第36話 通じない正しさ
異文明との正式接触は、
想像していたよりも、静かに始まった。
剣も、魔法も、
威嚇の言葉すらない。
ただ、
「対話の場」が設けられただけだ。
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最初の相手は、
長命文明。
会議室に現れたサエル=ユグナは、
外見だけを見れば、人と変わらない。
だが、その視線には、
明らかに“時間の厚み”があった。
「あなたが、
被害最小化設計の考案者ですね」
穏やかな声。
「はい」
レインは、短く答えた。
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「素晴らしい成果です」
サエルは、あっさりと評価した。
「短期的には、
非常に優れた判断体系だ」
その一言で、
セシリアは内心ほっとする。
(通じた……?)
だが、続く言葉が、空気を変えた。
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「ただし」
サエルは、ほんのわずかに首を傾ける。
「百年後の我々から見れば、
あなたの設計は
“問題を先送りしただけ”に見えます」
否定ではない。
侮辱でもない。
**評価の違い**だった。
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「先送り、とは?」
レインが問い返す。
「衝突を減らし、
犠牲を抑えた」
事実を述べる。
「ええ」
サエルは頷く。
「ですが、
資源の枯渇速度は変わっていない」
「文明圧は、緩和されていない」
淡々とした指摘。
「あなたは“今”を救った」
「我々は“百年後”を見ています」
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レインは、言葉を失った。
理屈は、理解できる。
数字も、否定できない。
だが――。
「百年後の犠牲を理由に、
今の犠牲を許容するのですか」
初めて、感情が混じる。
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「許容しています」
サエルは、即答した。
「我々は、
何度もそれを選んできました」
「そうでなければ、
今の文明は存在しません」
その声に、迷いはない。
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沈黙が落ちる。
セシリアが、そっと息を呑む。
これは、説得できない。
どちらも、正しいからだ。
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「あなたの設計は」
サエルは、最後に言った。
「短命種にとっては、
最善でしょう」
「しかし、
我々の文明には適用できません」
穏やかな拒絶。
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会談は、円満に終了した。
握手も交わされた。
敵意もなかった。
だが――
**何一つ、進まなかった。**
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帰路。
セシリアが、低く言う。
「……初めてですね」
「ええ」
レインは、静かに答えた。
「正しさが、
通じなかったのは」
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彼は、窓の外を見つめる。
自分が積み上げてきた設計。
世界を壊さなかった判断。
それが、
**文明によっては“不十分”と評価される**。
(これは……)
レインは、はっきりと理解した。
これまでの相手は、
同じ時間を生きていた。
だが、ここから先は違う。
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正しさは、
共有できるとは限らない。
その現実を前にして、
戦えない参謀は、
初めて立ち止まっていた。
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