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異世界アジノ乇卜  作者:
最高の夜食

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16/40

【SIDE サラサ】おあずけ

「夜食にしないか? 何か、美味しいものを作るよ」


 シロの声が耳に届いたとき、サラサの心に浮かんだのは「食べたいなぁ」という純粋な欲望だった。

 シロが美味しいものを作ると言ったのであれば、本当に美味しいものが出てくるに違いない。


 洞窟で冒険者が口にするダンジョンの実。

 それは、ほとんど味がしない奇妙な風味のフルーツと聞いていたし、実際に食べてもそうだった。


 それが、シロの独特なカットと召喚戦士のスキルで、それこそ魔法みたいに美味しくなった。


 サラサが洞窟から出てこられたのもシロのおかげだ。ロードウルフもシロの調理したダンジョンの実のトリコになって、その隙に二人は逃げ出すことができた。


 だから、シロが何かを作るのであれば食べたいのは当然だ。


 サラサは自分の胸のあたりに手をやる。

 そこには赤い液体が付着していた。しかしその液体はまるで意思を持ったかのように一箇所に集まり、それは丸っこい形を成した。


 スライムだ。

 確かその直前、サラサはタルーノの攻撃を受けたはずだった。

 その衝撃で気を失いはしたものの、結果としてサラサは生きていた。スライムが庇ってくれたのだとサラサはわかる。


 なぜ自分を、スライムが庇ってくれたのだろう。


 スライムはなんとなくシロを見てソワソワしている。


 ああ、なるほど。

 この子もきっと、シロの料理に魅了されたのだろうなと、サラサは直感的に理解した。シロがサラサを気にしていたから、きっと自分を守ってくれたのだ。


 シロの料理は凄い。

 だって、こんなにすぐに仲間を増やすことができる。


 意識が完全に覚醒し、目の前の現実を理解した。

 シロは、タルーノによって踏みつけられた。


 サラサはタルーノに感謝していた。タルーノは家出して当てもなかった自分に手を差し伸べてくれた恩人だ。しかし、それはまやかしだった。タルーノは兄と共謀しサラサを殺そうとした魔人だった。


 そんなことって。


 どうして兄は魔人と共謀したのだろう。

 どうして兄は私を殺す必要があるのだろう。


 サラサは家族が大好きで、兄のことを尊敬しており、機会があればぜったいにシロの料理を食べてもらいたいと思っている。


 だから、そんなことは絶対に信じたくない。


 それでも、目の前に起きている現実を受け入れなければもっとたくさんのものがサラサの両手からこぼれ落ちる。


 いまこの瞬間、サラサは立ち上がらなければならなかった。


「先ほど殺したはずでは? サラサさん」

「さあ? 勘違いじゃないですか?」


 シロを見ると、彼も大量の赤い液体で真っ赤に染まっている。でも、大丈夫だ。あれはスライムの幕で、魔物が彼を必死に守った形跡である。


「さきほども申し上げましたが、サラサさん。あなたはご家名にとって不要な存在なのです。どうかクラウス様のご意向を汲み取ってはいただけないでしょうか」

「嫌です」


「…………大人しくガブリエラ家の繁栄に貢献しなさい! それができないから愛想が尽かされるのです」


 仮にそうだとしても。

 たとえタルーノが本当のことを言っているのだとしても。


「そんなことはできません」


 それでもサラサは、ここで死ぬわけにはいかない。


「私はお兄様と食卓を囲んで、美味しい食事を食べながら、お兄様の口から率直な話をききたいのですから!」


 タルーノは丸腰で飛びかかってきた。サラサの攻撃は与し易いと思ったのだろう。確かにいつもの方法での魔力吸収マジックドレインは通じそうにない。


 サラサは胸元から塩袋を取り出し、それを振り回す。

 塩袋の紐は細い鎖でできており、塩の重みは分銅の代わりになった。彼の顔面に向けて塩袋を遠心力を利かせて投げつけた。


祓魔師(エクソシスト)に前衛は似合いませんよ」


 拳を振り上げて殴りかかってくるタルーノのこめかみをかすめる。タルーノは拳を力任せに叩きつけた。しかし、それは割って入ったスライムによって無効化され、跳ね飛ばされた。


 タルーノはすぐに立ち上がるが、しかしふらつき足元がおぼつかない。


「……何かしましたか?」

「触媒多めでやってます」


 袋に入った塩の塊。

 こめかみをかすめるほどの距離。


 それはタルーノの頭から効率よく魔力を吸い取るのにうってつけだ。


「ここにきて無詠唱ですか」


 タルーノは自分の右腕を見つめているかと思うと、それは徐々に変形し始めた。右手が剣に早変わりだ。サラサは再び塩袋を構える。


 しかしそれはすぐさまタルーノの剣によって弾き飛ばされ、塩袋はどこかに転がった。鎖だけでは対処しきれず、さらに連撃が腹を掠めた。スライムもガードに参加してくれたが、しかし剣に対する防御は得意ではないようで、浅いもののサラサは出血し始める。


「しかし、無理です」


 武器は鎖のみ。サラサは懸命に振り回すが、それで形勢がよくなるはずもなく徐々にタルーノの刃がサラサを傷つけ始める。


「無理です無駄です。無駄無駄無駄。あなたはいまほんの一瞬生きながらえたとしても、その先に未来はないじゃないですか! なんですか? あの低ランク冒険者の助けでも待っているのですか!? これだからガブリエラ家きってのボンクラは!! あんなもの、本当に非力なだけのペテン師ではないですか。彼だって貴族であるあなたを利用しようとしているということが、どうしてわからないのですかぁ——!!」


 どんどん血を流し、守ってくれているスライムのダメージも蓄積し、反対にこちらに攻撃の術はほぼない。


 意味がない、とタルーノは言う。

 そうかもしれないと思う。


 でも、もしかしたら。


「いいじゃないですか。待ってみても」

「戯言がぁ! 彼が加勢に来て私に勝てるとでも!?」


「違いますよ」


 もしかしたら、出来上がるかもしれない。

 それならば。


「食べたいじゃないですか、シロさんの作った夜食が」

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