第10話 感情的な判断
王国直属部隊にとって、その任務は“簡単なはず”だった。
敵は中型魔物一体。
地形も把握済み。
過去にも何度か対処した相手だ。
「楽勝だな」
「早く終わらせて戻ろう」
バルドは剣を肩に担ぎ、余裕を見せていた。
「油断するな」
グレインは短く言う。
「今回は、補給が完全じゃない」
「問題ない。俺が前に出れば終わる」
その言葉を、誰も止められなかった。
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戦闘開始直後。
魔物は、想定よりも一回り大きかった。
「……成長個体か」
グレインが舌打ちする。
「だから言っただろ!」
だが、バルドは引かなかった。
「関係ねえ!」
怒声とともに、突っ込む。
判断は早い。
だが、周囲を見ていない。
「バルド、戻れ!」
「うるせえ!」
魔物の一撃が、直撃した。
「ぐっ……!」
致命傷ではない。
だが、深い。
「回復を――」
「間に合わない!」
エレナの声が、焦りに揺れる。
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戦闘は、辛うじて勝利した。
だが、結果は明白だった。
前衛一名、重傷。
補給予定の物資、大量消費。
そして――
任務達成度、未達。
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帰還後。
作戦室に、重い沈黙が落ちる。
「……バルド」
グレインが、低い声で呼ぶ。
「俺が行かなきゃ、もっと被害が出てた」
「違う」
即座に、否定された。
「お前が行ったから、被害が出た」
その言葉に、空気が凍る。
「感情で動いた」
「……」
「判断を待てば、撤退もできた」
誰も、反論しなかった。
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その日のうちに、報告は上に上がった。
結果:
**評価減点**。
理由:
指揮命令違反。
不要な損耗。
数字は、正直だった。
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数日後。
バルドは前線から外された。
「一時的な措置だ」
「……納得いかねえ」
だが、覆らない。
代わりに前に出た若手は、慎重だった。
結果、被害は減った。
皮肉な話だ。
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一方、辺境領。
「……王都の部隊、評価落ちたらしいですね」
部下の報告に、ヴァルドは短く笑う。
「当然だ」
「……理由は?」
「感情的な判断だそうだ」
ヴァルドは、視線をレインに向ける。
「君なら、どうした?」
「撤退です」
即答だった。
「勝てても、損をする戦いでした」
「だろうな」
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その夜。
レインは、新しい訓練計画を書き直していた。
危険を減らす。
成果を積み上げる。
それだけだ。
一方、王国直属部隊では――
**“声の大きい者”の価値が、少し下がった。**
そして読者は、はっきりと理解する。
追放は正しかった。
だが、正しかったのは――
**判断ではなく、基準だけだったのだと。**




