死という現実(2)
「ん、朝か。」
奏多は陽の光が眩しくて目を開けると朝になっていた、幽霊も寝るらしい。
ただ気づいたら朝になっていたため、寝たという感じはしなかった。
ベッドから起き上がり、リビングに移動したが家には誰もいなかった。
時計を確認すると10時ちょうどだった。カレンダーを見ても今日が何日かわからなかった、昨日の式場で日付を確認しなかったことを後悔したがここで悔やんでいても何も始まらないので、一度学校へ行くことにした。
学校であれば白板の端に日付と曜日が書いてあるのでそれを頼りにしようと考えたのだ。
いつもの通学路を1人で歩く奏多は心なしか寂しさを感じていた。
普段であれば莉奈と歩き、場合によっては直人も一緒に歩いていた。紫苑がいる時はあるがそれは先に紫苑の家に寄るか、紫苑が奏多の家に泊まる時だけだった。
何年振りかの1人での登校は普段では気づかないことに気づかせてくれる。
例えば、T字路に設置されているカーブミラーの片方が少し割れていたり、自動販売機のラインナップが記憶していたものと違っていたりと、そんな些細なことが普段話しながら歩いていた時には気づくことはなかったが今この時は目に入ってくる。
「そういえば、ここの道って少し坂になってるんだよな。いつも気にしないで歩いてるけど小学生の頃歩きにくくて、よく転んだな。」
昔のことを思い出しながら歩くこと20分前後、いつの間にか寂しさを忘れていたらしい気付けば学校の校門の前まで来ていた。
学校の門は閉まっておらず空いていたため気にせず中へと入る。
いつもの昇降口から校内に入ると目の前の壁の上辺りを見る。視線の先には時計があり平日であれば授業中ということを確認すると、階段を使って自分の教室がある3階を目指して歩く。途中で教師とすれ違ったが奏多に目もくれず走って行ってしまった。普段この時間に廊下を歩いているのが教師にバレれば色々面倒だが、そんなことも心配する必要がなく軽い気持ちで目的の教室に辿り着く。
教室のドアは閉まっていたが、侵入するという意識で扉にあたればそのまま通過できるので問題なかった。
通り終わると、教室の様子を眺める。教師もクラスメイトもいつもと変わりなく授業を進行していた。
「えーっと、依田先生ってことは数学か。」
奏多は教師を確認したあと日付と曜日を確認する。
「11日の月曜か.....。そういえばもう少しで夏休みだったな。」
奏多は「うわぁ....」という気持ちを隠せずにいた。
学生ならほとんどの人が喜ぶ長期休暇なのだ、まして恋人のいる学生ならほぼ確実と言っていいほどデートの予定を立てているだろう。
実際のところ奏多は長期休暇がそこまで好きなタイプではない。学校がないこと自体は別にどうでもよいのだが、長期休暇中にやることがなくなると、退屈になるため嫌いだった。
では、なぜ「うわぁ....」という気持ちが出たのかそれは....。
「紫苑との旅行の予定が全部パーじゃねぇか、旅行のために予定を調整してたら紫苑に申し訳がねぇ。」
そういうことだ、他人に予定を調整してもらった上でその予定をブッチすることが嫌だったのだ。
教室の入り口から移動することなくその場で頭を抱えていたが、当然誰1人としてその奏多に気づく者はいなかった。
「みんなー、そろそろ今やってもらってるプリントの答え合わせするよ、そうだな〜残り3〜5分後にもう1回声かけるから、終わってない人は頑張って進めてね。」
奏多が頭を抱えている間も授業は進行していく。数学の担当教師である依田がみんなに声をかけたことで奏多はハッと平常心を取り戻して自分が使用していた席に移動する。席まで移動すると椅子が仕舞われていて座れないので仕方なく机の上で胡座をかいた。
「ドラマやアニメ、あとはそういうドキュメンタリーなんかは机の上に花を飾っていたけど、実際には飾ってないんだな。よく置いてあるのを見るからてっきりあるもんだと思ってたけどな。」
そう言いつつ、前を向くと左隅に置いてある棚の上に奏多の写真と花瓶が置かれていた。
