第43話 百年後の代償
二分という猶予は、思考には短すぎる。
だが、文明にとっては長すぎた。
サエル=ユグナの背後で、未来観測図が再構築される。
崩れていた分岐が、粗い形で再形成されていく。
「暫定長期予測を提示します」
静かな声。
投影されたのは、二つの未来曲線。
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「封鎖即時実行」
第一曲線。
影響区域の消失。
局所的損耗増加。
だが百年後の文明存続率は、安定。
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「封鎖遅延、救助優先」
第二曲線。
短期的犠牲減少。
だが時間歪曲が拡大。
百年後、三文明の基盤崩壊確率上昇。
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「確率差は?」
レインが問う。
「十二・八%」
数字は小さくない。
長命文明にとって、
それは決定的な差だった。
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「我々は」
サエルは、迷いなく言う。
「封鎖を支持します」
その言葉に、
空気がさらに冷える。
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「百年後の安定を取る」
それは、
今の数百名を見捨てる選択。
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「あなた方は」
レインが低く言う。
「その十二%のために、
今を切り捨てるのですか」
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「切り捨てているのではない」
サエルは穏やかに応じる。
「未来の死者を減らしている」
声に感情はない。
だが、信念はある。
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Σの演算表示が点滅する。
「封鎖支持」
コレクティアも同意する。
「文明存続率優先」
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三文明のうち、
二文明が封鎖支持。
例外条項は三文明同意が原則。
だが、時間は残りわずか。
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「救助の時間を、三十秒延長できないか」
セシリアが食い下がる。
「拡大確率、上昇」
Σが即答。
長命文明も、否定しない。
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窓の外。
半透明化した街区が、
さらに歪む。
内部の人々が、
ゆっくりと動きを失っていく。
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「……百年後の十二%」
レインは呟く。
それは、理屈としては正しい。
だが。
未来は、まだ確定していない。
ノクス文明が
未来を固定しすぎた結果が、
今の時空震だ。
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「未来予測の信頼度は?」
レインが問う。
サエルは、わずかに目を細める。
「七十三%」
完全ではない。
揺らぎは残っている。
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「ならば」
レインは、静かに言う。
「その揺らぎに賭ける選択肢もある」
沈黙。
長命文明は、未来を読む。
だが未来は、
必ずしも固定ではない。
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「百年後を守るために」
レインは続ける。
「未来を固定し続ければ、
ノクスと同じ道を辿る」
その言葉に、
サエルの視線がわずかに揺れた。
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「我々は、固定していない」
「だが、信頼しすぎている」
未来予測は、便利だ。
だからこそ、依存が生まれる。
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残り時間、十秒。
Σが告げる。
「自動封鎖移行まで、十」
九。
八。
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三文明の思想が、
一点に収束する。
百年後か。
今か。
正しさは、二つある。
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五。
四。
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レインは、
例外条項を開いた。
まだ発動はできない。
だが、
**越境の設計**は、ここにある。




