第5話 最後の仕事
翌朝。
王国直属部隊の作戦室には、いつもより人が多かった。
「次の任務は小規模だ。だが油断するな」
「了解!」
グレインの号令に、部隊は即座に反応する。
士気は高い。余計なものが削ぎ落とされ、動きやすくなった――そう、誰もが思っていた。
その机の端に、分厚い書類の束が置かれている。
「……これが、レインの引き継ぎ資料か」
後任の士官が、ぱらりと一枚めくる。
びっしりと書き込まれた文字。
数値、傾向、注意点。
「正直、読む時間あるか?」
「参考程度でいいだろ。今までだって、問題なかった」
誰かがそう言って笑う。
誰も否定しなかった。
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同じ頃、レインは王都の外れを歩いていた。
目的地は一つ。
王国に返却すべき備品の最終確認だ。
倉庫の管理官が、事務的に告げる。
「これで、すべて返却完了です」
「ありがとうございました」
それだけで、関係は終わった。
倉庫を出ると、空は晴れている。
不思議と、心に引っかかりはなかった。
(もう、俺の仕事じゃない)
そう思えた。
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昼過ぎ。
部隊は討伐任務に出ていた。
敵は想定通り。
戦力差も問題ない。
「前に出すぎるな!」
「わかってる!」
グレインの指示に、バルドが応える。
だが――
「回復、遅れてる!」
「ちょ、ちょっと待って!」
エレナの詠唱が、わずかに遅れた。
致命傷にはならない。
だが、余計な被弾が増える。
(……こんなはずじゃ)
グレインは歯を食いしばる。
それでも戦闘は勝利に終わった。
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帰還後。
作戦室で簡易的な反省会が行われる。
「消耗が予定より多いな」
「誤差の範囲だろ」
「まあ、次は調整すればいい」
誰も深く追及しない。
グレインだけが、机の上の書類に目を向けた。
――引き継ぎ資料。
ふと、ある一文が目に入る。
『回復役の魔力消耗は、前線の立ち位置と連動する』
無意識に、グレインは眉をひそめた。
(……前から、こんな指示、してたか?)
記憶を辿る。
答えは、すぐに出た。
(していた。全部、レインが)
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その夜。
レインは簡素な宿で、机に向かっていた。
新しい仕事の当ては、まだない。
だが焦りもない。
彼は、紙にいくつかの線を引き、思考を整理していた。
人材。
配置。
時間。
(次は、どこでやるか)
その時、扉がノックされる。
レインは顔を上げた。
まだ、この時点では知らない。
その選択が、すべてを変えることを。
一方、王国直属部隊は――
**失われた歯車の存在に、まだ気づいていなかった。**