「なーんだ、あるじゃん。ないものだと思った自分が恥ずかしい。」
若干認識とずれていたので少し不思議に思ったが考えてみれば納得いくような気がした。
机の上に花瓶や写真があった場合、掃除の時に邪魔になる。奏多の学校は、掃除の際に机を移動させるので掃除のたびに花瓶をずらして戻してを繰り返していれば、そのうち花瓶を落として割ったり、倒して水をこぼすなどで掃除の手間が増える。それだったら、その場で解決させられる棚の上に置いてしまうのが一番理にかなっていた。
「よーし、それじゃ答え合わせするよ。隣の席同士プリント交換してね。」
奏多が花のことについて気にしていると依田が指示を出した。
クラスメイトは依田の指示に従ってプリントを交換する。奏多の隣の席の生徒は後ろの生徒に声をかけて3人でプリントを回していた。
依田が答えを言いみんなは丸つけをする。そうやって授業が進行していたが奏多はというと、ただそれをみていた。 つまり奏多は今、ほとんどの人が1度は考えたことのある自分がいない授業を体験しているのだ。
現実的に言えば霊体で参加はしているのだが、この状態はノーカンだろう。
実際、自分がいない従業を体験してみればわかるが、教師が授業を進行し生徒がそれを聞いている。普段と何1つ変わらぬ光景がそこにある。
「授業中、なんの話をしてるのかな」、授業教科の話をする。
「授業中、友達同士で話してるのかな?」、授業内容による。
「先生怒ってるのかな」、その時の状態による。
このように普段と何も変わらないのだ。
まぁ、そう簡単に変わってしまったらそれはそれで怖いが、実際に授業内容が急に変わるとか、人が変わったようになるっていうのは人1人休んだところで滅多なことがない限り変わらないのだ。今回は休みではなく2度と来ないのだけれど……。
それは置いておいて、授業で授業をしないという勉強嫌いが聞けばうらやましがることを現在進行形で行っている奏多だが、そもそもプリントが手元にないのでできないということと、もしプリントが手元にあってもできないので仕方はないのだが、授業中に何もしないというのはこれまたとても退屈なのであった。
まぁ、授業中寝られるじゃんって言われればそれまでだが、寝るならそもそも家から出ていない。幽霊である奏多はすでに、日にちや曜日を気にする必要がないため、できることを好きなようにするだけだ、だから寝たいならそういったものを全て無視してベッドの上で寝てればいいのだ。
今回は何日なのか何曜日なのかを手っ取り早く知るため外に出て学校に来たわけだが、退屈で寝たかったら確認し終わった時点で帰ればいい。がしかし、せっかくここまで来たのだ普段できないような体験をしていくのもいいだろうと自分の席まで移動したのだ。
「じゃあ、答え合わせをした今のプリント後ろの人から前に回してね、その間に次のプリントを配るから。」
今やっていたプリントの丸つけが終わったらしく、新しいプリントが配られるようだった。今日は珍しくプリントだけ解く日らしい、流石に何もやらないのはつまらないので奏多は机から降りると紫苑の席まで移動した。
紫苑はストーブが隣にある窓際の席に座っていた。奏多は稼働していないストーブの上に座ると新しく配られてきたプリントを覗き込んだ。
新しく配られたプリントには問題が10問あり、問題の内容としては高校2年生が普通に勉強していれば解けるようなそこまで難しくないものだった。依田は全員の手にプリントが渡ったことを確認すると解き始めるように促した。奏多は問題を解いている紫苑を眺めながら自分自身も問題を解くことにした。
計算式などは書けないので全て頭の中で組み立て答えを出す。解き終わったら次の問題をまた頭の中で計算して答えを出す。を繰り返していくと一箇所だけ紫苑と解答が違う場所があった。
奏多は計算をミスったのかと思いもう一度解いてみたが解答は特に変わらなかった。
