表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦力外通告は妥当でした。なお国家レベルでは必須人材だった模様 ~戦えない参謀は評価される場所を選び直した~  作者: 黒川レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/53

第49話 制度の試験

 中央評議会地下、第七実験区画。


 円形の魔導炉が、静かに脈動している。


「出力、基準値の〇・三%」


「位相安定、維持」


 研究員たちの声は落ち着いていた。


 これは危険な実験ではない。


 理論上は。


---


 制御卓の前に立つレオニスは、静かに数値を確認する。


「魔力循環を、わずかに偏らせてください」


「偏差、〇・〇五追加」


 歪みが、ほんのわずかに生じる。


 空間が震えるほどではない。


 だが――。


---


「時間位相、〇・〇二ずれ」


 研究員が息を呑む。


「想定外事象判定、グレーゾーン」


 レオニスは微笑んだ。


「境界は、測るためにある」


---


 数秒後。


 観測塔に警告が上がる。


「局所時間流速、不一致」


 別系統の監視網が反応する。


「三文明観測網、異常値共有」


 データは自動で同期される。


---


 辺境領。


 レインは報告を受け、眉をひそめた。


「震源は?」


「人類圏中央部、実験区域付近」


 セシリアが低く言う。


「自然発生ではありません」


---


 エルダ未来観測院。


 サエルが予測図を見つめる。


「分岐、微細だが増加」


 百年後への影響は小さい。


 だが、ゼロではない。


---


 コレクティア演算核。


「想定外事象判定、成立可能性六十三%」


 Σの声が重なる。


「例外条項、発動条件接近」


---


 地下実験区画。


 歪みは、ほんの一瞬だけ拡大する。


 魔導炉の周囲で、時間が波打つ。


 作業員の影が、二重に揺れる。


 だが、制御は維持されている。


---


「十分です」


 レオニスが告げる。


「収束させてください」


 出力が戻る。


 歪みは消える。


 残るのは、記録だけ。


---


 数分後。


 三文明緊急通信が開かれる。


「意図的操作の可能性を確認」


 レインが静かに言う。


「実験の一環です」


 レオニスは落ち着いて答える。


「危険性は極小。収束も確認済み」


---


「想定外認定に近づけた」


 サエルが指摘する。


「結果として、境界越境条件を満たしかけた」


「満たしてはいません」


 レオニスは即座に返す。


「条文第一条四項、境界の物理的意味喪失には至っていない」


 正確だ。


 違反はしていない。


---


 Σの演算が静かに流れる。


「協定違反、確認できず」


---


 レインは、画面越しに青年を見つめる。


 冷静。


 理知的。


 悪意はない。


「何を試したのですか」


---


 レオニスは一拍置いて、答えた。


「制度の強度です」


 空気が止まる。


「例外条項は、想定外に耐えるための設計」


「ならば、想定外の閾値を把握すべきでしょう」


---


「人工的に揺らぎを起こすことで?」


 セシリアが鋭く言う。


「小規模です。制御下です」


 レオニスは揺れない。


「制御できる揺らぎは、脅威ではない」


---


 レインは、静かに問い返す。


「制御できると、どうして言い切れる」


---


「数値で示せます」


 レオニスの瞳は澄んでいる。


「例外は危険だと言う」

「だが危険とは、測れないものを指す」


 彼は淡々と続ける。


「今回の実験で、発動閾値が明確になった」

「境界線の耐性も確認できた」


---


 沈黙。


 協定は破られていない。


 例外も発動していない。


 だが。


---


「揺らぎを、利用する気ですか」


 レインの声は低い。


「利用ではありません」


 レオニスは微笑む。


「最適化です」


---


 通信が終わる。


 辺境領の執務室に、重い静寂が残る。


「合法です」


 セシリアが呟く。


「ええ」


 レインは頷く。


「だからこそ、厄介だ」


---


 ノクス残骸圏の微細な歪みが、かすかに震える。


 揺らぎは、制御されている。


 だが、削られ始めている。


---


 戦えない参謀は、理解した。


 制度は、完成した瞬間から

 次の最適化の対象になる。


 例外は、管理される。


 管理された例外は――


 やがて、常態になる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