第28話 拒否される提案
多国間調停会議は、最初から静かだった。
怒号も、非難もない。
あるのは、慎重な沈黙だけだ。
各国代表が円卓に座り、
中央に置かれた資料に視線を落としている。
「これが、提案の全体像です」
レインは、淡々と説明を続けた。
「段階的な軍備展開制限」
「補給路の共同管理」
「先制行動の発動条件の明文化」
どれも、過激ではない。
革命的でもない。
ただ――現実的だった。
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「理屈は理解できる」
最初に口を開いたのは、
ヴァルケイン連邦のイリオスだった。
「だが、受け入れられない」
即答。
「理由は?」
レインは、問い返す。
「抑止力が下がる」
それだけだった。
「敵対の兆候を察知しても、
即応できなくなる」
「結果として、
被害が増える可能性がある」
イリオスの声に、感情はない。
だが、その理屈は正しかった。
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「オルディア商盟は?」
レインが視線を向ける。
マルグリットは、肩をすくめて笑った。
「面白い案だと思うわ」
「……ですが?」
「全部は無理ね」
彼女は、資料の一部を指で叩く。
「補給共有は賛成」
「でも、軍事制限は困る」
「なぜ?」
「不安定な地域では、
“誰が守るか”が重要なの」
曖昧な言葉。
だが、商人としては正直だ。
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「エル=サリア神政国は?」
最後に、ユスティアが答える。
「我が国は、
結界と民を最優先します」
静かだが、揺るぎない声。
「外部との軍縮協定は、
安全保証が不足しています」
その判断も、否定できない。
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沈黙が落ちる。
誰も、相手を非難しない。
誰も、間違っていない。
「つまり」
レインは、ゆっくりとまとめる。
「全会一致で、却下ですね」
「そうなる」
イリオスが頷く。
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その瞬間、
どこかで既視感が走った。
かつて――。
合理的で、
正しくて、
だからこそ追放された、あの日。
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「一つ、確認します」
レインは、最後に言った。
「この提案が、
“間違っている”とは、
誰も思っていない」
誰も否定しなかった。
「ただ、
“今の自国には合わない”だけです」
それが、全てだった。
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会議は、穏やかに終了した。
拒否。
だが、敵意はない。
それが、
最も厄介な形だった。
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会議後。
セシリアが、低く言う。
「……第1部と、同じですね」
「ええ」
レインは、頷く。
「評価される場所ではなかった」
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廊下の窓から、
遠くの空が見える。
雲は重いが、
まだ嵐ではない。
レインは、静かに思う。
(拒否されるのは、想定内)
問題は――
**それでも、やるかどうか**だ。