奏多は紫苑がどうしてその答えを出したのか気になり、紫苑の解答になるように計算してみたが、計算式が途中で合わず首を傾げた。
「やっぱり9番の解答って違うよな。んー、いや実際に何かに書いてるわけじゃないから、100パー俺があってるとは言い難いけど。」
普段の紫苑なら間違えない問題を間違えているので、奏多は紫苑のことが少し心配になった。
奏多は紫苑の様子を伺うために紫苑の顔を見ると、紫苑と目が合った。彼女は視線を逸らすこともなくしばらく動かなかったので奏多も同じく紫苑を見つめたままになる。
「いや、そこ多分計算式違うぞ。」
奏多はなんとなく、問題文を指を刺しながらそんなことを呟いていた。しかし、紫苑は動くことなく奏多がいる位置を見つめていた。
「月島さん、どうかしましたか?」
「あ、いえなんでもないです。すみません。」
依田が窓の外を見続けている紫苑に気付き声をかけると、紫苑はハッとして依田に謝りプリントを見つめ直した。しばらくプリントと睨めっこをすると、9番の解答を消して書き直し始める。間違いに気づいたのか、奏多自身の声が届いたのか定かではないが、奏多はもしかしたら声が届いているんじゃないかと思っていくつか声をかけてみたが、紫苑は何1つ反応することがなかった。
「たまたまだよな....。たまたま目があって、問題の書き直しは間違いに気づいたから書き直したんだよな、そうだよな、たまたまだよな……。」
奏多は気のせいだと思い、残り時間僅かになった、数学の時間を過ごした。
「起立、礼。」
「ありがとうございました。」
2限目終了のチャイムが流れ、授業を担当していた教師が終礼をかけると、紫苑たちは教師に向かってお礼を言い授業道具を片付けていく。
あれから紫苑は奏多が座っているストーブの方を見ることなく、授業を受けていた。当然といえば当然なのだが、さっきの数学の授業みたいに一瞬何かの奇跡でと思った奏多は無駄だと分かりながらも紫苑に向けてアピールをたまにしていた。当然無視されたのだけど....。
奏多は窓ガラスに寄りかかりながら紫苑を見続けていたが、そんな奏多に目もくれずリュックの中から小さな手提げ鞄を取り出すと自分の席を離れて莉奈のいる場所へ移動して声をかける。
「莉奈、お昼行こう。」
莉奈は返事をする代わりに頷くと2人して教室を出入り口の方へ行く。
2限の授業が終わると45分間の昼休みがある。
いつも昼になると、弁当を持ってきている紫苑と莉奈は昼食をとる場所へ一緒に移動していた。奏多は日によって弁当なのか購買のパンなのかが変わるので一緒に移動したりしなかったりなので声をかけられるが、直人は購買で昼食を購入しているので特に声はかけられていない。奏多がいないため、奏多に声をかけることもなく2人は移動したので、奏多はストーブから降りると2人の後を追いかけるようにして教室を出る。
奏多たちが昼休みに使っている場所は3階の空き教室だった。いつも使ってる4つのテーブルがくっついている場所に移動すると、定位置に各々座る。
「ん、ん〜……。」
紫苑が右手首を左手で持ち上げながら伸びている。しばらく体を伸ばした紫苑は腕を下ろすと持ってきた弁当箱の包みを解き始める。
莉奈は既に弁当箱を開けて静かに俯いていた。
奏多はそんな2人をいつも自分が座っている席からただ眺めていた。
静かに弁当を食べ始めた2人はどこか寂しさを感じさせていた。それもそうだろう、紫苑にとっては彼氏、莉奈にとっては幼馴染を亡くしているのだ。奏多が死んだ日からもあまり経っていないこともあり、いつものように笑顔で楽しくとはそう簡単にはいかないのだろう。
奏多はこの状況にそっと息を吐いた。
紫苑は基本的に静かなのでいつも通りのように見える。だが莉奈は違った、いつも笑顔で何事にも明るくポジティブな性格なのだ。それが、ここまで暗い表情で静かだと流石に不安になる。理由は言わなくても明確ではあるがどうしてもそれだけではないように思えた。
奏多がなんとも言えないもどかしさに、うちひしがれていると紫苑がわざとらしく音を立てて箸を置いた。
