第44話 例外は誰が決める
自動封鎖移行まで、三秒。
Σの演算核が、静かに最終処理へ入る。
「三」
「二」
サエルは、未来曲線から目を離さない。
人類圏の観測塔では、
半透明化した街区が、
今にも因果断層へ沈みかけている。
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「待ってください」
レインの声は、叫びではなかった。
ただ、はっきりと届いた。
「例外条項、第二条」
時間が止まったように感じられる。
「発動条件は、三文明代表の同時承認」
「発動時間、領域、収束条件の明示」
彼は条文を読み上げる。
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「だが」
Σが応答する。
「三文明承認、未成立」
「自動封鎖へ移行」
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「未成立ではありません」
レインは、続けた。
「“反対”が成立していない」
空気が揺れる。
条文は、三文明同時承認を必要とする。
だが――。
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「承認とは」
レインは静かに問う。
「明示的同意か」
「それとも、明確な否定が無い状態か」
沈黙。
条文は、そこまで定義していない。
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サエルの目が、わずかに細まる。
「条文は曖昧だ」
「はい」
レインは頷く。
「固定しなかったからです」
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Σの内部で、演算が走る。
「条文解釈、分岐発生」
完全論理に、
微細な揺らぎが生じる。
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「承認とは」
レインは続ける。
「明確な拒否がない限り、
暫定同意と解釈可能」
「時間が足りない」
Σの声が重なる。
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「だからこそ」
レインは、境界図を拡大する。
「封鎖ではなく、
“限定越境救助”を提案します」
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封鎖線の一部を、
細く開く。
完全遮断ではない。
完全解放でもない。
**部分的接続**。
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「救助時間、三十秒」
「越境領域、限定半径内」
「封鎖線は維持」
未来曲線が再計算される。
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サエルが、低く言う。
「百年後の存続率、低下は?」
「一・四%」
レインが即答する。
未来固定を緩めた結果、
十二・八%が、一・四%に圧縮される。
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Σの演算が止まる。
「文明存続率、許容範囲内」
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残り一秒。
サエルが、静かに頷いた。
「我々は否定しない」
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Σが続く。
「反対無し。暫定承認」
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例外条項、発動。
封鎖線が、一瞬だけ揺らぐ。
救助隊が、滑り込む。
半透明化した街区から、
人影が引き戻される。
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時空震は、
まだ収束していない。
だが、
封鎖は維持され、
拡大も抑えられている。
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「例外は」
サエルが静かに言う。
「誰かが決めるものではない」
「ええ」
レインは頷く。
「曖昧さの中で、
共有されるものです」
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封鎖線の内側で、
歪みが収束を始める。
完全ではない。
だが、崩壊は免れた。
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協定は、破られていない。
ただ――
**解釈が拡張された。**




