第31話 選ばれなかった国
ヴァルケイン連邦の首都は、まだ機能していた。
街路は整い、
兵站は回り、
兵士たちの動きも統制されている。
外から見れば、何も問題はない。
――少なくとも、今は。
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「補給線の再計算を」
作戦室で、イリオス・ヴァル=ケインは静かに指示を出していた。
「隣国の防衛展開を考慮し、
先制行動の対象を一段階前倒しする」
声に、迷いはない。
これまで通りの判断。
これまで通りの合理性。
国を守るために、最も被害が少ない手段。
(間違ってはいない)
イリオスは、そう確信していた。
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報告が入る。
「第三補給路、遅延が発生」
「原因は?」
「オルディア商盟の調整です。
封鎖ではありませんが、優先度を下げられています」
イリオスは、わずかに眉を動かした。
「代替路を」
「既に手配しています」
即応。
問題は、常に解決できている。
少なくとも、局所的には。
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だが、数字は正直だった。
「……損耗率が、上がっている?」
参謀が、慎重に報告する。
「戦闘回数は増えていません」
「ただ、常時展開による消耗が」
想定内だ。
警戒を強めれば、消耗は増える。
それでも――。
(減らない)
イリオスは、内心で呟く。
勝っているのに。
負けてはいないのに。
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国境地帯。
小規模な衝突が起きる。
即座に鎮圧される。
被害も最小限。
だが、その背後で、別の動きが進んでいた。
「周辺国が、防衛線を下げています」
「理由は?」
「辺境領方式を採用した、と」
報告に、イリオスは黙り込んだ。
(下げる?
この状況で?)
理解はできる。
だが、納得はできない。
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数日後。
「難民が、我が国境に集中しています」
新たな報告。
「他国が受け入れを制限した影響です」
「……対応は?」
「受け入れています。
ですが、負荷が」
また一つ、
想定外の“正しさ”が積み重なる。
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イリオスは、資料を見つめる。
どの判断も、正しい。
どの行動も、合理的。
それでも――
全体の線が、悪い方向へ歪んでいる。
(これは……)
ふと、脳裏をよぎる言葉があった。
> 国家単位では最適でも、
> 世界単位では最悪になることがある。
忌々しいほど、的確な指摘。
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「……我々は、選ばれなかったのか」
誰に向けた言葉でもなく、
イリオスは呟いた。
力が足りないわけではない。
知性が劣っているわけでもない。
ただ――
**評価の単位が、違っていただけだ。**
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その頃。
辺境領では、淡々と報告がまとめられていた。
「ヴァルケイン連邦、
周辺地域での緊張が上昇」
「大規模戦争の兆候は?」
「現時点では、なし」
レインは、静かに頷く。
「破綻ではありません」
「え?」
ヴァルドが顔を上げる。
「まだ、壊れていない」
「ですが」
「壊れない道を、
選ばれなかっただけです」
それ以上、何も言わなかった。
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ヴァルケイン連邦は、今日も持ちこたえている。
だが、その姿は、
世界から見れば、少しずつ――
**孤立した最適解**になりつつあった。
誰も間違っていない。
だからこそ、救われない。
それが、
選ばれなかった国の現実だった。




