第53話 対面
例外回数は、四。
記録は静かに更新された。
だが今回の越境は、明確に“蓄積の結果”だった。
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中央評議会・来訪者応接室。
レインは一人で座っている。
護衛はいない。
交渉団もいない。
扉が開く。
「お待たせしました」
レオニス・カーヴェルは穏やかに一礼した。
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「直接お話しするのは初めてですね」
「ええ」
レインは頷く。
「あなたの書類は何度も読んでいます」
皮肉ではない。
本音だった。
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向かい合う。
思想と思想。
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「今回の件」
レインが先に口を開く。
「予測していましたか」
「閾値超過は想定外でした」
レオニスは正直に答える。
「ですが被害は最小」
「制度は機能しました」
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「機能したのは」
レインは静かに言う。
「例外条項です」
「ええ」
「だが」
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レインは指で机を軽く叩く。
「予備評価制度が、
揺らぎを蓄積させた可能性は?」
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「蓄積ではありません」
レオニスは即座に返す。
「分散です」
「分散は、消滅ではない」
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沈黙。
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「あなたは」
レインは続ける。
「揺らぎを管理可能だと信じている」
「信じていません」
レオニスは微笑む。
「測定しています」
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「測れる揺らぎは、揺らぎではない」
「ならば放置しますか?」
初めて、わずかな熱が混じる。
「放置した世界を、私は知っています」
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レオニスの瞳が、一瞬だけ陰る。
「制度がなかった世界」
「例外もなかった世界」
焼けた街。
無秩序。
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「私は」
彼は静かに言う。
「あなたの思想を否定していない」
「むしろ尊敬している」
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「だが」
「未完成は、不安を生む」
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「不安は必要です」
レインは即答する。
「不安があるから、人は考える」
「考える余裕がないときもある」
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レオニスは、前に身を乗り出す。
「例外条項は、あなたが作った」
「揺らぎを残したのも、あなた」
「私はそれを、より安全に運用しているだけだ」
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「安全は」
レインは低く言う。
「揺らぎを削る」
「削りすぎれば危険」
「削らなければ不安定」
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静寂。
どちらも正しい。
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「あなたは」
レオニスが言う。
「揺らぎを“信頼”している」
「ええ」
「私は」
彼は続ける。
「揺らぎを“制御”したい」
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違いは、そこだった。
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「いずれ」
レインは言う。
「制御できない揺らぎが来る」
「その時は」
レオニスは迷わない。
「さらに制度を強化します」
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レインは、わずかに目を伏せる。
「強化は、固定に近づく」
「固定は、安定です」
「固定は、破断も生む」
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窓の外。
境界線が静かに光る。
例外回数:四。
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「次の揺らぎが来たとき」
レインは静かに言う。
「あなたは、例外を使う」
「当然です」
「そして」
「必要なら、五になる」
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その数字が、空気を重くする。
上限は、遠くない。
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レオニスは立ち上がる。
「制度は強くなります」
「世界も」
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レインは答えない。
ただ、ノクス残骸圏の地図を思い出す。
地中に沈む揺らぎ。
分散された不確定性。
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思想は、ぶつからない。
だが、進む方向は違う。
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戦えない参謀は理解する。
次の揺らぎは、
偶然では来ない。
“制度の強度”を超える形で来る。
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