第42話 封鎖
時空震の拡大速度は、予測を上回っていた。
震源を中心に、
時間位相の歪みが波紋のように広がる。
まだ小規模。
だが確実に、境界線へ向かっている。
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緊急三文明通信が開かれる。
空間投影の中央に、
サエル=ユグナ。
そして、Σ。
「想定外事象、認定可能」
Σの複数声が重なる。
「不確定性の急増。
文明存続率への影響、上昇傾向」
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「発動条件は揃っているか」
サエルが問う。
レインは即答できなかった。
未来予測は崩れ、
演算はループしている。
だが、まだ被害は限定的。
条文第一条の認定には、
明確な“境界消失”が必要。
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そのとき、
新たな報告が割り込む。
「第二観測都市、時間停止を確認」
数百名が、
静止したまま動かない。
外部からの干渉は不可。
「境界線、物理的意味を喪失」
技師が叫ぶ。
地図上の文明境界が、
揺らぎの中で歪み、消える。
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「想定外事象、正式認定」
Σが宣言する。
サエルも、静かに頷く。
「発動条件、満たされた」
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だが次の瞬間、
Σが続けた言葉が空気を凍らせた。
「影響区域、即時封鎖」
投影図に、赤い線が引かれる。
時空震中心から半径一定距離。
「当該区域、切断処理開始」
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「待ってください」
セシリアが声を上げる。
「まだ救助が――」
「封鎖が最適」
Σは揺れない。
「拡大阻止確率、最大化」
影響区域内の個体は、
計算上“損耗許容範囲”。
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「それは」
レインが低く言う。
「境界の一方的越境では?」
協定第三条。
越境は三文明同時承認のみ。
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「封鎖は越境ではない」
Σは応じる。
「自領域内の処理」
だが、問題はそこではない。
封鎖線が、
人類圏の都市を横切っている。
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「我々の市民が取り残される」
セシリアの声が震える。
「救助の時間は?」
「封鎖猶予、二分」
即答。
冷酷ではない。
ただ、全体最適。
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「百年後の影響は?」
サエルが静かに問う。
Σが計算を提示する。
「封鎖実施:長期破滅確率低下」
「封鎖遅延:拡大確率上昇」
長命文明にとっても、
封鎖は合理的。
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沈黙。
協定は、越境を禁じている。
だが今は、
境界そのものが歪んでいる。
条文は、想定していない。
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「例外条項を発動する」
レインが言う。
「封鎖は三文明承認下で実施」
「時間が足りない」
Σの声が重なる。
「二分以内に判断不能なら、自動封鎖」
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窓の外。
空が裂ける。
都市の一角が、
半透明に揺らぐ。
中の人々は、
まだ気づいていない。
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レインは、初めて
時間に追われる。
余白設計は、
即断を想定していない。
だが今は――
**判断しなければ、失われる。**
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