第64話 揺らぎを見る者
ノクス残骸圏の観測室。
Ωの提示した理論を検証するため、
三文明は同時実証実験を開始した。
対象は小規模位相波。
観測を強めれば、揺らぎは増えるのか。
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「観測強度、段階的に上げます」
技師が告げる。
未来予測装置、演算精度最大化。
コレクティア演算核、全力稼働。
エルダ長期予測、百年単位で展開。
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数値が跳ねる。
「揺らぎ総量、上昇」
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「停止」
レインが即座に言う。
観測を止める。
数秒後、数値は緩やかに低下。
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沈黙。
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「観測そのものが、生成源」
レオニスが呟く。
予測しようとする意志。
確定させようとする思考。
それが揺らぎを生む。
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「……私のせいだな」
彼は小さく笑う。
「制度を最適化しすぎた」
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「違う」
レインが静かに言う。
「文明が進化しただけです」
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そのとき。
観測室の隅で、
一人の少女が立ち尽くしていた。
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「……止めて」
小さな声。
全員が振り向く。
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少女は震えている。
淡い灰色の瞳。
「未来が、割れる」
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「誰だ」
ゼルが問う。
「人類圏の感応登録者」
セシリアが答える。
「揺らぎ感応特異体。リオナ」
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リオナは、空を見つめている。
「見えるの」
「何が」
レインが膝を折り、目線を合わせる。
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「未来が、重なってる」
彼女の指が震える。
「今、観測したから、枝が増えた」
「止めると、減る」
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観測装置が停止される。
リオナの呼吸が落ち着く。
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「揺らぎは怖くない」
彼女は小さく言う。
「怖いのは、固まること」
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レインは、静かに頷く。
ノクスの崩壊映像と同じ言葉。
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「君には、どう見える」
「世界が、少し傾いてる」
彼女は床を指差す。
「でも、まだ倒れない」
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Σの演算が走る。
「感応データと観測数値、相関一致」
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サエルが低く言う。
「理論だけではない」
「体感できる」
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レオニスは少女を見つめる。
制度では測れない感覚。
だが、確かに存在する。
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「揺らぎは」
レインが言う。
「排除するものではない」
「でも増えすぎると」
リオナが言う。
「未来がバラバラになる」
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沈黙。
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Ωの光が、わずかに強くなる。
《高度観測文明は揺らぎ増幅体》
《揺らぎ循環経路を確保せよ》
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循環。
外縁。
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世界の傾きが、わずかに加速する。
境界帯が淡く明滅する。
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戦えない参謀は理解する。
揺らぎは問題ではない。
出口がないことが問題だ。
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