第18話 だが、修正しなかった
中央評議院に、再び資料が積み上げられた。
前回の会議とは違う。
今回は、弁明の場ではない。
「確認を続けます」
国家監査官アーデル・クロウゼンは、淡々と告げた。
「本日は“損失”の内訳です」
その一言で、空気が固まる。
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「まず、人員」
一枚目の資料が示される。
「王国直属部隊における、
過去半年間の負傷・離脱者数」
数字は、決して多くない。
だが――比較対象が並んだ瞬間、意味が変わった。
「同期間、辺境部隊の数値です」
明確な差。
「……偶然ではないのか」
かすれた声が上がる。
「偶然であれば、分散します」
アーデルは即答した。
「これは、
**一貫して同じ傾向を示しています**」
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「次に、補給」
別の資料。
「想定消耗量と、実消耗量」
「王国直属部隊:平均一三五%」
「辺境部隊:平均七八%」
誰かが、唇を噛みしめた。
「最後に、機会損失」
その言葉に、視線が集まる。
「これは、
“起きなかった戦闘”の数です」
静まり返る。
「辺境部隊が関与した地域では、
戦闘そのものが発生していない」
「……抑止、ということか」
「はい」
アーデルは頷いた。
「戦争を減らした。
これが、最大の成果です」
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「つまり……」
年配の貴族が、震える声でまとめる。
「我々は、
気づいた時点で修正すべきだった」
「正確には」
アーデルが訂正する。
「**気づく材料は、
最初から揃っていました**」
その言葉が、突き刺さった。
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「修正しなかった理由は、三つです」
淡々と列挙される。
「体裁」
「前例」
「責任回避」
どれも、否定できない。
「結果として、
国家は損失を積み重ねました」
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結論は、もう明らかだった。
「これは、失敗ではありません」
「……」
「**管理不全です**」
重い言葉だった。
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「よって、提言します」
アーデルは、資料を閉じる。
「王国直属部隊の
戦力中核としての役割を終了」
「再編成を行い、
指揮権を分散します」
それは、事実上の解体宣告だった。
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一方、辺境領。
「……決まったそうです」
ヴァルドの報告に、レインは静かに頷いた。
「そうですか」
「感想は?」
「合理的です」
それだけだった。
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王都の廊下で、
グレインは壁にもたれて立っていた。
「……修正しなかった、か」
言葉の意味が、
ようやく腹に落ちてくる。
判断を誤ったのではない。
**誤り続けたのだ。**
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その夜、評議院の記録に、
一行が追記された。
> 王国直属部隊は、
> 今後、国家戦略の中核とはしない。
短い文章だった。
だが、それは
戻れない線を、
はっきりと引いた宣告だった。
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