第1話 戦えない参謀
※この物語は
「追放は必ずしも間違いではない」
という前提から始まります。
正しい判断でも、
未来を考慮しなければ
取り返しのつかない結果になることがある。
これは、
追放された側が怒りも復讐も選ばず、
ただ“評価される場所”を選び直した結果の物語です。
静かな逆転と、
遅れて訪れるざまぁをお楽しみください。
剣戟の音と、魔法が炸裂する轟音が、訓練場に絶え間なく響いていた。
土煙の向こうで、勇者グレインが剣を振るう。その一撃は重く、正確で、見ているだけで「英雄」と呼ばれる理由が理解できた。
「いいぞ、グレイン! そのまま押せ!」
前衛の戦士バルドが叫び、後方では回復役のエレナが素早く詠唱を重ねる。
完成された連携。王国が誇る精鋭部隊――その光景を、訓練場の端から静かに見つめる男が一人いた。
レイン・アルヴェルト。
この部隊に所属する、唯一の“戦えない”男だ。
「……また、見てるだけかよ」
誰に聞かせるでもない小声が、風に紛れて耳に届く。
レインは気にした様子もなく、手元の書類に視線を落とした。補給表、行軍予定、魔力消費の推定値。今日の訓練で消費される物資と、その補填計画が細かく書き込まれている。
戦闘訓練に参加しない理由は単純だった。
レインは、剣も魔法も、平均以下だった。
王国の基準で言えば、明確な“戦力外”。
この部隊において、彼が前線に立つ意味はどこにもない。
「レイン。明日の討伐、配置はこれでいいか?」
訓練を終えたグレインが、汗を拭いながら声をかけてくる。
レインは顔を上げ、即座に答えた。
「はい。バルドさんは第二波で投入を。消耗が早いので、前半に出すと持ちません」
「……相変わらず容赦ないな」
苦笑しつつも、グレインは否定しない。
レインの指示は、これまで一度も大きく外れたことがなかった。
それでも――。
「なあリーダー。本当にこいつ必要か?」
バルドが不満を隠そうともせず言った。
視線は露骨にレインを向いている。
「戦えない、魔法も並以下。作戦だの補給だの、そんなの俺たちでもできるだろ」
「……バルド」
グレインがたしなめるが、バルドは引かない。
「事実だろ? ここは戦場だ。数字遊びする場所じゃねえ」
訓練場の空気が、わずかに張り詰める。
エレナは何か言いたげに口を開きかけ、しかし結局、視線を伏せた。
レインは、そのやり取りを黙って聞いていた。
慣れている。こういう評価には。
「バルドの言うことも、理解できます」
レインが静かに口を開く。
全員の視線が集まった。
「俺は即戦力ではありません。個人戦闘力で見れば、この部隊で一番低い」
「ほらな」
バルドが鼻を鳴らす。
「ただ――」
レインは言葉を継いだ。
「この部隊が、ここまで大きな損失を出さずに済んでいる理由が、どこにあるのか。一度、考えていただければと思います」
一瞬の沈黙。
グレインは何かを言いかけて、やめた。
「……今日はここまでだ。解散」
強引に話を切り上げるように、彼はそう告げた。
その夜。
王都の一室で、非公開の会議が開かれていた。
「結論から言おう。レイン・アルヴェルトは、次期作戦から外す」
淡々とした声が、部屋に響く。
「理由は明確だ。戦力評価基準に合致しない」
「ですが――」
反論したのは、戦力分析官のセシリアだった。
「彼の関与した作戦の成功率は、異常です。補給遅延ゼロ、想定外被害の最小化。数字に表れにくいですが、無視できるものではありません」
「“今”必要なのは即戦力だ」
上層部の一人が遮る。
「将来性では戦争は勝てない」
沈黙が落ちる。
セシリアは唇を噛み、視線を伏せた。
「……わかりました」
決定は覆らなかった。
翌朝。
レインは呼び出しを受け、すべてを察した。
「追放、ですか」
グレインの前で、彼はそう言った。
「ああ。すまない。これは、組織としての判断だ」
「合理的だと思います」
即答だった。
グレインは、言葉を失った。
「俺は、戦えません。今の評価基準では、不要でしょう」
「……レイン」
「これまで、ありがとうございました」
レインは一礼し、踵を返す。
引き止める者はいなかった。
ただ一人、セシリアだけが、彼の背中を見つめていた。
(間違っている……)
彼女は確信していた。
だが同時に理解もしていた。
この判断は――
“今”においては、確かに正しい。
そして誰も、その先の未来を見ていなかった。
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