不穏な気配
字が読めない人にも配慮し、求人ポスターにはイラストもふんだんに利用した。
魔物と戦うサラサの躍動感溢れる姿。それはラノベの表紙にしたって映えるだろう。この世界の宮廷画家は現代日本とセンスが似ているようで、なぜかアニメ絵だった。
店の壁に求人ポスターを張り出し、サラサとともに旅をする我こそはという戦士を待った。
灼熱酒場はもともとセントラル・バルの客だった人を呼び込んでいるため、冒険者が主な客である。
サラサ自身も有名な貴族家の娘のため、募集してすぐにたくさんの問い合わせがあった。もっとも有力な冒険者はすでにパーティを組んでいるので、ピッタリの人選をするには時間はかかりそうだったが。それでも、日に日に賑わいの増す灼熱酒場において、いずれ素晴らしい冒険者が現れることは間違いないように思われた。
そうだ。
賑わいさえ増せば。
さらにこの店に冒険者が集まりさえすれば。
しかし僕のその認識は、とうてい甘いのかもしれなかった。
「……おいシロ。なんだか客が減ってねーか?」
ヒートレオンと僕は同じ認識だ。
「そうだね、なんだか新規のお客さんがほとんどこなくなったみたいだ」
店には固定客ばかり。
荒々しい男の客が多く、少しばかり店内の治安が悪くなった気さえする。
もっともそれは、冒険者を集めているのだからしょうがない気もするけれど。
それでも、店の運営には十分な客の入りであるため心配するほどのことではない。
「またよう、コラボで人集めした方がいいんじゃねーか?」
最近は行っていなかったセントラル・バルの近くで香味アジノ乇卜を配る活動。確かにそれをすれば新たなお客様の獲得には効率が良いし、サラサのパーティメンバー探しにも直接貢献できる気がした。
「そうだね。ヒートレオンは忙しいし、僕が行ってくるよ」
◆ ◆ ◆
昼前の時間にセントラル・バルの表通りの人並みに紛れることにした。
その時間活動するのは健全な冒険者。サラサのパーティメンバーに相応しい人物に出会える可能性も高そうだ。
僕は目についたハタチを少し超えたくらいの剣を背負った男に声をかけた。
「やぁ、これからセントラル・バル?」
「ん? ああ。そうだけど」
「へー、お昼、何食べるの?」
「……おいなんだ、物乞いか? 別に渡せるもんはねーぞ」
「逆だよ逆。ほら、よかったらこれを持ってきなよ」
僕は香味アジノ乇卜の小袋を差し出した。
「ん? なんだよこれ」
「いやさ、どうせなら旨い昼飯にした方がいいと思ってさ。セントラル・バルの肉料理によく合うんだ」
すると、男は苦笑を浮かべた。
その表情の意図が、僕にはわからなかった。
「……いや、遠慮する」
「そう? ちょっと匂いだけでも嗅いでみない?」
「悪いな」
男はにべもなくセントラル・バルに入って行った。
…………まぁ、仕方がない。
この営業方法が怪しいのは間違いないのだし。それを乗り越えて興味を持ってくれる好奇心の強い冒険者の方が、きっと見込みがあるに違いないということにしよう。
そう思って僕はまた次の冒険者に当たるのだが、僕の営業はまたしてもあっさりと断られた。
そしてその次も、その次も、その次も。
ただ営業が失敗しているだけではない。それどころか、僕が近づくだけで人が離れていくようだ。
結局夕方まで続けたが、この日香味アジノ乇卜を受け取ってくれた人は一人もいなかった。
まぁ、流れが悪いのは仕方がない。
また明日以降、まともな冒険者を集められればそれで済む話だ。




