第8話 評価される場所
辺境領は、王都とはまるで空気が違っていた。
石畳は荒れ、建物は質素。
だが、人の顔には切迫した色がある。
「ここが、あなたに任せる部隊だ」
ヴァルド辺境伯が指し示した先には、十数名の兵士が集まっていた。
年齢も技能もばらばら。
共通点があるとすれば――問題を抱えていること。
「落ちこぼれの寄せ集め、ですね」
レインは率直に言った。
「否定はしない」
ヴァルドは肩をすくめる。
「だが、使い道がないとは思っていない」
「……承知しました」
レインは、兵たちを一人ずつ見回した。
剣の持ち方。
立ち位置。
呼吸の乱れ。
(素材は、悪くない)
評価は、すぐに終わった。
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「まず、今日の討伐は中止します」
最初の指示に、ざわめきが走る。
「え?」
「敵は近くにいるんじゃ……」
「だからです」
レインは淡々と続けた。
「この編成で、準備不足のまま出れば、死人が出る」
「……」
反論は出なかった。
理由は簡単だ。
彼らは、これまで何度も“無理をして失敗してきた”。
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代わりに、レインが行ったのは再配置だった。
「前衛を二名減らします」
「え、俺、前に出ないんですか?」
剣士のカイルが戸惑う。
「あなたは、踏み込みが深すぎる」
「……悪い癖だって、よく言われます」
「死にやすい癖です」
即答だった。
「今日は後列で、全体を見てください」
次に、魔法使いのリリアへ。
「詠唱を短縮しなくていい」
「でも、それだと……」
「暴発するより、遅い方がいい」
最後に、軽装の青年――ノア。
「あなたは斥候です」
「正式に?」
「ええ。才能があります」
ノアは目を見開いた。
初めて、役割を与えられた顔だった。
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その日の午後。
部隊は小規模な討伐に出た。
無理はしない。
深追いもしない。
「……あれ?」
戦闘が終わり、誰かが呟く。
「誰も、怪我してない?」
事実だった。
被弾ゼロ。
魔力消耗も想定内。
地味だが、確実な成果。
「……すごいな」
誰かが、そう言った。
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報告を受けたヴァルドは、短く笑った。
「初日で、これか」
「当然です」
レインはそう答えた。
「彼らは、弱くありません。
使われ方を間違えていただけです」
「王都では、それができなかったか?」
「評価基準が違いました」
ヴァルドは、深く頷く。
「なら、ここは正しい場所だ」
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その夜。
簡易宿舎で、兵たちは小さな宴を開いていた。
「今日、楽だったな」
「怖くなかった」
「初めてだ、こんなの」
レインは、その様子を少し離れた場所から見ていた。
前に出る必要はない。
評価されるべきなのは、彼らだ。
ただ一つだけ、違う点がある。
ここでは――
**その評価が、正しく積み上がっていく。**
一方その頃。
王国直属部隊では、
また一つ、判断の遅れが生まれていた。




