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異世界アジノ乇卜  作者:
君のための新食感

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29/40

成功の目的

 客足は途絶えなくなり、安定して商品を仕入れられるようになってきた。

 給仕を担当するサラサの評判も良く、とても生き生きと働いている。それは、とてもおかしな話ではあるけれど。


 灼熱酒場は今や潰れかけとは呼べず、人気店へと成長した。


「いやーシロは本当にすげぇ。セントラル・バルの飯にアジノ乇卜を振りかけさせて、アジノ乇卜を広めるなんて誰が思いつくかよ」

「そうですよ、シロさんはすごいんです!」


 営業後の賄い料理を食べながら、ヒートレオンとサラサが満足気に笑っていた。サラサはまだ給仕服を着ており、その可愛らしさとどことなく溢れる気品によって彼女目当ての客が増えていることもよく理解できた。


「……おい、そういうわけで、これだ」


 ヒートレオンは、僕とサラサに小袋を渡した。


「なんだこれは」

「いや、給料だよ。ぜんぜん払えてなかったからさ。少しばかり余裕が出てきたし」


 僕はその説明に首を傾げた。

 ヒートレオンはそもそも商家に借金をして店を出しているはずで、薄利多売の飲食店でまだ余裕なんてないはずだ。


「僕は寝泊まりさせてもらえることと賄い飯が給料だと思っていたんだけど」

「そ、そうですよ! 庶民のかたからお金を頂くだなんて!」


 サラサから微妙に貴族風の発言が飛び出したが、ヒートレオンは気にせず続ける。


「はは、でも払えるときに払っとかないと、出て行かれても困るからな。おまえらはこの店に不可欠な存在だから」


 ヒートレオンの笑顔は、どういうわけか不安気に見える。

 僕はふと、先日セントラル・バルから引き抜きにあったことを思い出す。そういう話を、ヒートレオンも聞いたのだろうか。


「……別に不可欠じゃないだろ。僕がいなくても、料理を作るのはほとんどヒートレオンなわけだし、手伝いを一人雇えば終わる話だ」

「おいおいやめてくれよ。おまえほどのやつはそういねーよ。それに、シロがいなきゃアジノ乇卜がねーじゃねーか」

「最近は徐々に一度で召喚できるアジノ乇卜の量も増えてる。保存も利くし、たまに僕が売りにくるよ。たとえここから離れたとしてもさ」


 僕の言葉に、ヒートレオンはますます悲しそうになる。


「なんだよ……まるで本当に出ていくみたいじゃねーか。この店に文句があるなら言え」

「……まぁ僕はどうとでもなるんだけど……サラサをこのままにはしておけない」


「私……ですか?」


 彼女は不思議そうにフォークを掴む手を止めた。

 はっきり言って僕は、そんな彼女が不満だ。


「サラサはさ、冒険者だろう。パーティを組んで名声をあげる。そのために家を出たはずだ。認められるために。…………この生活の延長に、その目的が叶うことはない」

「そ、それはそうですけど」


「——だったら! こんなところで給仕をしているよりも、早く冒険に出た方がいいんじゃないの?」


 何かを言いたそうにしたが、黙ってしまうサラサ。

 僕にはサラサの考えていることがわからない。自分の意思で家庭を飛び出した貴族の少女の気持ちなんて、そもそもわかるはずないけれど。


「シロ。厳しいこと言うなよ。サラサちゃんも困ってるぞ」

「厳しいことなんて言っていないだろ!」

「あわわ、あわわ」


 ヒートレオンには語気が強くなってしまったが、それとして。


「サラサ。君がここにいる理由なんてないだろう」

「り、理由は…………ありますよ!」


「どんな理由が?」

「……えっと、それは…………」


 またしても言い淀む。

 明確な理由なんてなく、むしろ僕のせいで飲食店の手伝いなんかに巻き込まれ、足を引っ張っているのは間違いない。


 こんな生活を続けるわけにはいかない。


「サラサ、提案がある」

「……なな、なんでしょうか」


 灼熱酒場の客は、多くは元々セントラル・バルの客である。それはすなわちギルドに用のあった客であり、すなわち冒険者だ。


 最初から考えていたのだ。

 どうすればサラサに相応しいパーティが組めるのか。


「灼熱酒場でパーティメンバーをスカウトしよう。仲間が見つかったら、僕たちはお別れだ」


 僕はサラサの目を見ることはできなかったし、サラサの視線も落ちたまま。だから、彼女がどんな表情をしているのかはわからない。


 しかし、サラサは言った。


「……あ……あ、ありがとう……ございます」


 僕たちが一緒にいられる時間は、そう多くはないだろう。


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