第12話 名前のない貢献
その作戦は、王都でも極秘扱いだった。
国境付近で確認された大規模魔物群。
正面から当たれば、確実に被害が出る。
「主力部隊を動かす」
「だが、補給線がもたない」
王都の作戦会議は、膠着していた。
数は足りている。
だが、“余裕”がない。
「一部を削れれば……」
「だが、その判断を誰が?」
誰も答えられなかった。
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「こちらから、提案があります」
静かに声を上げたのは、ヴァルド辺境伯だった。
「辺境部隊を、前段階に投入したい」
「……囮か?」
露骨な言葉が飛ぶ。
「違う。削減だ」
ヴァルドは、追加資料を差し出した。
「敵の進行速度、分散傾向、夜間活動率。
すでに、こちらで整理している」
会議室に、ざわめきが走る。
「誰が分析した?」
「現場だ」
それ以上、名前は出なかった。
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同時刻。
辺境領。
「ここまでです」
レインは地図の一点を指した。
「このラインを越えたら、撤退」
「え、まだ余裕が……」
「余裕がある“ように見える”だけです」
説明は簡潔だった。
「次の主力が動くための余白を、ここで作ります」
「……なるほど」
兵たちは、もう疑問を口にしない。
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夜明け前。
辺境部隊は、静かに動いた。
深追いしない。
倒しきらない。
ただ、魔物の群れを分断し、誘導する。
「……追ってこない?」
「追わせません」
判断は、常に一拍早い。
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結果は、数日後に出た。
主力部隊が当たった時、
敵は“想定より少なかった”。
「被害が、少なすぎる……」
「前段階で削られている?」
報告書が、次々と上がる。
だが、そこに書かれているのは――
**辺境部隊の“支援”**という一文だけ。
名前はない。
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「……誰が、これを設計した?」
王都の上層部で、問いが投げられる。
「辺境伯がまとめている」
「本人か?」
「いえ。現場の判断だと」
誰も、それ以上踏み込めなかった。
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その夜。
辺境の執務室。
「うまくいったな」
ヴァルドが、短く言う。
「主力が楽をしました」
「名前は出なかったぞ」
「想定通りです」
レインは、書類を整えながら答える。
「必要なのは、結果です」
「……王都が気づくぞ」
「いずれ」
だが、彼は焦らない。
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数日後。
王国全体の被害報告が確定する。
例年比、明確な減少。
「理由は?」
「……不明です」
だが、数字だけは残った。
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一方、王国直属部隊。
「主力なのに、出番が少なかったな」
「楽だったが……」
それを、疑問に思う者は少ない。
まだ、結びつかない。
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レインは、その夜も机に向かっていた。
成果は出た。
だが、それは“通過点”だ。
(次は、隠せなくなる)
評価される場所では、
遅かれ早かれ――
**名前のない貢献は、名前を求められる。**
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