第21話 謝罪は無意味
辺境領に、珍しい来訪者があった。
王国直属部隊の制服。
階級章は外されている。
「……レイン」
名を呼んだのは、グレインだった。
私的な訪問。
公式記録には残らない。
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「時間をもらえないか」
執務室に通されたグレインは、
深く頭を下げた。
「すまなかった」
「……何についてですか」
レインは、静かに問い返す。
責めるでもなく、
許すでもなく。
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「追放の件だ」
グレインは、言葉を選びながら続ける。
「判断は正しかった。
だが、結果を見誤った」
「……」
「俺たちは、
お前の価値を理解しきれなかった」
それは、彼なりの誠実な謝罪だった。
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「感情としては、受け取ります」
レインは、淡々と答える。
拒絶ではない。
だが、受容でもない。
「ただ、それだけです」
「……戻るつもりはない、か」
「はい」
即答だった。
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その時、扉がノックされる。
「失礼します」
入ってきたのは、
国家監査官アーデル・クロウゼンだった。
「非公式の面会と聞きました」
「……監査官」
グレインは、立ち上がろうとして、やめた。
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「謝罪は、感情の処理です」
アーデルは、椅子に腰掛けながら言う。
「個人間では、有効でしょう」
「だが、国家の損失は?」
視線が、静かに突き刺さる。
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「損失は、すでに確定しています」
淡々と、続ける。
「人的損耗」
「補給浪費」
「機会損失」
資料を開くまでもない。
「謝罪では、
どれも回収できません」
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「……なら、どうすればよかった」
グレインが、絞り出す。
「修正です」
即答だった。
「評価基準を見直し、
配置を変え、
役割を再定義する」
「だが、それは――」
「できなかった」
アーデルは、遮る。
「だから、今の結論があります」
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沈黙。
グレインは、ようやく理解した。
これは、
個人の過ちではない。
**制度の選択**だ。
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「レイン・アルヴェルト」
アーデルが名を呼ぶ。
「国家としての判断は、変わりません」
「承知しています」
「よって、
いかなる謝罪も、
復帰理由にはなりません」
それは、冷たい宣告だった。
だが、同時に――
完全な決着でもあった。
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グレインは、立ち上がる。
「……すまなかった」
もう一度だけ、頭を下げて。
今度は、返事を待たなかった。
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扉が閉まる。
静けさが戻る。
「冷たかったか?」
ヴァルドが、低く聞く。
「いいえ」
レインは、首を振った。
「必要な処理でした」
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その夜、
国家記録に、補足が加えられた。
> 個人的謝罪は、
> 制度的判断を変更する理由にはならない。
短い一文。
だが、それは
**最後の逃げ道を、完全に塞ぐ文章**だった。
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