意味のない看板メニュー
「おい……どうして客が増えねーんだ!」
あれから僕たちはいくつかのアジノ乇卜メニューを完成させた。
そしていまかいまかと客を待ち、そして時折入ってくる冒険者に対してアジノ乇卜をふんだんに使ったメニューを振る舞った。
冒険者たちは口を揃えて「旨い!」と感激し、笑顔で店を後にした。
ところで僕が灼熱酒場に訪れて一週間が経つけれど、訪れた冒険者は三組だ。
「増えるわけないだろ誰もこの店知らないんだからさぁああああああ————————————!!!」
「あわ、あわわ、あわわ」
一週間ここにいてわかったが、ヒートレオンは少し理想主義なきらいがあった。
良い料理を作れば自然と客が増えるというような。
僕だってそうなれば素晴らしいとは思う。
料理の噂が広がり、自然と客足が増えていく。
しかし、そんなものは幻想だ。
疲れ切ってやってきた冒険者が口にする干し肉や野菜のレシピ。それはいくら味がよくても、中心街に進んで食べる肉料理はインパクトには敵わない。
さらにいえば、この店にやってくる客に口コミで広げる相手はいない。なにせ別地域の冒険者だから。それ以前にこの店には三組しかきていないし。
「何もかもが無理なんだよこんな場所でやってる限りさぁああああああ——————————!!!」
「あわわわわ」
「シロさん! もうやめてあげてください!」
「シロ! そりゃ、おまえの言っていることもわかるけどさ、ほ、他にどうすりゃいいってんだ! 俺は料理人だ。俺たちにできることは、料理だけだろ?」
素晴らしい志。
それは職人として好ましい気質だと感じる一方で、怠惰でもある。
「違うよヒートレオン。ヒートレオンは料理人じゃない。いや、正確には、料理人であるだけじゃないんだ」
「はぁ?」
「ヒートレオンは、灼熱酒場のオーナーだろう」
であるならば、できることはもっとあるはずなのだ。
ヒートレオンは顔を紅潮させて息を呑んだ。きっと彼にも思うところがある。
「し、しかしよ。おまえのいう通り、俺たちの仕入れ能力じゃ……よ。悔しいけど……」
頭を抱える。
この一週間、ヒートレオンは何を口にしていたのか。
「このスノーホワイトの素晴らしい粉を仕入れられるのはヒートレオンだけじゃないか」
僕たちには、アジノ乇卜がある。
「そ、そりゃアジノ乇卜は素晴らしいさ。でもよ。どうやって食って貰えばいいんだよ! 誰も店にこねーのによ!」
そう。
灼熱酒場には知名度がない。
だからこそ、自分たちだけでなんとかしようというのは理想の傘に隠れた虚構。
「いいかヒートレオン。動画配信者には、視聴者を増やすためのとっておきの方法がある」
「ど、どうが……はいしん? おまえ、頭がおかしくなったのか?」
「その方法は——コラボだ」
アジノ乇卜は調味料。料理を引き立てる脇役。
それが武器であるならば、それなりの戦い方がある。




