第60話 未完成という選択
揺らぎ吸収型協定は、正式に施行された。
境界は線ではなく、帯となった。
例外回数は五。
六は発動していない。
だが世界は、確実に一段進んだ。
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辺境領の高台。
夕暮れの境界帯が、淡く揺れている。
レインは一人で立っていた。
「完成しましたか?」
背後から声がする。
レオニスだった。
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「いいえ」
レインは振り返らずに答える。
「完成させなかっただけです」
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レオニスは隣に立つ。
境界帯を見つめる。
「私は、制度を強くしようとしていた」
「ええ」
「だが強さは、固定に近づく」
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短い沈黙。
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「あなたは最初から、
固定を避けていた」
「固定は、揺らぎを奪う」
「揺らぎは、不安を生む」
「不安は、思考を生む」
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レオニスは小さく笑う。
「管理ではなく、共有」
「制御ではなく、調整」
「制度は世界を包めない」
「世界は制度より広い」
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遠く、境界帯がかすかに波打つ。
だが破れない。
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「六は来なかった」
レオニスが言う。
「数字は超えなかった」
「だが」
レインは静かに言う。
「数字に意味はなかった」
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ノクス残骸圏。
地下の揺らぎは、
ゆっくりと世界全体に溶け込んでいる。
消えない。
だが爆ぜない。
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三文明は、完全には理解し合っていない。
だが、共有している。
負荷も、
不安も、
揺らぎも。
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「あなたは」
レオニスが言う。
「制度を作った」
「あなたは」
レインが応じる。
「制度を使った」
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「そして今は」
「制度を、変えた」
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夕陽が沈む。
境界帯が、夜の色に溶けていく。
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戦えない参謀は、
世界を一つにしなかった。
壊れない距離を測り、
揺らぎを残し、
完成を拒んだ。
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未完成という選択。
それが、
持続という答えだった。
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だが世界の深層では、
なお消えぬ揺らぎが、
新たな問いを孕んでいる。
境界を超えた先。
制度の外側。
世界法則そのものへ。
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物語は、まだ終わらない。
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