奏多と莉奈は体をこわばらせながら紫苑の方を向くと紫苑は莉奈を見つめていた。
「な、なに?」
「……。」
「何か言ってくれないかな?私何かした?」
莉奈が恐る恐る紫苑に聞いたが特に何も返さない。その代わりに親指で他の指を押して弾く行為を繰り返していた。奏多は紫苑が怒っている時にする癖を見て、珍しく怒っているなと他人行儀だった。まさかその原因の一部が自分自身にあるとは思っていないのだろう。
左手で行っているそれは、莉奈から見えないように机の下でしているが、爪同士がぶつかる音は近くにいれば聞こえる大きさだった。
莉奈からしてみれば急に箸の音を立てて置いたと思ったら何も言わない紫苑にずっと見られていて、見られ始めてから一定の感覚で何かの音がしているとしか思えなかった。
紫苑はしばらくずっとそうしていたが莉奈の察しが悪いのか、はたまた察していてわざと気づかないふりをしているのかが分からず、わざとらしく息を吐き肩の力を抜くと左手の動きを止めて口を開いた。
「ねぇ莉奈。奏多のこと、まだ自分の責任って思ってる?」
「え……。」
紫苑がそう言うと莉奈の顔から熱が冷えていく感じがしたが、そんなのお構いなしと言ったように言葉を続けた。
「あの日、授業が午前しかなくて時間がかなりできたから寄り道して帰ろうって提案したのが莉奈だった。私は元々バイトの出勤日だったし、柴崎は部活の呼び出しで予定が合わなくて、予定のなかった奏多が莉奈と一緒に寄り道をすることになった。確か駅の近くのモールへ行くことになったのよね?、でも途中の十字路で車の追い越しをしたトラックが2人に向かって突っ込んだ。本来であれば2人とも轢かれていた所を奏多が莉奈を突き飛ばすことで莉奈だけ轢かれずにすんだ....。」
紫苑が話す内容を奏多は聞いて少しずつ当時のことを思い出してきた。
確かに5日前の7月7日は莉奈と2人で寄り道をして帰ることになった。駅の近くにあるモールへ行くことになった奏多と莉奈は話ながら目的地に向かって歩いていた。話すことに夢中になってしまい周りを見ることが少し疎かになってしまうことがたまにあったが、横断歩道を渡る前には一度その場で止まったのを覚えている。右からきた軽自動車が止まってくれたので、軽く会釈しながら横断歩道を渡って半分くらいにさしかかる時、クラクションの音と共にトラックが接近してくるのがわかった。クラクションの音と共にだんだん近づいてくるトラック、まるで漫画の世界の状況に冗談と思いながらも体がこわばってしまいその場に2人して立ち止まってしまったが、自分の少し前を歩いていた莉奈を横目に突き飛ばしたのを覚えている。どうやってその状況で突き飛ばしたかまでは覚えてないが、生物の生存本能が働いた無意識外の行動だろう。
その後はうっすらだが、体が熱かったり寒かったりして、眠くなったような気がする。
「ねぇ莉奈。あの日の責任が自分にあるって思うなら私は怒るよ。こんな言い方奏多に申し訳ないけど、莉奈だけでも無事でよかったの。私と柴崎は大切な人を同時に2人も失くさなくて済んだのよ。奏多が死んで悲しいのは私たちだって同じ、できることなら奏多も無事でいて欲しかった、けどできなかった。そこに自分のせいでって思うのは間違ってる。そうよね?」
紫苑のストレートな言葉が莉奈に向けられる。
奏多はなんとなく、最後の部分が莉奈ではなく自分自身に問われている気がして自然と頷いてしまう。
莉奈は「でも」と言ったが、紫苑は首を横に振る。莉奈の言いたいことをなんとなく察したのだろう。
紫苑は莉奈の隣に移動するとそっと胸で抱きしめる。すると莉奈は我慢の限界を迎えたのか泣き出してしまった。
そんな莉奈を見て、奏多は自分が死んだことに責任なんて感じてほしくないと思った。薄情だからではない。あの日、莉奈の誘いに乗ったのは自分の判断であって莉奈に強要されたわけではない。確かに誘った点で言えば莉奈なのかもしれないが、教室で誘われていなかったら下駄箱や帰りの道中で自分が誘っていたかもしれない。
