第27話 戦えない参謀の役割
辺境領の執務室は、いつもより静かだった。
地図が広げられ、
各国の軍勢と交易路、難民の流れが、
細い線で書き込まれている。
「どこも、防衛線を前に出していますね」
ヴァルドの言葉に、レインは頷いた。
「ええ。
最も被害が少なくなる位置です」
「……つまり、正解だ」
「国家単位では」
レインは、線の交差点に視線を落とした。
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「皆、正しい判断をしている」
その声に、非難はない。
「危険があれば備える」
「補給が不安なら、確保する」
「守れる命を、確実に守る」
どれも、否定しようがなかった。
「なのに」
ヴァルドは、眉をひそめる。
「世界は、悪くなっている」
「はい」
レインは、淡々と答える。
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「問題は、人ではありません」
彼は、地図の端に小さな円を描いた。
「判断基準です」
「基準?」
「各国が、
“自国だけ”を評価単位にしている」
円が増えていく。
「国家単位で最適化すれば、
当然、衝突は起きます」
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「では、どうすれば?」
ヴァルドの問いは、
切実だった。
レインは、少しだけ考える。
「評価単位を、変える必要があります」
「……世界、か」
「いいえ」
首を振る。
「いきなり世界単位では、
誰も受け入れません」
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レインは、別の紙を取り出した。
そこには、簡素な図が描かれている。
「戦争を止める設計が、
そもそも存在していないのです」
「止める、設計?」
「はい」
淡々と、続ける。
「今あるのは、
“勝つための設計”と
“守るための設計”だけです」
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「止めるための設計は、ない」
ヴァルドは、ゆっくりと理解する。
「だから、正しさが重なるほど、
止まらなくなる」
「その通りです」
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沈黙が落ちる。
やがて、ヴァルドが言った。
「……お前がやるのか」
「ええ」
迷いはなかった。
「戦えない参謀の役割は、
敵を倒すことではありません」
レインは、静かに言う。
「戦わなくて済む判断を、
先に用意することです」
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「だが、それは」
ヴァルドは、苦笑する。
「誰にも評価されない仕事だ」
「はい」
即答だった。
「成功すれば、
何も起きませんから」
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その夜。
レインは、一人で書類を書いていた。
軍縮案。
補給共有案。
先制行動の制限条件。
どれも、派手さはない。
だが、一つ間違えば――
世界が傾く。
(評価されるかどうかは、問題ではない)
彼は、ペンを走らせる。
(必要かどうかだ)
---
窓の外では、
遠くの国境で、火が揺れていた。
まだ小さい。
だが、確実に増えている。
レインは、その光を見つめながら、
静かに呟いた。
「……戦えない参謀の仕事は、
いつも、遅すぎると思われる」
そして、続きを書く。
それでも、
**誰かがやらなければならない仕事だった。**
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