第7話 正解だった判断
その任務は、本来なら問題なく終わるはずだった。
王国直属部隊に与えられたのは、補給路周辺の魔物掃討。
規模は小さく、危険度も低い。
「肩慣らしだな」
「さっさと終わらせて戻ろう」
バルドはそう言って前に出た。
だが――。
「……待て。補給班の位置が、想定より前だ」
グレインが地図を見て眉をひそめる。
「そんな報告は受けていない」
「昨日の時点では、な」
わずかなズレ。
だが、その意味を正確に把握できる者は、もういない。
「構わん。敵は少数だ」
バルドは判断を待たず、突撃した。
「バルド!」
止める声は届かない。
直後、地面が割れ、魔物が現れる。
数は多く、配置も悪い。
「くそっ……!」
戦闘は勝利した。
だが、代償は大きかった。
補給班が襲われ、物資の一部を失ったのだ。
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「これは……まずいな」
帰還後、作戦室に重苦しい空気が流れる。
「被害は軽微だ」
「だが、任務失敗と判断される可能性がある」
上層部への報告書。
そこには、確実に“減点”が残る。
「余計な判断をした覚えはないぞ」
「問題は、判断そのものだ」
グレインは、引き継ぎ資料を机に置いた。
そこには、はっきりと書かれている。
『補給班の位置が不明確な場合、前進は厳禁』
沈黙が落ちた。
誰も、声を上げない。
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同じ頃。
王都の外れの宿。
レインは、簡素な食事を前にしていた。
扉を叩く音がする。
「……どうぞ」
入ってきたのは、見知らぬ男だった。
だが、その佇まいから、ただ者ではないとわかる。
「突然失礼する。ヴァルドという」
男は名乗った。
「辺境を預かっている者だ」
「……辺境伯、ですか」
レインは、わずかに目を細める。
「あなたの仕事ぶりを、以前から見ていた」
「表に出ない仕事ですが」
「だからこそだ」
ヴァルドは即答した。
「戦えない者はいくらでもいる。
だが、戦争を減らせる者は貴重だ」
その言葉に、レインは黙って耳を傾ける。
「条件を提示しよう」
ヴァルドは、紙を一枚差し出した。
「私の領地で、小部隊を一つ預かってほしい」
「表に立つ必要は?」
「ない。判断権と編成権は、すべて任せる」
破格だった。
「報酬は?」
「成果に応じて。名声はいらんだろう?」
レインは、少し考えた。
そして、静かに頷く。
「……わかりました」
「即答だな」
「評価される場所で働きたい。それだけです」
ヴァルドは、満足そうに笑った。
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その夜。
王国直属部隊の評価は、一段階下がった。
理由は明確。
**不要な損耗と補給損失**。
「……運が悪かっただけだ」
誰かがそう言った。
だが数字は、嘘をつかない。
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同じ夜。
レインは宿を引き払う準備をしていた。
荷物は相変わらず少ない。
「追放は、正しかった判断だった」
彼は、そう思う。
自分を切った彼らにとっても、
自分自身にとっても。
ただ一つ違ったのは――
**正解だったのは、ほんの一瞬だけだったということだ。**




