第41話 震源
最初の異変は、報告書の一行だった。
「北西観測領域において、時間流速の不一致を確認」
それだけなら、珍しくもない。
局所的な魔力乱流。
観測誤差。
些細な位相ずれ。
だが、続く一文が空気を変えた。
「三文明観測網、同時に予測モデル破綻」
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辺境領・観測塔。
水晶盤に映るのは、歪んだ地図。
ある一点を中心に、
時間軸が波打っている。
「……ノクス残骸圏付近です」
技師の声が震える。
レインは、静かに目を細めた。
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その瞬間。
地図上の一点が、閃光を放つ。
映像が切り替わる。
まだ発生していないはずの崩壊。
塔が倒れ、
地面が裂け、
都市が崩れる未来映像。
だが、次の瞬間――
その映像は消える。
現実の都市は、まだ無傷だ。
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「未来像の先行観測……?」
セシリアが、息を呑む。
「因果が逆転しています」
技師が続ける。
「結果が、先に出ている」
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同時刻。
エルダ・リューム未来観測院。
サエル=ユグナの前で、
百年予測図が崩れ落ちる。
「収束点が消えた?」
未来は、通常、幾筋かに分岐する。
だが今は違う。
枝分かれそのものが、
霧散している。
「予測不能領域、拡大」
補助官が告げる。
長命文明にとって、
それは最大の異常だった。
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コレクティア領域。
Σの計算核に、警告が走る。
「最適化演算、ループ発生」
入力を変えても、
同じ結果に戻る。
確率分布が、揺れていない。
「不確定性、過剰蓄積」
Σは、初めて“停滞”を観測する。
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ノクス残骸圏。
崩壊都市の地下。
かつて沈黙していた記録管理体が、
再起動する。
「時間揺らぎ保存則、臨界点超過」
淡々とした声。
「蓄積歪曲、放出開始」
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辺境領。
地面が、わずかに軋む。
だが揺れはない。
空が、歪む。
雲が、逆再生のように流れ戻る。
一瞬だけ、
夕暮れが昼に戻り、
再び夕暮れになる。
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「これは……」
セシリアが、呟く。
「時空震」
レインは、はっきりと口にした。
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それは、地震ではない。
雷でもない。
戦争でもない。
時間そのものが、
断層のようにずれている。
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観測盤に、新たな数値が浮かぶ。
「震源拡大傾向」
「境界線を……越えます」
協定で定めた文明境界。
だが、時空震は空間だけでなく、
時間を侵食する。
線は、意味を持たない。
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「三文明代表へ緊急通信」
レインが指示を出す。
「例外条項、適用可能性を検討」
だが、まだ発動できない。
想定外事象の正式認定には、
三文明同時承認が必要。
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その間にも、歪みは広がる。
都市の一角が、
数秒間停止する。
別の場所では、
昨日の出来事が再生される。
誰も死んでいない。
だが、
因果が揺れている。
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レインは、静かに理解した。
これは、外敵ではない。
神罰でもない。
ノクス文明が
未来分岐を削りすぎた副作用。
例外を排除した文明の、
最後の歪み。
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窓の外。
空が、再び歪む。
今度は、
確かに広がっている。
協定は、
まだ破られていない。
だが――
**試されている。**




