表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/91

第31話 選ばれなかった国

 ヴァルケイン連邦の首都は、まだ機能していた。


 街路は整い、

 兵站は回り、

 兵士たちの動きも統制されている。


 外から見れば、何も問題はない。


 ――少なくとも、今は。


---


「補給線の再計算を」


 作戦室で、イリオス・ヴァル=ケインは静かに指示を出していた。


「隣国の防衛展開を考慮し、

 先制行動の対象を一段階前倒しする」


 声に、迷いはない。


 これまで通りの判断。

 これまで通りの合理性。


 国を守るために、最も被害が少ない手段。


(間違ってはいない)


 イリオスは、そう確信していた。


---


 報告が入る。


「第三補給路、遅延が発生」

「原因は?」

「オルディア商盟の調整です。

 封鎖ではありませんが、優先度を下げられています」


 イリオスは、わずかに眉を動かした。


「代替路を」

「既に手配しています」


 即応。

 問題は、常に解決できている。


 少なくとも、局所的には。


---


 だが、数字は正直だった。


「……損耗率が、上がっている?」


 参謀が、慎重に報告する。


「戦闘回数は増えていません」

「ただ、常時展開による消耗が」


 想定内だ。

 警戒を強めれば、消耗は増える。


 それでも――。


(減らない)


 イリオスは、内心で呟く。


 勝っているのに。

 負けてはいないのに。


---


 国境地帯。


 小規模な衝突が起きる。


 即座に鎮圧される。

 被害も最小限。


 だが、その背後で、別の動きが進んでいた。


「周辺国が、防衛線を下げています」

「理由は?」

「辺境領方式を採用した、と」


 報告に、イリオスは黙り込んだ。


(下げる?

 この状況で?)


 理解はできる。

 だが、納得はできない。


---


 数日後。


「難民が、我が国境に集中しています」


 新たな報告。


「他国が受け入れを制限した影響です」

「……対応は?」


「受け入れています。

 ですが、負荷が」


 また一つ、

 想定外の“正しさ”が積み重なる。


---


 イリオスは、資料を見つめる。


 どの判断も、正しい。

 どの行動も、合理的。


 それでも――

 全体の線が、悪い方向へ歪んでいる。


(これは……)


 ふと、脳裏をよぎる言葉があった。


> 国家単位では最適でも、

> 世界単位では最悪になることがある。


 忌々しいほど、的確な指摘。


---


「……我々は、選ばれなかったのか」


 誰に向けた言葉でもなく、

 イリオスは呟いた。


 力が足りないわけではない。

 知性が劣っているわけでもない。


 ただ――

 **評価の単位が、違っていただけだ。**


---


 その頃。


 辺境領では、淡々と報告がまとめられていた。


「ヴァルケイン連邦、

 周辺地域での緊張が上昇」

「大規模戦争の兆候は?」

「現時点では、なし」


 レインは、静かに頷く。


「破綻ではありません」

「え?」


 ヴァルドが顔を上げる。


「まだ、壊れていない」

「ですが」


「壊れない道を、

 選ばれなかっただけです」


 それ以上、何も言わなかった。


---


 ヴァルケイン連邦は、今日も持ちこたえている。


 だが、その姿は、

 世界から見れば、少しずつ――

 **孤立した最適解**になりつつあった。


 誰も間違っていない。

 だからこそ、救われない。


 それが、

 選ばれなかった国の現実だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