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異世界アジノ乇卜  作者:
君のための新食感

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24/40

行列のできようがない料理店

 ヒートレオンの経営する『灼熱酒場』は2階に空き部屋があり、そこに住まわせてもらえるとのことだった。

 住む場所のあてがついたことで気持ち的に楽になったのは間違いなく、案内された部屋のベッドに倒れ込むとそれだけで眠りそうになり慌てて飛び起きた。一緒に倒れ込んだアミノは気持ちよさそうに寝ていたけれど。

 小綺麗に片付いた部屋は最近まで誰か住んでいたのだろうか。


 居候させてもらうのだから、貢献しなければ。

 僕はさっそく下に降りると、ヒートレオンにカウンター越しの調理場に案内された。


「ところで白いブツなんだが、どれほど出せるんだ?」


 飲食店で使うとなれば、それなりの量を安定供給できなければならない。ヒートレオンが差し出した皿。僕はそこにアジノ乇卜を召喚する。


「すげぇな」


 しかし、パラパラと小さじ1杯程度の量が生まれたところで僕は急に力が抜けてふらついた。


「おい、どうした兄弟」

「……ええと……何だか疲れたみたいで……」


「ああ、シロさん、大丈夫ですか!」


 サラサも自室から降りてきたようで、僕の背を支えた。

 体の踏ん張りも効かないし、上手く言葉も出てこない。


「ああ、魔力切れですね。一晩寝たとはいえ、シロさんは先日たくさん能力を使ったので。そもそも不慣れなはずなのに能力を過剰に使えていました。ひょっとすると、召喚士の方が何かしたのかも……」


 テレコならば能力強化(バフ)くらい難なくこなしてしまいそうだ。


「おいおい頼むぜ。……まぁいいや、今日はゆっくり休めよ」

「……い、いや、働くよ。せっかくだし」


 ヒートレオンは呆れたような表情をした。


「じゃあ今日は、カウンターの端っこに座ってろや」


 それ以上のことはいまは難しいかもしれない。そこに座ってヒートレオンの仕事ぶりを見学しつつ、何かあったら手伝うことにしよう。


  ◆  ◆  ◆


「おいヒートレオン。ここは本当に、飲食店なのか?」


 その日の営業時間が終わり、ヒートレオンのまかない料理をサラサと食べながら僕はヒートレオンに訊ねた。足元ではアミノがミルクを舐めている。


「あたりめーだろ。何を疑問に思うことがある」


 僕は一日、カウンターでこの店の様子を確認させてもらった。その結果、僕は飲食店として致命傷と思える最大にして確実な問題点を発見することができた。

 それは今この瞬間に、指摘しておかなければならない。


「なぁヒートレオン」

「あんだよ辛気臭い顔して」


「——今日一人も客が入らなかったと思うんだが、気のせいか?」

「ああ? おいおい、目が腐っちまったか? それとも頭が狂っちまったか」


 ああ、なるほど。

 僕は魔力の使いすぎで頭の働きが弱くなっていたようだ。だからこそ、見えるはずの客が見えなくなっていたのだ。

 飲食店なのに、客がこないなんてあり得ない。だってそうだとすれば、それは店として成立していないじゃないか。


 ぽかんとした表情でそんなことを言ったヒートレオンに、少しだけ僕は安心した——


「どうみても客はいなかったじゃねーか」

「客いねーんじゃねーかよぉおおおおおおお————————————————————!!!!」


 認知、正しかったじゃねーか。

 僕はすぐにでも仕事を覚えねばと緊張していたにも関わらず、ついぞその機会に恵まれなかった。

 ヒートレオンもカウンターの奥でサラサと雑談してるだけだったしな!


「こんなんじゃ潰れるじゃねーか! なんでそんなに悠長でいられるんだ!」

「お、おいおい興奮するなよ兄弟。びっくりするだろ」

「あ、ああごめん」


 ヒートレオンは意外と繊細だ。

 僕の大声に本当に動揺したらしく、彼は息を切らしている。ごめんよ。


「寝泊まりできる場所の提供は感謝しているよ、ヒートレオン。だからこそ、この店が繁盛していて貰わないと困るんだよ。まさか、いつもこんなに客がこないってことはないよなぁ?」

「いつもだ」


「潰れんじゃねぇかよよぉおおおおおおお————————————————————!!!!」

「あわわ。あわわ」


 あわわ、じゃねぇよ。

 ヒートレオンは自分を落ち着けるように深呼吸をして、改めて話始めた。


「べ、別に悠長にしてるわけじゃねーさ。俺だって色々考えてる。だからこそ兄弟に声かけたんじゃねーか」

「僕?」


「ああ! お前のアジノ乇卜を見て、食べて、確信したね。その能力があれば俺の料理は一段階上になる。そうすればこの店が繁盛すること間違いなしだ!」


 頭を抱えてしまう。

 仮にアジノ乇卜を使って料理が美味しくなったとする。しかし、客がいなければ誰に提供するというのか。

 

「だからよ兄弟! さっそく、そのアジノ乇卜を使ったレシピを一緒に開発しようぜ! 俺たちの料理を客共が『うまいうまい』って食うのが、楽しみだ!」


 目を輝かせ、そんなことを提案してきた。

 その提案には致命的な欠点がある。


 しかし、彼の美味しいものを作りたいという気持ちは本当だろう。


 握手を求めるようにヒートレオンは手を出してきた。

 その手が、微かに震えている。ヒートレオンもきっと、ギリギリでこの店を運営している。


 僕はその手を握り返した。

 僕は理解した。僕のすべきことは、この店の立て直しだ。

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