第6話 いなくなった翌日
問題が起きたのは、翌日の朝だった。
「……補給が足りない?」
作戦室で、若い士官が首をかしげる。
「昨日の消耗分、計算合ってるよな?」
「数は合ってる。……はずだ」
机の上には、前日の討伐報告書と補給申請書。
数字自体は間違っていない。
だが、倉庫から届いた物資は、わずかに足りなかった。
「誤差だろ。予備で補えばいい」
「そうだな。大事にはならん」
そう判断され、話は終わった。
誰も気づかない。
その“誤差”が、いつもは存在しなかったことに。
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同時刻。
訓練場では、次の任務に向けた調整が行われていた。
「前より、疲れが残ってないか?」
グレインが、バルドに声をかける。
「気のせいだ。昨日はちょっと張り切りすぎただけだろ」
「……ならいいが」
エレナは、無言で自分の魔力量を確認していた。
(回復が、思ったより減ってる……)
理由はわからない。
だが、不安だけが残る。
---
昼。
部隊は小規模な警戒任務に出た。
敵の出現率は低く、危険も少ない。
普段なら、何事もなく終わる仕事だ。
「異常なし」
「このまま帰還する」
その時だった。
「……待て」
グレインが足を止める。
地形。
風向き。
時間帯。
かつてなら、自然と頭に浮かんでいた“違和感”。
だが、今回は形にならない。
(……何だ?)
結局、判断は遅れた。
「後退――!」
声を上げた瞬間、魔物が姿を現す。
小型だが、数が多い。
「散開! 各個撃破!」
指示は的確だった。
戦闘力も十分。
それでも――
「回復、間に合わない!」
「くそっ!」
わずかな判断遅れが、被弾を増やす。
戦闘は勝利。
だが、負傷者が出た。
これまでなら、あり得なかった結果だ。
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帰還後。
治療を終えたエレナが、疲れた表情で呟く。
「……おかしいですね」
「何がだ?」
グレインが聞き返す。
「今までなら、こうなる前に撤退していました」
「……」
その言葉に、グレインは答えられなかった。
理由は、わかっている。
だが認めれば、
自分たちの判断が揺らぐ。
「今回は、運が悪かっただけだ」
「……はい」
エレナは、それ以上言わなかった。
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夜。
作戦室に、一人残ったグレインは、引き継ぎ資料を開いていた。
分厚い束。
今までは、読む必要がないと思っていたもの。
ページをめくる。
『警戒任務において最も危険なのは、
「何も起きない」と思い込む瞬間だ』
次のページ。
『判断が一拍遅れる条件一覧』
グレインは、息を呑んだ。
(……今日の状況と、同じだ)
偶然ではない。
書かれているのは、経験則ではなく――分析だ。
彼は、初めて理解した。
レインがやっていた仕事は、
**戦場の外で、戦争を減らすことだった**のだと。
---
同じ夜。
王都の外れの宿。
レインは、机の上の紙に視線を落としていた。
そこには、簡単な陣形図と数行のメモ。
「……来たか」
扉を叩く音が、静かに響く。
レインは立ち上がる。
これは偶然ではない。
必然だ。
評価される場所が、
向こうから近づいてきただけ。
一方、王国直属部隊は――
**失った歯車の重さを、ようやく“数字”で感じ始めていた。**
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