それに、もし莉奈だけ行っていたらきっと轢かれていたのは彼女だった可能性がある。
なのであの日、一緒に行ったのは間違いじゃなくて、そのおかげで莉奈を助けられたと思うとやっぱり責任は感じてほしくなかった。
しかし、莉奈は優しいので誘ってしまった自分に責任があると感じてしまっているのだろう。
奏多はなんとも言えない状況に落胆していると突然教室の扉が開いた。
教室に入ってきたのは購買に行っていた直人だった。
「待たせた。」
「別に待ってないわよ。」
紫苑は直人に空気を読めよと思いながら適当にあしらうと莉奈の背中を軽く叩いてからいつもの席に戻った。
「莉奈、どうしたんだ?。」
「えーっと....。」
「月島に何かされたのか?奏多がいないことをいいことに強く言われたとか。」
「そんなことないよ。ちょっと目にまつ毛が入っちゃって取ってもらってたの。」
直人は椅子に座わり莉奈を見ると目の端に涙がついていることに気づき、少し心配になったので莉奈に声をかけたが誤魔化されてしまった。
「まぁ、莉奈がそう言うならそれでもいいか。何かあったらちゃんと言ってくれよ。」
「うん。」
直人は、少し納得がいかないと言った顔をしたがそれ以上は問わず話題を変えるために話続けた。
「それと、今年さ部活の大会がないんだ。気分転換も兼ねて遊びに行かないか?」
直人が入っている部活はサッカー部だった。今年は珍しく夏前の大会で敗退していて、大会に行く前提で組まれていた強化メニューが出来ず、一度練り直しということで夏休み中の部活が一時的に休部になるらし。他の学校からしたら、それでも練習はあると思うが奏多たちの通う桜田高校は違っていた。
「私はどっちでもいい。バイトはあるけど毎日じゃないし。」
「私も、夏休み中の予定はアルバイトか家族旅行以外なし。」
「そうと決まれば場所決めだな。」
直人は包装を解いたパンに齧り付きながら、「どこがいいかな」と言う。
学生が遊ぶと言えば、カラオケやボーリングなんかが定番だろうが、桜田高校の周りにはあいにくどちらもない。
少し遠出をしないとカラオケはないし、ボーリング場はもっと接続の悪い場所にあるため候補には基本的に入ってこない。
直人は候補を頭に浮かべていうと莉奈が直人の裾を軽く引っ張った。
「どうした?」
「行く場所は私が決めてもいい?」
紫苑と直人は少し黙り込んだ。この前の件で責任を感じている莉奈が自分から場所を決めたいと言っているからだ。
万が一、億が一でもこの前と同じようにはならないし、そんな運命を引くつもりはないが、もしまた何かあった時には莉奈の心は今以上にダメージを受けて立ち直れなくなってしまうだろう。
「ダメ...かな?」
黙っている2人に不安を感じた莉奈の顔が少しずつ暗くなっていく。
直人が答えを出さずにいるので紫苑が頷くと莉奈の顔から暗い部分が薄れていく。
別に莉奈が決めてはいけないと言ったルールはないが彼女の心のことを考えると直人は頷きにくかった。しかし紫苑は勝手に判断してしまったので直人は紫苑に文句を言いたくなったが、そんなことで今喧嘩してしまえば莉奈に傷を負わせてしまうので我慢し、少し考えた後に同意の頷きをする。
「ありがとう、あとで予算とか色々確認するから少し時間をちょうだい。」
そう言うと莉奈はスマホを取り出して、遊び先をメモしながらあれやこれや呟いていた。
そんなやりとりをただ見ていた奏多は空気が重いことに気づいてから口を挟むこともなくただ黙っていた。
「死人に口無しとはよく言ったもんだよ。俺がここで何か言ったとしてもそれは伝わらなからな。当人たちでどうにかしてもらうしかないんだよな....。」
なんとも言えない戯言を今みたいに言っても誰も返してくれないからだ。
「本当、責任感じすぎだよ。」
奏多は体を起こすと、どこか悲しげな顔で天井に向かって言葉を吐いた。
その言葉は誰にも届かずただ雪のように溶けて消えていった。
誤字脱字あれば教えていただけると幸いです。




