第14話 同じ場所、違う立場
王都主催の戦況報告会は、形式ばった空気に包まれていた。
参加者は、各地の有力貴族、指揮官、そして功績ある部隊の代表者。
名簿に並ぶ名前は、王国の中枢そのものだ。
「辺境伯ヴァルド、入場」
名を呼ばれ、場の視線が一斉に向く。
その少し後ろ――
影のように、レインは歩いていた。
名は呼ばれない。
肩書もない。
それでいい。
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「今回の戦果について、辺境伯から説明を」
壇上に立つヴァルドを、グレインは客席から見上げていた。
(辺境が、ここまで評価されるとは……)
かつて、自分たちが担っていた役割だ。
「我々は、前段階での損耗削減を重視しました」
ヴァルドの説明は簡潔だった。
「無理をしない。
勝てる戦いだけを、確実に拾う」
それだけで、被害は減った。
会場がざわめく。
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「具体的な判断は、誰が?」
誰かが質問する。
「現場です」
ヴァルドは、あくまでそう答えた。
その瞬間、
セシリアの視線が、会場の隅で止まった。
(……いる)
気配だけでわかる。
名前のない参謀が、そこにいる。
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休憩時間。
グレインは、偶然を装ってヴァルドに近づいた。
「久しぶりだな、辺境伯」
「そうだな」
短い挨拶。
「噂は聞いている。安定した部隊運用だそうだ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
視線が、ふと後ろへ向く。
そこに立つ男に、グレインは一瞬、目を細めた。
(……誰だ?)
どこかで見たことがある。
だが、すぐには思い出せない。
記憶が、噛み合わない。
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「随分と、落ち着いた参謀だな」
そう言って、レインに声をかける。
「失礼だが、どちらの所属だ?」
「辺境です」
それだけの答え。
声を聞いた瞬間、
グレインの胸に、かすかな違和感が走る。
(……まさか)
だが、その考えはすぐに打ち消された。
あり得ない。
ここにいるはずがない。
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「時間だ」
ヴァルドが、会話を切る。
「次がある」
「……ああ」
グレインは、最後にもう一度だけレインを見る。
だが、確信には至らない。
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会の終わり。
セシリアが、レインの隣に立つ。
「気づきませんでしたね」
「当然です」
レインは、淡々と答える。
「彼らは、“参謀”を見ていませんでしたから」
「……今も?」
「今もです」
セシリアは、静かに息を吐いた。
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帰路。
王国直属部隊の席では、重い沈黙が流れていた。
「……辺境の評価、上がりすぎじゃないか」
「実績がある以上、仕方ない」
誰も口には出さない。
だが、全員が感じている。
**自分たちは、もう主役ではない**と。
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その夜。
レインは、王都を後にした。
振り返らない。
同じ場所に立っても、
もう――立場は、完全に違う。
そして王都は、
**その差が“取り返しのつかないもの”になりつつあることに、まだ気づいていなかった。**




