第52話 割れないはずの線
閾値接近事例は、三度続いた。
いずれも中央。
いずれも軽微。
いずれも収束済み。
例外回数は、三のまま。
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中央評議会・公開説明。
「予備評価制度により、
想定外事象の九割は事前吸収可能です」
レオニスは落ち着いて語る。
「例外を起こさない制度こそ、
成熟の証」
拍手が起きる。
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一方、辺境領。
「揺らぎは、事前吸収できるものではありません」
レインは静かに言う。
「吸収したように見えるだけです」
セシリアは地図を拡大する。
ノクス残骸圏の地下。
微細な歪みが、点のように並ぶ。
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「分散している」
「ええ」
「爆発ではなく、蓄積」
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三文明合同技術会議。
ミラが未来曲線を提示する。
「短期安定性は向上」
「しかし不確定性の深度が増しています」
「深度とは?」
ゼルが問う。
「表層は安定しているが、
下層で揺らぎが沈降している」
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Σが演算結果を示す。
「閾値未到達事象の累積値、上昇」
「例外未発動」
「だが、未発動の揺らぎが増えている」
Δの波形が、強くなる。
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レオニスは、静かに言う。
「揺らぎが分散されているなら、
危険は減っている」
「それは」
レインが画面越しに応じる。
「氷にひびを細かく入れて、
割れにくくなったと主張するようなものだ」
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レオニスは微笑む。
「割れていない」
「まだ、です」
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その瞬間。
警報が鳴る。
「北部境界線付近、
時間位相偏差急上昇」
中央ではない。
人類圏とエルダ境界。
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予備評価が自動起動する。
「閾値〇・九八」
「収束予測、可能」
レオニスが指示を出す。
「予備評価強化、出力微調整」
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だが。
位相偏差が、突然跳ねる。
「一・〇三」
閾値超過。
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例外条項、自動判定。
「想定外事象、認定」
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三文明緊急通信。
例外回数:四。
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「なぜ跳ねた」
サエルが低く問う。
Σの演算が走る。
「閾値接近事象の累積影響」
「分散蓄積が、臨界突破」
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レインは、静かに目を閉じる。
「削られた揺らぎは、
消えない」
「移動する」
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レオニスは沈黙する。
想定外だった。
だが、違反ではない。
制度は守られていた。
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境界線上の空が、裂ける。
わずかな越境歪み。
救助と封鎖が同時実行される。
被害は小さい。
だが確かに、割れた。
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例外回数:四。
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通信終了後。
セシリアが小さく言う。
「制度は正しかった」
「ええ」
レインは頷く。
「だが、正しさは、
世界の深度を測っていなかった」
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中央評議会。
レオニスは窓の外を見る。
都市は無事だ。
越境も最小。
損害も軽微。
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「制御できる」
彼は呟く。
「まだ、制御できる」
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だが、
ノクス残骸圏の地下で、
時間揺らぎが、
今までで最も深く、
沈んでいった。
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