第84話 境界崩壊
最初の異変は、静かに始まった。
境界観測室の警告灯が、一つ、また一つと点灯する。
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「意味崩壊領域、再拡大」
観測官の声は落ち着いていたが、室内の空気は一瞬で張り詰めた。
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スクリーンに表示されたのは、第12境界観測拠点の立体図。
赤い領域が、じわじわと広がっている。
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「拡大速度?」
レオニスが問う。
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「先週の三倍」
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アリエスが息を呑む。
「翻訳実験は停止していたはずだ」
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Λが静かに答える。
「翻訳停止は確認」
「だが」
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「相互意味干渉は継続」
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つまり。
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接触した瞬間から、
世界同士は互いに影響し続ける。
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カイナが低く言う。
「やはり排除すべきだった」
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レインはスクリーンを見続けている。
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人類世界の意味は固い。
外縁世界の意味は流れる。
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接触すれば。
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どちらかが壊れる。
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「違う」
リオナが小さく言う。
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「両方壊れる」
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その瞬間。
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外縁側の観測値が急上昇する。
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「外縁波形、異常」
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スクリーンが切り替わる。
外縁側の流れが、激しく乱れている。
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「意味崩壊」
Λが言う。
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「外縁側でも発生」
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アリエスが呟く。
「概念衝突が、向こうにも広がった」
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エイドが震える。
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「……壊れる」
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その声は弱かった。
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「向こう」
「流れ」
「裂ける」
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リオナが叫ぶ。
「外縁が崩れてるの?」
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Λが答える。
「部分崩壊」
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カイナが言う。
「これで証明された」
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「文明接触は災害だ」
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レオニスが低く言う。
「閉じるか」
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沈黙。
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境界膜を閉じれば、
接触は終わる。
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だが。
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外縁側の崩壊は止まらない。
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レインはようやく口を開く。
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「閉じても意味は残る」
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全員が彼を見る。
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「文明は」
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「一度出会ったら」
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「なかったことにはできない」
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外縁波形がさらに荒れる。
人類側の意味崩壊領域も広がる。
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Λが警告する。
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「境界膜負荷、臨界接近」
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つまり。
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このままでは。
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境界そのものが崩壊する。
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カイナが言う。
「選べ」
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「閉じるか」
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「壊れるか」
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レインは静かに首を振った。
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「第三の道がある」
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沈黙。
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「境界を」
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彼は言う。
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「壁にするから壊れる」
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スクリーンに、境界膜の構造図が表示される。
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「壁ではなく」
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レインは続けた。
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「場所にする」
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レオニスが呟く。
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「……境界そのものを」
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レインが頷く。
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「世界にする」
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外縁と人類の間に。
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新しい領域を作る。
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それはまだ存在しない。
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だが。
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もし成功すれば。
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そこは
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**二つの文明が出会う場所になる。**
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戦えない参謀は理解していた。
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文明は、
境界で壊れる。
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だが同時に。
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**境界で生まれる。**
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