼を待ち構えていたのは、鉄壁の守りを誇る帝国の騎士団。

そして、その中央で、ガイウス皇帝に抱き寄せられたエルゼだった。

「エルゼ! 済まなかった、私が悪かった! 追放は取り消してやる。ミラベルも側妃として置いてやるから、さあ、今すぐ戻って国を元通りにしろ!」

エリオットの厚顔無恥な叫びに、周囲の帝国騎士たちが一斉に剣を抜いた。

凄まじい殺気がエリオットを襲う。

「……国を、元通りに?」

エルゼは、ガイウスの腕の中で、くすりと笑った。

その笑顔は、かつてエリオットに向けられていた献身的なものではなく、ただの「他人」に向ける、優雅で冷徹なもの。

「エリオット様。あの日、貴方は仰いましたよね? 私は国の魔力を食いつぶすだけの、不要な寄生虫だと」

「そ、それは……ただの言い間違いだ!」

「いいえ。私は貴方の言葉を尊重し、不要な寄生虫としてこの国へ参りました。ここでは、私は何もしなくても『愛している』と言っていただけるのです。……誰からも必要とされなかった私を、唯一必要としてくれたのは、ガイウス陛下なのです」

「エルゼ……ッ!」

ガイウスがエルゼの肩を抱き寄せ、冷たい視線でエリオットを射抜いた。

「聞こえたか、アステリアの小倅。……君に与えられるのは、謝罪の機会ではない。我が国の皇妃を辱めたことへの、宣戦布告だ」

「な……!?」

「アステリアが保有していた魔力資源の不当利用。および、エルゼへの精神的苦痛。それらすべてを、領土の割譲と巨額の賠償金で支払ってもらおう。……断れば、我が軍が貴国の王都を更地にする」

「そんな……! そんな殺生な!」

地面に泣き崩れるエリオット。

かつての威厳など微塵もない。

エルゼはそんな元婚約者には目もくれず、ガイウスを見上げて微笑んだ。

「陛下、帰りましょう。今日は、離宮の薔薇が満開になるはずですから」

「ああ。君の笑顔が一番の薬だ」

二人は背を向け、光り輝く帝都へと戻っていった。

後に残されたのは、乾いた砂風が吹き荒れる、滅びゆく王国の残骸だけだった。

読んでくださってありがとうございます!!!

もしも面白かったらブックマークと下の星を★★★★★にしてくれると嬉しいです!誤字脱字があった際には教えてください。すぐに修正します!


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― 新着の感想 ―
これをもっと膨らませた話見てみたいです!
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