第47話 未完成の安定
時空震は、ほぼ収束した。
完全ではない。
ノクス残骸圏周辺には、
わずかな時間揺らぎが残っている。
だが、それは暴発しない。
揺れているだけだ。
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三文明再会議が開かれる。
今回は、緊急ではない。
怒号もない。
だが、空気は以前と違う。
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「例外条項の正式編入を提案する」
サエルが口火を切る。
長命文明が、未来優先主義を少しだけ緩めた証。
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「例外発動回数を、記録単位として保持」
Σが続く。
「回数上限到達時、協定再設計義務」
コレクティアも、固定を拒んだ。
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「我々は」
人類圏代表が言う。
「例外発動時の情報公開義務を追加したい」
透明性。
感情の暴走を防ぐため。
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レインは、静かに条文を整える。
削り、足し、
曖昧さを残し、
固定しすぎない。
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新協定補則、確定。
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> 想定外事象発生時、
> 三文明同時承認により限定越境を許可する。
> 例外発動は記録され、
> 累積回数が閾値を超えた場合、
> 協定は再設計される。
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誰も拍手しない。
英雄もいない。
ただ、記録が残る。
例外回数:一。
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「不安定ですね」
セシリアが小さく笑う。
「ええ」
レインも頷く。
「だから、安定します」
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サエルが静かに言う。
「百年後の予測は、揺らいでいる」
「それでいい」
レインは答える。
「固定された未来は、
変化に耐えられない」
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Σの波形が、わずかに変動する。
「個体揺らぎ保持、継続」
Δは消えなかった。
集合意識は、
完全性を一部手放した。
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窓の外。
三文明の領域は、
依然として分かれている。
融合も、統一もない。
だが、
距離は測られている。
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未完成。
揺らぎ。
例外。
それらを含んだまま、
世界は回り続ける。
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戦えない参謀は、
初めて“完成させないこと”を選んだ。
完璧な安定ではない。
だが、
壊れにくい安定。
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正しさは、固定されなかった。
世界も、固定されなかった。
それでも――
滅びは遠のいた。




