第17話 切られた理由は正しかった
中央評議院の会議室に、重苦しい空気が戻っていた。
国家監査官アーデル・クロウゼンの言葉は、
まだ全員の頭の中で反響している。
「……つまりだ」
年配の貴族が、慎重に口を開く。
「我々の判断そのものが、
完全に間違っていたわけではない、ということだな」
その言葉に、数人が頷いた。
「そうだ。
当時の評価基準では、
レイン・アルヴェルトは即戦力ではなかった」
「追放は、合理的判断だった」
誰かが、安堵したように息を吐く。
それは、
自分たちが“愚かではなかった”と信じたいがための確認だった。
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「はい」
アーデルは、淡々と肯定した。
「当時の判断は、
当時の基準に照らせば正しい」
その一言で、空気が少し緩む。
「……ならば」
別の貴族が続ける。
「今回の問題は、
彼を切ったこと自体ではなく――」
「ええ」
アーデルは、言葉を引き取った。
「**切った後の運用です**」
再び、空気が引き締まる。
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「参謀を一人失った」
アーデルは、資料を一枚取り上げる。
「それ自体は、致命傷ではありません」
「代替は可能だ」
その言葉に、数人が頷く。
「問題は、代替に失敗したこと」
「……」
「そして、失敗を
**失敗として認識しなかったこと**」
静かな声だった。
だが、逃げ場はなかった。
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「我々は改善している」
ついに、反論が出る。
「最近は、損耗も抑えられている」
「努力は評価します」
アーデルは、即座に認めた。
「しかし、成果ではありません」
「……何が違う」
「比較対象です」
彼は、別の資料を机に置いた。
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「同条件下での結果」
そこに並んでいたのは、
**辺境部隊と王国直属部隊の比較表**だった。
「戦力規模、ほぼ同等」
「任務難度、同水準」
「期間、一致」
そして、結果。
「辺境部隊:被害最小、目的達成」
「王国直属部隊:被害増、目的未達」
言い訳は、成立しない。
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「……それでも」
誰かが、絞り出すように言った。
「我々は、
レイン・アルヴェルトなしで
立て直しつつある」
アーデルは、その言葉を否定しなかった。
「ええ。
**立て直そうとしている**」
そして、続ける。
「しかし、
国家が求めているのは
“立て直し”ではありません」
沈黙。
「**最適化です**」
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その結論は、明確だった。
「よって、次期国家重要任務において、
王国直属部隊は補助枠とします」
「……主力ではない、ということか」
「はい」
それだけで、
すべての意味が通じた。
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会議の後。
廊下で、グレインは立ち尽くしていた。
「……正しかったはずなんだ」
誰に向けた言葉でもない。
「俺たちの判断は……」
だが、その続きは出てこない。
正しかった。
確かに、正しかった。
ただし――
**“正しさ”の有効期限が切れていただけだった。**
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一方、辺境領。
「国家側からの追加要請です」
ヴァルドの報告に、レインは静かに頷く。
「内容は?」
「設計全般。
判断権は、こちらに」
「受けましょう」
迷いはない。
評価される場所は、
すでに一つに定まっている。
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その夜。
王都の灯りを遠くに眺めながら、
グレインは理解し始めていた。
自分たちは、
何かを奪われたのではない。
**選ばれ続ける理由を、失っただけだ**ということを。




