嬉しそうなサラサ
勝手に味付けを変えて申し訳ない気持ちもあり、僕は店主に僕の能力を正直に話した。
「へぇ。アジノ乇卜って言うんだな。この白くてやばいブツは」
言い方やばいな。
「ぜんぜんやばくはないです」
「それにしても驚いたぜ。俺のピクルスが、そのブツを振りかけるとまったく別もんになってるじゃねーか。もともとこれは、酢の刺激を肴に酒を飲むための一品だ。でもこれは、ずっとまろやかで奥行きがあって、これ自体で成立してやがる」
豪快な見た目とは裏腹に、この店主はずいぶん味覚が鋭い。
その論評は僕の意見と相違ない。元々のピクルスも悪くはなかった。ただし、酒を飲まないサラサとの相性が悪かったのだ。
「ところで俺はヒートレオンってんだ。この酒場の店主をやってる。おまえらは、冒険者か?」
「…………ええと」
「はい、そうです!」
僕は自分の今の立場がわかっていなかったが、隣のサラサは勢いよく答えた。
「私たち、パーティを組んで一緒に冒険しています。昨日からですが……」
「そりゃ、ずいぶん初々しいねぇ。お嬢ちゃん、なんて名前?」
「サラサと言います」
「サラサか。おまえは?」
ヒートレオンの視線がギョロリと僕に向いた。
「シロオです。ヤマオクシロオ」
「へぇ。シロか」
この世界の人はシロオって発音すると犯罪にでもなるのかな?
ヒートレオンはニカっと笑った。
笑顔もずいぶん迫力があり、とてもカタギの人間には見えない。
「ところで兄弟。言葉崩せや。歳もそう変わんねーだろ」
「……ヒートレオンは何歳なの?」
「26だ」
年下かよ。
「しっかし冒険者の魔法が調味料を出すことだなんておかしなもんだなぁ。他にも色々出せるのか?」
「いや、これだけなんだ」
ヒートレオンは吹き出した。
「なんだいそんなもんじゃ戦えねーじゃねーか。お嬢ちゃんもこんな相棒じゃ大変だ」
「そんなことないですよ! なにせシロオさんのアジノ乇卜料理はとっても美味しいですから!」
「はは。確かにねぇ」
再びヒートレオンはピクルスをつまんで口の中に放り込む。
「こんなにいい能力があるのに、なんで冒険者なんてやってんだ?」
言われ、僕は首を傾げてしまう。
そもそも冒険者をやっているという意識も薄いし、そこに理由なんてない。
「シロ、悪いことは言わねえよ。おまえの能力は戦闘に向かねぇ。自分でもわかってんだろ? 今は魔王期で、現れる魔物もどんどん強くなってる。冒険者なんてやめちまえ。死ぬだけだ」
「い、いや、でも……。仕事がないんだよ。それしか」
なにせこの世界にきたばかり。
「そんなの、ウチで働きゃいいじゃねーか」
「……え?」
ヒートレオンは大きな手を僕に差し出し握手を求める。
「おまえのその能力は、料理のためのもんだ。だったら意味のある場所に身を投じるべきだろ? お前自身が」
唐突ではあった。
しかし、それは同時にありがたい提案だ。
僕は明らかに冒険者に向いてはいない。料理人として働かせてもらえるのであれば、この世界で僕の居場所を作ることができるかもしれない。
「もし泊まるとこがねーならここに泊まってもいい。どうだい?」
僕一人であれば、それは簡単な決断だ。
しかし、サラサ。
彼女は僕とパーティを組んで冒険をしていると、はっきり言ってくれた。
サラサの方を見た。
もしここで僕が決断すれば、彼女はきっと一人ぼっちだ。
サラサは、弾けるような笑顔を浮かべていた。
「それ、いいですね!」
「——いいんかい!」
「はい! ヒートレオンさん。私もお手伝いしますので、一緒に泊まってもいいですか?」
「もちろんかまわねぇ」
「よかったですね、シロさん! これで宿の問題が解決しました。私、どうしようかと思ってたんですよ」
サラサは冒険者とはいえ、貴族だ。ほいほい野宿をするわけにもいかないだろう。そうでなくとも、寝泊まりできる場所は大切に決まってる。
ただ。
「……サラサ、本当にいいの?」
サラサは冒険者として、名を上げることが目的のはず。
そうすることで、家族を見返してやる必要があるのだから。
飲食店の手伝いなんて、その目的のためには無駄な時間に決まっている。ギルドで依頼をこなす方が、彼女の目的にずっと近づくと思う。
「ヒートレオンさんのご好意に甘えましょう。シロさんと一緒だと、いいことばかりです!」
僕にはその笑顔の意味が、よくわからなかった。




